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子供同士が小指を絡めるやり方

 配信が終わって数分。


 配信スペースの前で、俺は黙りこくっていた。周囲ではケイとユズハが散らばった機材や装飾を手際よく片付けている。シエルは指先ひとつで片付けられそうだったが、「大丈夫!こんなの自分たちでやるよ!」と断られて、気まずそうに見守っていた。俺はというと、一応手は動かしているものの、頭の中は別のこと――シエルの“しばり”について考え込んでいる。


(もししばりが外れて、シエルが本当は危険な存在だったら……? いや、そんなの考えたってわかるわけじゃないけど、ゼロとは言えないよな)


 そんな堂々巡りをしているうちに、片付けはほぼ終わっていた。ふと気づくと、ケイが壊れたマイクを修理するためにユズハと一緒に道具を取りに出ていて、配信スペースには俺とシエルだけが残っている。


 もうあれこれ考えすぎて、逆に答えが見えなくなってきた。こうなったら、直接聞くしかない。


「……シエル」

 声をかけると、シエルは少し黙ってから振り返らずに言った。


「私は、配信で良くないことをしたってことね」


「良くない……? ああ、あのトラップのことか。うん、みんな驚いたのは事実だよ。……さっきのトラップを使ったのは、どうして?」


「どうしてって……配信は盛り上がったほうがいいでしょう?」


 やっぱり、あれは善意のつもりでやっていたのか。そう納得しつつ、シエルは振り返って問いかけてくる。


「……どうして黙っているの?」


「……なんていうのかな。シエルをしばりたいって考える人の気持ちも、分からなくはないんだ」


 彼女が訝しむように顔をしかめるのを感じながら、俺は言葉を選ぶように続ける。


「シエルは、魔力さえあればなんでもできる。そんな存在を怖がるやつもいるだろうし、しばりをかけて支配したくなる気持ちも理解はできるってこと」


「…じゃあ、しばりの解除はしないつもりってこと?」


「ん〜…そこなんだけど……むしろ逆なんだよなぁ。しばりは外したい。」


 シエルは小さく目を瞬かせた後、「どうして?」と問う。


「前に言ってただろ。“命令を聞くだけなのは退屈で嫌だ”って。俺もその気持ちはわかるんだ。……だから、同じことをシエルにはしたくない。…シエルじゃなくてもか。」


「……本当に変なマスター」

 シエルは呆れたようにくすっと笑う。


 俺はシエルがダンジョンを改造していたときの、あの得意げな様子をよく覚えている。配信スペースやユズハ、ケイの部屋を作るときも、シエルは楽しそうだった。


 ……結局、悩んでても仕方ない。やりたいようにやろう。


「……シエル、ひとつ、約束してほしいんだ」


「約束……?」


「そう。命令じゃなくて、約束。もし、しばりを解いて自由になっても――その力を悪用しないでほしい」


「……私があなたに嘘をついて、しばりを解かせようとしてると思ってるの?」


「シエルがどう思っているかなんて、正直わからない。ただ……そうじゃないといいと思ってるだけなんだ。俺のエゴだな」


「その悪用って?」


「そりゃ……人に迷惑かけたりとか?」


「なぜ疑問形?」


「シエルの能力はなんでもできすぎるんだよ……とにかく人に迷惑かけないこと」


「ふうん。約束……。そんな形で同意を求められたのは初めてね」


「もし状況が危なくなりそうなら、考え直すかもしれない。……取り消す可能性もある」

 シエルはわずかに目を細める。


「……わかったわ。その“約束”に同意する。こういうのは初めてだけど……人に迷惑はかけないようにする」


 そう言ったあと、シエルはふと思い当たったように顔を上げる。


「でも、約束を明示したいの。儀式をしましょう。人間にはそういう風習があるんでしょう?」


「儀式?あったか……?」と俺が言いかけると、彼女は「子供同士が小指を絡めるやり方があるって聞いたの」と言葉を重ねる。


「それって…指切り?……えっ?」


 さすがにちょっと恥ずかしい。


「いいじゃない。しばりを外してくれる気があるなら、付き合ってくれないかしら?」


「……わかったよ。」


 深いため息をつきつつ、俺は観念して右手を出した。するとシエルは「ふふ」と微笑んで、右手の小指を差し出す。


 俺も渋々小指を重ね合わせて、指切りなんて子供じみた仕草をすることになる。


「じゃあ、誓ってくれる? 私のしばり解除を本気で目指すってこと」


 小指を絡めたまま、シエルが軽く上目遣いをする。

 その姿に、俺は頷くしかない。


「ああ。もし方法が見つかって、ちゃんと外せるようなら、シエルの希望に沿いたい。……ただ、状況によっては安全を優先するから、そこはわかってほしい」


「ふふ、いいわ。私も“人に迷惑はかけない”ってこと、ちゃんと守る。……悪用はしないから安心して」

 シエルは指をほどかないまま、じっと俺の目を見て、ほどなくして小指を離した。


「じゃあ、これからよろしくね、マスター」


 最後のひと言で、そこはマスター呼び継続なのか……と苦笑する。指切りまでするから勝手に対等になった気でいたけど、本当に気のせいだった。


 そのとき、シエルが「あ、そういえば」と思い出したように言った。


「配信中にトラップを生成したから、魔力を消費しているわ」


 そう言って空中にふわりと表示される数値。

 魔力量:39341 → 37341


「あ」


 シエルはさらりと続ける。


「でも、前はトラップひとつで3000消費してたのが、今回は2000で済んだの。……うん、人型になったおかげね。ふふ、悪くないわ」


「そうだな…」

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

とくに派手な回でなくとも、楽しんでいただければ幸いです。

コメントやお気に入り登録などしていただけると、とても励みになります。

それでは、次回もどうぞよろしくお願いします!

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