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映えるコーデにしたいです!

 どうやらユズハとケイは「2人分の部屋」と言われてもピンときていないようだ。


「2人分って、もしかして私たちの部屋ですか?」


「そう。このダンジョン僻地にあるし、わざわざ街まで往復するのも面倒だろ。機材なんかも置いといたほうが楽じゃないか。だから部屋を作って、好きに使える拠点にしとこうと思ってさ」


「そんなに考えてくれるなんて……ありがとうございます、リクさん!」


 ケイも「最高じゃないっすか!」とテンションを上げる。


「マジでありがてえ! これで配信の準備もラクになるし、いろんな企画ができそうだな」


「よし――じゃあ……シエル、2人が休める部屋を用意してくれないか?」


 シエルは「2人分…どちらも寝るだけの部屋ということ?」と少し首をかしげる。


 どうやらイメージがつかみにくいらしい。


「うーん……もうちょっと余裕がある部屋がいい。二人が配信の合間に休める場所、って感じでさ」


「ふうん……」


 シエルが少し考え込んだあと、やがて「承認」と呟いて軽く頷く。


 すると――またしてもダンジョン全体がゴゴゴ……という音とともに揺れ始めた。


 さっき配信スペースが現れた廊下の中央付近。その左右の壁に今度は扉がじわりと浮かび上がるように生成され、揺れがおさまると、廊下を挟んで向かい合うように立派な扉が二つ、堂々と並んでいた。深い焦げ茶色の木目に金色の取っ手とさりげない装飾、上部には細かな彫刻まで施されている。


「これが……オレたちの部屋?」


 ケイが扉を開けると、中には高級ホテルのスイートルームを思わせるゴージャスさが広がっていた。大人が走り回っても十分余裕がありそうな広さで、足裏を包みこむように柔らかなカーペットが敷かれ、中央にはキングサイズかと思うほど大きなベッドが鎮座している。フレームには上品な彫刻が施され、その上にはふかふかな掛け布団と枕、クッションが贅沢に置かれていた。


 脇には配信向けの机や機材置き場があり、床には三脚や照明を固定するための金具が埋め込まれている。壁際の魔力端子らしきものからは、複数のカメラや音響機材を同時に動かせるよう工夫されているのがわかる。


 ケイも「すげえ、オレの家より快適じゃん!」とはしゃぎ、ユズハも「こんな部屋泊まったことない……!」と目を輝かせる。


 魔力量:45045 → 39341

 と、だいたい1部屋3000を消費したようだが、それだけの価値は十分あるだろう。


「すごいな……全部、考えられてる」


 ただ、あまりの完成度に感心する一方で、頭の片隅には妙な引っかかりがあった。


(さっきの配信スペースもそうだけど…この規模をほとんど一瞬で作り変えるのはちょっと怖いな。……今まではコア形態で、こっちが指示しなきゃ動かなかったけど……もしシエルが悪意を持って、自分の意思で暴走したら……こんなの、ヤバいどころじゃない)


 ふと目をやると、シエルは「ふふん、すごいでしょう?」と得意げな顔。そこに邪悪な気配なんて微塵も感じられなくて、かえって肩の力が抜けそうになる。


「配信の合間に使うんでしょう? だから機材を置けるよう耐荷重を施したわ。防音のために壁も厚くしてあるし……あの箱みたいなのは余剰魔力を自動で吸収してくれる仕組み。機材がオーバーヒートしにくいし、ノイズも減らせるはずよ」


「……もしかしてシエルはダンジョンを作り変えるのは嫌いじゃないのか?」


「え?」


「命令に従うだけの生活は退屈って言ってたろ。こういう改造とか、けっこう楽しんでるんじゃないかと思ってさ」


「ああ……そうね、工夫や配置を考えるのは好き。やってて楽しいの」


「でも、命令を聞くだけってのは嫌?」


「そう」

 シエルは小さく頷いた。


(……シエルは“しばり”を嫌がっていた。俺もプロで縛られてきたっけ。自由にやれないのが嫌……だから気持ちがわかるんだろうな)


 俺はもう一度シエルの顔を盗み見る。

 そこには悪意のかけらもなく、ただ自分の好きなことをやっているという満足げな表情に見える。


(……大丈夫なのか…?)


「ちなみに誤解されたくないけど、命令なら命令で手は抜かないから」


「そ、そうか…」

(どっちなんだ…わからない……)

 そのとき、部屋の見学を終えたケイとユズハがこちらに近づいてきた。


「ところで、次の配信っていつにしましょうか? さっきの攻略配信終わったばっかりですけど、スケジュールは決めておきましょう!」


 思考が一瞬停止する。


「……や、……」


(……今さら「やめよう」って言っても、配信を中止したところでシエルのしばりが解けるわけでもない)


「や? どうかしたんすか?」


「いや……」と誤魔化しながら話題を切り替える


「……一応、シエルの刻印が配信で映らないようにしたいんだけど……」


 あの刻印が堂々と映ったらさすがにヘンだ。ファッションと言えなくもないだろうが...それでも余計なものは見せないほうが良いだろう。


「なるほど! じゃあ衣装も考えないとですね。刻印を隠すだけじゃなくて、映えるコーデにしたいです! ただ、服はいま手元にないので、ちょっと時間をもらってもいいですか?」


「そう…だな。じゃあ、よろしく」

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

とくに派手な回でなくとも、楽しんでいただければ幸いです。

コメントやお気に入り登録などしていただけると、とても励みになります。

それでは、次回もどうぞよろしくお願いします!

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