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私の魔力量は50000必要です

 1Fフロア、ダンジョン入口付近に俺たち4人は集まっていた。


 いままでは最低限のキッチンと風呂だけしか整備していなかったのだが、本腰を入れてダンジョンを拡張しないと、いろいろ不便が多すぎる。


「改めて見ると何もないな……」


 辺りをぐるりと見回して感想を漏らす。もともとなにもない辺境のダンジョンで、最初の頃に仮で作った部屋がひとつ、ふたつあるだけ。


 今まではキッチンと風呂があればなんとか生活できる……くらいの軽いノリで済ませていたのだが。


「そろそろちゃんと拡張するか」


 そう呟いてから、俺は人型のシエルに視線を移す。

 以前は“コア”に直接「これ作ってくれ」と言っていたけど、いまはシエルがその姿を取っているわけで……。


「どう頼めばいいんだろうな。昔みたいに“コア”に命令する感覚で言うのも…。今はシエルって感じで話すほうがいいのか?」


「私とコアは同じ存在よ。人型になっただけで、本質は変わらないわ。どちらでも結果は一緒」

 さらりと断言するシエル。まだ慣れないな…。


「…まずは拡張する前に、残りの魔力量を確認しよう。どれだけ余裕があるか知りたい」

 俺がそう言うと、シエルは宙を軽く撫でるように指を動かし、目の前に数字を投影した。


「いまの魔力量は……ご覧の通りね」


 魔力量:702 → 50112

 エリア数:6(深度2) → 11(深度2)

 モンスター数:10スライムのみ


 今回、深度は増えていないみたいだ。元のエリア数が6なのはダンジョン攻略配信でぶち抜いて1エリアにまとめたからで……


「ん……?」


 シエルが出てくる直前、確かマナチャが爆上がりして、魔力量は一瞬だけ10万を超えていたと思うのだが。


「……気のせいか? もっとあったような記憶が……」


 その疑問を口にすると、シエルはすこし言い淀みつつ答えた。


「私の肉体を生成するのに5万ほど消費されたのよ。」


「5万!?」


「省エネモード(コア形態)から人型になるには、それくらいかかって...仕様なの。」


「仕様……そりゃ、人型になるって言われたらタダってわけじゃないだろうけど」


「そうね、ごめんなさい。それなら私が人型になってよかったという証明をするわ」


「証明……?」


「人型になったおかげで、これまでよりずっとダンジョン改造の効率がよくなったの」


 そう言うシエルにケイとユズハが横で「どういうこと?」と言いたげな顔をしている。


「見たほうが早いでしょう? マスター、何か作りたいものを命令して」


 こんなふうに面と向かって「命令してくれ」と言われるのは、言って不思議な気分だ。コアのときは気にも留めなかったのに、“人”に命令するとなると、どうも抵抗がある。


「……配信活動を本格的にするには、やっぱり配信スペースが要る。……だからまずは、配信スペースを……」

 そこまで言いかけて、つい言葉が詰まった。


 シエルは「ちゃんと言って、マスター。これまでみたいにちゃんとね」


「……配信スペースを作ってくれ。ちゃんとカメラや機材を設置できる感じで頼む」


 シエルは淡々と「承認」と呟くと、小さく頷く。


 そのとき、シエルの胸元――赤い刻印がわずかに光った。

 命令に反応して光ったんだろうか。


(本当に“しばり”があるんだな……)


 シエルは視線を落とすと、目の前にそっと手をかざした。次の瞬間——

 ゴゴゴ……と、ダンジョン全体が微かに震え始める。まるで大きな生き物が身じろぎしたような感覚に、思わず息を飲んだ。


 見ると、フロア中央の通路がぐっと押し広がるように歪んで、奥から新しい部屋がせり上がってくるように形成されていく。

 壁も天井も、まるで粘土のようにどんどん変形していくのだ。


「おお……!」


 やがて、ダンジョンの震動がおさまると、シエルは手を下ろした。


 一目見ただけで配信スペースだと察せるのは、壁と天井の一部が特殊な透明な板で覆われているからだ。外側から機材の配置まで見通せるその素材は、普通のガラスとはどこか違う淡い輝きを帯びている。


 まるでラジオ局の収録スタジオのように、透明な板ごしにスペースの様子を丸ごと眺められる造りになっていた。


「すごい……! めちゃくちゃ本格的じゃないですか!」


 興奮混じりの声を上げたのはユズハ。そこには最新の機材がずらりと並び、配信に必要そうなものが一通り揃っていた。


 魔力で投影されるスクリーンや、背景を好きなように変えられるらしい仕掛けまで備わっている。

 マイクスタンド、照明、カメラ――とにかく配信に必要そうなものがすべて揃っている。


 ユズハは魔導端末を手に、部屋の内部を撮影していて、ケイも「マジで夢みたいだ」なんて言いながら、端末を操作している。

 ここまで整っていれば、どんな配信でも余裕でこなせそうだ。


 シエルは「配信スペースに使った魔力はこんな感じ。エリアは2つほど統合してる」と、再び空中に数字を映し出した。


 魔力量:50112 → 45045

 エリア数:11(深度2) → 9(深度2)


 以前は風呂で7000、キッチンで10000と使っていたから、この規模で5000程度の消費は、魔力効率が良くなっている気がする。


「……シエルの言ったとおりだな」


 つぶやくと、シエルが「ふふん」と得意げに胸を張る。


「コア形態だと感覚が制限されてて、何をするにも余分な計算が必要なの。今は人型だからここはもっと広くとかこういう仕掛けって感覚でわかるから、無駄に魔力を使わずに済むのよ」


「たしかにこれなら人型になっておいたほうが良い、のか。わかったよ、シエル」


 そう言いながら、俺は配信スペースをぐるりと見回す。


 そして振り返り、「じゃあ次は……2人分の部屋かな」と口にした瞬間、ケイとユズハが「ん?」と首をかしげた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

とくに派手な回でなくとも、楽しんでいただければ幸いです。

コメントやお気に入り登録などしていただけると、とても励みになります。

それでは、次回もどうぞよろしくお願いします!

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