コアから女の子が!
さっきのユズハの行動は、まるで見当がつかなかった。
とはいえ立ち尽くすわけにもいかず、とりあえずケイとユズハが向かった先と同じ――応接室へ足を向ける。
ドアを開けると、そこではケイが機材の片付けを進めていて、ユズハも黙々と手伝っている。
俺が入ってきたのを感じたのか、ユズハがぱっと顔を上げるが視線が合うや否や、またそそくさと目をそらしてしまった。
(……まあ、さっきほどテンパってはなさそうか…)
そう思ったところでケイがちょうどこちらに気づいて声をかけてくる。
「そういやさ。さっきのあれ……どうやってやったんですか? ほら、ハヤトをバッと倒したやつ。あれ絶対ただの素手じゃないすよね?」
「ああ、あれか……別に、大したことじゃない。ちょっと魔力を使ってるだけで……説明しても分かりにくいと思う」
「ちょっとで”ああ”なる!? いや、そこを詳しく! ああ、次コラボしたときにさ、鍛えてもらってそれを配信、っつー感じでどうですかね?」
「……そんなの、視聴者が喜ぶか?」
なんとなくこの流れ、前にもあった気がする。
「喜んで楽しんでもらえるかどうかは、オレたち次第でしょ!」
「...それもそうだな。じゃあ、ちょっと考えてみるか」
「お。リクさんも乗り気!いやあ、燃えてきた!次も盛り上げるんでよろしく!マナチャも期待しておいてください!」
「わかったって……あ、そうだ。マナチャだ。確認しないと」
「おー楽しみっすね!ユズハも見るだろ?」
「う、うん…!」
ケイに呼ばれて、ユズハがおずおずと近づいてくる。気にはなるらしい。
「……じゃあ、コアに……」
そこまで言って、はたと手が止まる。そういえば、ケイに“コア”の詳しい話はしていなかったんだよな。
コアが普通のダンジョンコアとは違うってことを、知られても良いのか?
「? なんすか?」
俺は一瞬ためらったが、まあダンジョンの最深部に据え付けられているはずのコアを見ても特にツッコミもないし、「少し魔力を注ぐだけ」なら問題はないだろう。
「……いや、なんでもない」
そう言って、魔導端末を立ち上げ、稼いだマナチャをコアに注ぎ込みはじめる。数字がぐんぐん動いていくのが見える。
「いやあ、でも今回の配信めちゃくちゃウケたよなー。マナチャもいい感じに入ってんじゃないですかね」
たしかに、数値は前回よりはるかに多い。魔導端末の画面には、魔力量がリアルタイムで増えていく様子が映し出されていた。
――1万……2万……3万……。
画面の数字はまだ勢いを失わず、5万、6万と次々に跳ね上がっていく。
そのカウンターはぐんぐん伸び――
「おお、10ま……」
その瞬間――
バチンッ!
まばゆい閃光が部屋全体を包む。
な、なんだ!?
「え、え、えっ!?」
「うお、まぶしっ!」
ユズハとケイが同時に悲鳴を上げる。俺も思わず目を細めた。
まさかコアが暴走!?
光が収まるのはほんの数秒後。
気づけば、目の前に……誰か立っている。
「……は?」
白い髪を腰まで垂らし、漆黒のワンピース姿の女の子。
どこか儚げな雰囲気なのに、冷やかな青い瞳がこちらをじっと見つめてくる。
「……ようやく会えたわね、マスター」
少女は静かに微笑み、一歩だけこちらへ近づく。
「え? 俺……?」
ユズハが「どういうこと……?」とまん丸い目をして、ケイも「マスター……!?」と硬直している。
彼女は淡々とした口調で言った。
「あなたが魔力を注いでくれたおかげで、こうして姿を現すことができたの。……本当に、待ちくたびれたわ」
魔力を注いで……?
そして妙な沈黙が一瞬。
「え、えええ……!?」
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