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まったく情けない話だな

 配信が終わり、俺たちは落ち着かないまま機材の片付けに取りかかっていた。 つい先ほどまで、ケイが落とし穴に落ちる様子が配信されていたのだが、いまは装置類を撤去しながら盛り上がっている。


「いやー、あれは不意打ちすぎたわ!」


「ケイくんのリアクション最高だったよ。コメントも大ウケだったし!」


「ちゃんと説明してただろ?」


 そんな賑やかな空気の中、あとは1Fの応接室へ戻って、マナチャの確認でもしよう……そう思った矢先、前方に人影が現れる。


「……リク。」

 そこにはエリカと、見知らぬ若い男が立っていた。


「エリカ……? それと……」


 隣の男は誰だ?

 男はギルドの紋章入りマントに、そこそこ立派な剣を下げた若手冒険者といったところで、見覚えはない。


「……どうやってここが?」


「それは……ハヤト。この子が、あなたを探し出してくれて……」

 エリカがうつむいたまま紹介すると、その男――ハヤトが薄く笑った。


「はじめまして、リクさん。あんた、自分で思ってるより冒険者の間で有名ですよ。」


「……有名?」


「そりゃあ、Sランクに上がったばっかのプロがパーティを辞めて、配信者になってんだから。あとそっちの……ケイってやつが。」

 とハヤトがケイを指差す。


「全く新しくて見たことないダンジョン攻略やるなんて吹いてるのをたまたま見つけたんですよ。……そしたらあんたの名前もあったってわけ」


 ケイは「ああー…オレなんかやっちゃった感じっすね」


「ダンジョンの場所は非公開になってたけど、そこはギルドの情報網を辿れば、簡単でしたよ。」


 ユズハが苦笑まじりに言う。

「……配信で場所は伏せたつもりでも普通に特定されちゃいましたね……」


「しかしまあ、ほんとに野良ダンジョンですか、ここ。 オレが攻略してきたダンジョンでは見たことがないけど……」

 ハヤトはあからさまに探るような口調で言うが、エリカが遮る。


「ハヤト。」


 ハヤトはああそうでしたとばかりに肩をすくめて、

「すみません。オレはこの場所をガイドするだけでした。約束通りあなたのパーティに入れてくださいね。」


「言ったでしょう、グレンに相談するだけよ」


 ……そういうことか。俺の抜けたSランクパーティの席を狙って、エリカと交渉したんだな。


「ここに来た理由は、想像つくと思うけど……リク、パーティに戻ってほしい。」


 横でユズハが小さく「え……?」と声を漏らした。彼女の目が、一瞬こちらをうかがっているように感じる。


 たしかに、ここまで来るなんて、理由はそれしかないか。


(ステラが結婚して、俺がショック受けて……あのときは本当に何も考えられなかったっけ。結果、パーティを……)


 思い返すと、まったく……情けない話だな。


「……あのときは悪かった。パーティに迷惑かけたし、外されても仕方なかったと思ってる」


「それなら、戻って。グレンには、私から言う」


「……戻る気はない」


「まだ、その…ステラという子のことが忘れられないならリクが落ち着くまで、私は」


「違うんだ。……ステラのことがなくても、俺はパーティには戻らない」


「どういうこと?」


「……楽しかったんだ。配信が。」


「配信?」


「みんなと…ユズハとケイとやる配信が楽しかった」


 突然呼ばれたケイは自分を指さして「オレ?」と目をぱちくり。

 ユズハは目を丸くして「リクさん…」と驚きと嬉しさが入り混じった顔をしている。

 エリカは苦しそうな表情をして、絞り出すように「……そう……」とだけ答えた。


 そこへ横からハヤトが、露骨にあきれたような顔で割り込んでくる。

「はあ?意味がわからない。配信はプロだってやってる。プロの攻略配信より楽しいって?」


「プロだろうが、思い通りにいかないことは山ほどある。モンスターを華麗に倒すとか、わざとピンチを作るとか、当たり前だった。」


 ……思えばステラにハマりだしたのも、そういう縛りのような要望が増え始めてからだったな……


「プロじゃないから自由なんだ。だから戻らない。今は...ここで、みんなと一緒に自分が楽しいと思うことを、配信をやるのが楽しい。」


「あんた、Sランクってのがどれだけ貴重か分かってんのか? 年間で何人取れると思ってる? ギルドの全面バックアップにスポンサーの援助、金も名声も手に入るんだぞ。むしろ今の冒険者にはそれくらいしか成り上がる方法がないっていうのに。オレはそれを目指してAランクまで上り詰めたんだ。それを…“楽しいから”って簡単に捨てるわけか!」


「俺にはそれだけで十分だ」


「はっ!……そんなこと言って、パーティに戻っても実力を出す自信がないんだろ。Sランクに上がったのも、グレンさんにキャリーされただけじゃねえのか?」


 俺は軽くため息をつき、エリカに目を向ける。

「エリカ、もういいか?」


 エリカは迷うが、やがて「……わかった……」と苦い表情で頷く。


 このまま帰る流れになる――はずだった。だが、ハヤトは納得しない。


「エリカさん!こいつはパーティに戻らない。じゃあ、今、正式にオレをパーティに入れてください。」


「だからそれは、グレンと...」


「リクを倒したらグレンさんに相談するまでもなく実力を示したってことになりますよね。」


 さすがに俺は口を挟む。

「お前、本当にそれだけの理由だけでここに来たのか。」


「それが何か? Sランクなんて誰でもなれるもんじゃない。チャンスがあるなら何だって使うさ」


「だからって、パーティに入っただけでSランクになれるわけじゃないだろ」


「実績を残せばいいんだよ。Sランクのパーティに入りさえすれば、ギルドもオレを認めてくれるはずだ」


 ……馬鹿げた話だ。


 エリカが静かに口を開く。

「...やめなさい。...あなたでは無理よ」


 それが逆にハヤトに火をつけたらしい。剣の柄へ手をかけると、まるで見せつけるように魔力を込め始めた。

 刀身に真紅の電流がバチバチと奔り、周囲が焦げそうなほどの熱気を帯びる。ハヤトの足元から熱いオーラが渦を巻くようにゆらめいている。


「な、なんかすっごいヤバい雰囲気……」ユズハが息を呑んで、隣のケイも「うわあ……」と思わず後ずさる。


 たしかに、Aランク冒険者が術を使えば、ここまで派手にはなるだろう。

 “映え”重視だな。


「やめておいたほうがいい」


 ハヤトが剣を構えながらニヤリと笑った。

「あんたが負けるから止めろって? はは、笑わせんな」


「……お前が負けるからだ」

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

とくに派手な回でなくとも、楽しんでいただければ幸いです。

コメントやお気に入り登録などしていただけると、とても励みになります。

それでは、次回もどうぞよろしくお願いします!

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