Sランクパーティ、大敗劇
Sランクダンジョンに配信の実況が甲高いトーンで響き渡る。
「ああっとー! ここで全員がダウンです! なんということでしょう、ここはまだ第二層です! やはりSランクダンジョンは難易度が高かったかぁ!?」
広大な空洞の奥に鎮座するフロアマスターは、巨大な竜人モンスター。頭が天井に届きそうなほどの巨体と、岩のように硬質な鱗で全身を覆われている。
「しかし皆さん、ここで思い出していただきたい! 相手は強力なモンスターとはいえ、すでに攻略法が確立されたいわば“テンプレ化された”フロアマスターなんです。しっかり動きを見極めて攻めれば、ふつうならこんな序盤で全滅する相手じゃないはず! いやはや、どうしてこんな展開になっちゃったんでしょうかねぇ……!」
相対するグレン、エリカ、ニール、カリンの4人は地面にへたり込んでいる。配信用の浮遊型カメラがパーティを旋回して、Sランクの威厳も何もない姿を映し出していた。
コメントが一気に荒れる。
『え、負けたの?』
『雑魚すぎワロタ』
『Sランクとは思えない戦闘、スポンサー大丈夫か?』
『グレン様、どうしちゃったの……』
グレンは地を睨みつけながら、唇を噛んで唸る。
「くそっ……! こんなに手こずるなんて聞いてないぞ……」
しかし、エリカは横目でグレンの姿を見ながら、まったく別のことを考えていた。
(……いままで苦労なく攻略が成功してきたのは、リクがいたから)
エリカはそう実感せずにいられなかった。
思い返してみれば、リクはいつもパーティが「華やか」に見えるよう先回りして動いていたのだ。
強力なモンスターとの戦闘でも、リクは自分が先に仕掛けて相手を弱らせ、その隙に仲間たちが華麗なフィニッシュを決めやすいよう、タイミングを整えてくれていた。
しかも、その「下準備」をしている最中もリクはほとんど目立たない。いつだって先に動いて隙を作り、派手な見せ場は仲間に譲っていた。攻撃のタイミングすら、まるでこちらの出す合図を把握しているかのように合わせてくれた気がする。
自分なりに必死で“リクの代わり”をやろうと試みたけれど、あれほど先読みをしながら立ち回ることが、どれほどすごい芸当だったか……初めて身をもって思い知らされた。
(リクが抜けた穴の大きさが、こんなに痛いなんて)
まもなくモンスターの口からブレスを吐かれようとしてる。グレンたちにはもう防ぐ術がない。
しかし、強烈な炎に焼かれる寸前で、転移魔法の渦が四人の足元を巻き込んだ。
「ここでサポーターエスケープ入りましたー!攻略失敗!力をつけてまた挑戦しましょうね! 配信はここで終了です!」
実況の声がそう告げた瞬間、視界を眩しい光が覆い、パーティ全員が外へ転送されていく。
コメントには
『どんまい』
『次がんばれ』
『攻略するダンジョン間違えたね』
『さすがにないわー』
など、励ましというより半ば呆れたような声があふれていた。
◇◇◇
「くそがあああっ……!」
ダンジョン入口に放り出されたグレンが荒々しく叫んだ。
Sランクとは思えぬ惨敗だった。スポンサーの目論みでは“華麗に討伐を魅せて視聴者を沸かせる”はずだったのに、結果は最悪。
地面に手をついたままのカリンや、険しい顔のニール。エリカも唇を噛みしめながら立ち上がれずにいる。
沈黙を破ったのはニールだった。
「どうすんだよ、次……。また来週も配信予定あるぞ」
エリカはグレンに意を決したように言う。
「……グレン、リクをパーティに戻しましょう。今ならまだ……」
「戻すわけないだろ!」
声の震えが、悔しさと苛立ちを物語っている。
「あいつはよくわからねぇアイドルだとかにうつつを抜かした大馬鹿だ。呼び戻すなんて考えられるか!」
グレンのプライドが邪魔をしているのは一目瞭然だ。
「でも、今回みたいに負けてスポンサーが離れたら……わたしたちどうなるの?」
カリンの問いかけに誰も答えられない。沈黙だけが場を支配する。
(……このままじゃ何も変わらない。今さらだって、わかってる。でも……リクを戻さなきゃ、私たちに未来はない)
「...だったら私が動くしかないわ」
エリカは自分にそう言い聞かせた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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