52.無害なモンスター
青年の名は、チャーリーと言った。空手を趣味としている心優しい青年だ。
彼は、倒れている彼女の方に近づいて、彼女に手を差し伸べた。
キャサリンは大人しく彼の手を握って起き上がった。
チャーリーは、キャサリンに向かってこう言い放った。
「君は一体何者なんだ?見た目は、中学生みたいだけど、見たところ、人間じゃないよね?」
彼女は目を伏せて観念したような表情をした。
「その、私は、人間を襲うモンスター…」
「あんた、その調子じゃ1人で生きていけないだろ。もし良ければ僕の家に来るかい。まあ強要はしない。今あったばかりで、信用しろってのも無理な話だしね。」
彼女は黙って頷いた。
チャーリーは自宅で彼女にお茶を用意した。
「あの…どうして? 私は化け物だし、あなたを殺そうとしたのよ。」
「あんたが心配だからだよ。実はね、僕は空手やってる人の中でもとても弱い方なんだ。でも、楽しくて辞められなくてね。僕にあっさりやられちゃうようじゃ、人間を襲うのは難しいよ。世の中には僕以上に何倍も強い人間がたくさんいるんだ。」
キャサリンは再び目を伏せた。
「人間に心配されるようじゃ、おしまいね。私。でも、実際その通りね。もうあんたで3人目よ。人間を襲うはずが、私の方がやられちゃって…」
「僕にも君と同じくらいの年齢の娘が痛んだ。もう十年前になるかな、ある日交通事故に巻き込まれてね…あんなことさえなければ…」
「あの、ごめんなさい。あなたを襲おうとしたうえに、こんなご馳走まで頂いちゃって。」
「あははは。君、本当に、1人じゃ生きていけなさそうだね。自分の獲物である筈の人間に対し罪悪感を感じてしまうなんて。」
「私も、私も嫌なのよ、こんな生活は。モンスターに望んで生まれたわけじゃないのに、生きるためには人を襲うしかない。モンスターの中の落ちこぼれと呼ばれ、人間を上手く仕留められずに恥ずかしい思いも沢山して…」
「わかった、わかったよ。僕が悪かった。言い過ぎたよ。」
涙目のキャサリンに向かって、チャーリーは言った。
「でも、悲観することはないよ。君は結果的にまだ人間を殺したり、人間にケガさせたりはしていない。人間と一緒に仲良く暮らせる方法を考えよ。」
チャーリーは目の前の少女に自分の娘の姿を重ね、いつの間にか優しい言葉をかけていた。