32.今度の敵はなかなか手強いな
今度現れた獣は先ほど述べたように、人の身体を移動できる。
どういうわけか奴は最初サファイヤの身体の中に潜んでいた。
俺は彼女と行動を共にすることにした。
彼女は俺に話しかけられると、途端に顔を輝かせた。ソフィアやジビアの奴と同じだな。
サファイヤは俺に積極的に話しかけてくる。
まあ、モンスターを見張っているこちらとしては好都合だ。
しかし、見張っているからと言って、奴を倒せるわけではなかった。
奴は次から次へと人から人の身体へと移動していったのだ。
俺はアスカに協力を要請して、獣を見張ってもらうことにした。
鳥は、野生の勘が強いためか、人間の身体の仲間で見えるらしいからな。
それに、動物の類は世界が再編されても記憶を失わないらしい。
何とも便利な設定だな。
だから、アスカは俺のことや、ミアのこと、そして、ジョセフたちが勇者パーティーを開いていたことも全て覚えているそうだ。
もちろん、これは俺とアスカだけの秘密だけどな。
それにしても、今度の敵はなかなか手強いな。
とても一筋縄ではいかなそうだ。
だが、相手にとっても制約は多い。俺たちが奴を監視している限りは、迂闊に人を襲えないからな。
だが、逆に奴を見張っていることによって、俺たちも動きが固定されてしまう。
一体、どうするのが最善なんだろうな。
俺はまだサファイヤと行動を共にせざるを得ないわけだし。
なぜだか、2人で映画館に行くことになってしまった。
さすがはサファイヤだな。
人を説得するのは得意そうだ。
内容は良くあるテンプレの恋愛映画で、俺にとっちゃ単調に感じた。
だが、彼女は映画が終わるころには大粒の涙を流していた。
俺は常に冷静だからな。
その場の感情に流されるような、愚かな真似はしない。
しかし、男子と2人きりで映画に行く女子高校生って、どんな心理何だろうな。
まさか、彼女も俺に告白しようとしてるんじゃ…
そう思った瞬間、彼女の唇が俺の唇に触れた。
公衆の面前で堂々とキスをするなんて、何とも大胆な行為だな。
ぶりっ子であざといと言われる彼女らしい。
サファイヤは背が小さい。そのことは自分でも気にしている様子だ。
しかし、それを除けば全体的なスタイルも良い。
普通の男子なら、こんな大胆な行為をされたら、即落ちすること間違いないだろうな。
だが、そんな手は俺には通じない。
大体、サファイヤは可愛い子ぶっていることによって、少し損をしている感じを受ける。
もとからそこそこ可愛いのだから、変に可愛い子ぶらず普通でいれば良いのに…
俺の冷静な様子に、彼女は少し焦りを覚えたようだ。
「あなた、うちのことどう思ってんの?」
「どうって?」
「ほら、その女として…」
「そりゃあ可愛いとは思うぜ。」
「じゃあ、その、あれよ。うちのこと、好き?」
「好きか嫌いかで言えば、普通だな。」
俺の発言に彼女の顔が凍り付いた。
「なんで?うちの何がいけないのよ、まさか、ルーカス君って、女の子に興味ないわけ?」
「いや、俺はそもそも恋愛感情というものが良く分からないからな。特に何もしなくても女の子がたくさん寄ってくるし。」
サファイヤは少し悲しげな表情を浮かべて言った。
「そう、確かに、モテそうだもんね、ルーカス君。でも、うちは諦めないから!」
それがその日の彼女の最後のセリフ。
俺とサファイヤはそこで別れた。