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第九話:復讐の二つの痛み

『ランバード・・・俺が、このメイル「ダブルペイン」と共にお前を討つ』


「・・・聞き覚えのある声だな」

ランバードが最初に思ったのはそれであった。

自身と似た武器をもった黒いメイル。そこから聞こえる声。


『さすがは騎士団長。自身の関わった手ごまの声は覚えているというわけか』

そのセリフに、ある程度の予想が繋がる。

そうすれば、次期にその正体にも思い当たるというもの。

特に、自身が期待していた相手というのなら尚更である。


「思い出したよ。過去、逃亡した諜報員の1人ではないかな?・・・確か、ヴァイス君だったかな」

『本当にさすがですね。さきほどのセリフだけで思い出してもらえるとは』

「とある任務の後、行方を消した君がここにくるとはね・・・どうやら色々と話が繋がってきたよ」

次の瞬間、ランバードの雰囲気が変わった。


「君だな。リシリア第二王女のそばにいたという男は」

『そこまで情報が来てるとは驚きだよ。・・・俺がここに来た理由も予想できていたか?』

「恐らくは。第二王女からの依頼かな?それとも・・・別の所からの依頼か」

そう言いつつ、ランバードは魔銃の向きを黒いメイルに向けた。

『・・・どうやら、その程度までの情報しかないようだな。俺がここに来た理由はただ一つ。復讐だよ』

そう言い、ヴァイスも魔銃をラー・ファステリードに向けた。

「復讐か・・・まあ、そう来たとしてもおかしくないかな。だが、そんな小さい理由では私を止めるには足りないな」


『それを決めるのはお前ではない。・・・どちらにしろ』

「そうだね、どちらにしろ」


「『お前(君)の命運はここで終わる』」



次の瞬間、両者に動きが起きる。

片方は魔銃撃ち、片方は一気に機体を横飛びさせた。

轟音と共に地面の一角を破壊した魔弾、それは標的にはかすりもしなかった。

そして、横飛びしたメイルより放たれる魔弾。

それは、不自然な体制で撃ったにもかかわらず狙いを外すことなく目標に命ちゅう。


その目標は・・・ラー・ファステリードの魔銃。

大爆発と共に、左腕に持っていた魔銃が吹き飛ぶ。

衝撃で傾く機体。砲身が吹き飛び使用不能となった魔銃。

そして・・・その衝撃によって固定が外れた盾。


「・・・まさか、あの体制でそこまでの射撃をするとは予想できなかった。いったいなぜ・・・」

『どうやら、その魔銃の長所もわからずに使っていたようだな』

機体を起き上がらせながら、ヴァイスは視線を外すことなく言った。

『砲身と目標を直線にできればその魔弾の威力である程度の効果が望める。

大型故に、ある程度外れてもその威力だけで被害を出すことにも繋げれる』

「なるほどね・・・。標的に確実に当てるように撃つ必要性ばかり考えていたよ。小型の魔銃の癖が抜けていないという事か。だが・・・無理して撃った代償がなかったわけではないようだがな」

ランバードが言うように、ヴァイスのメイルの魔銃は無理な体制で撃った反動と地面に打ち付けた衝撃で破損していた。


ヴァイスのメイルは、それを一瞥すると・・・すぐにそれを捨てた。

「・・・どうやら、早々に武器を失ったようだね」

ランバードは確信していた。自身の勝利を。

相手は魔銃を失っている。自身は大きくダメージを受けているがまだ右側の魔銃と盾は健在。

盾は先ほどからの攻撃でダメージがあるが、それでも気になるほどではない。


しかし・・・次に起こったのは彼の予想していなかった光景だった。


目の前の黒いメイルが姿勢を低くした。

『その魔銃の最大の欠点を教えてやる・・・お前の最後に沿える形でな』

「・・・くだらん。この最強の力に欠点などあるわけがないであろう」

そう言い、ラー・ファステリードも右の魔銃を向ける。


(後一撃入れれば終わりだ・・・こちらに被害を与えた相手。確実にこの場で息の根を止める必要がある!)

そう思い、魔銃に魔力を送り・・・撃とうとしたときだった。

魔銃からの反応が返ってこないことに気づいたのは。

(どういうことだ?なぜ、魔力反応が・・・っ!?)

一瞬視線を右腕に向ける。そうして彼は気づいた。

魔銃に備え付けている魔石の魔力が枯渇していることに。

(ばかな・・・あれだけの攻撃しか行っていないのに、なぜ!?)


ファルサラよりもたらされた魔銃。それが採用されなかった最大の理由。

それは、通常の魔銃より魔力消費が圧倒的に大きかったこと。

大型化することにより、魔弾の着弾時の破壊が強大であり被害を拡大させる原因になりかねないという理由が不採用の決め手にされたが、それ以上に通常の魔銃に比べて魔石の消費が極端に増大することが理由であった。

両腕に2本持っていたとは言っても、すでに10機以上のメイルと戦闘を行っていた、それゆえの枯渇。

本来ならば、すぐに魔石の交換により再使用が可能になる。

しかし、彼のメイルのそれは簡単に交換できるような作りではなかった。さらに今は左腕を使用できない状態になっている。交換しようと思えば、まず装備を外し右手で交換を行う必要がある。


しかし、その時間は彼には与えられなかった。


突如、何かが地面をこする激しい音が響いてきた。

(この音は・・・魔導車のタイヤ?)

そう思い、視線を前に向けた時だった。


『最後に、1つお前の知らない真実を教えてやる』

声が聞こえた。

自分の知らない真実・・・?

そう思った次の瞬間、ランバードに驚愕の話がされた。

『ファステリード国王は、次期国王にお前を指名するそうだった』

「なっ!?馬鹿な!私に王位継承権は・・・」

『3年前の誕生日、第一王女はその席の最後で公表する予定だった。自身の王位継承権を放棄し、王国の未来を国王の推薦する人物に託すと』

ランバードは信じられないといった表情になっていた。


そう考えた時、彼の脳裏に国王の最後の言葉が浮かんだ。

(私は、お前に国王の座を)

そう言おうとしていたのではないかと・・・。


国王を慕っていたからこそわかったこと。その考えは恐らく間違いないであろうと思う感情。



それが、ランバードに決定的な隙を生み出した。


響いていた音がひと際大きくなった時、彼の意識は再び正面に向いたが・・・その時にはすでに遅かった。


目の前の黒いメイルが地面を滑るように疾走してきた。

そう認識した時にはすでに眼前に迫り、左腕を振りかぶっていた。

それに反応し、右肩の盾が正面からの攻撃を防ごうと稼働する。


激しくぶつかる拳と盾。結果は両方の破壊。

否。速度の乗った黒いメイル「ダブルペイン」はその腕を破壊しながらも突撃をし体当たりするように盾にぶつかる。

破壊される盾。そのままラー・ファステリードにぶつかる。

速度がかなり乗っていたこともあり、大きく体制を崩すメイル。

ぶつかることによって少し開く両メイルの間隔。しかし、ダブルペインの勢いは止まっていなかった。

速度と質量のぶつかりにより体制の崩れていたのはラー・ファステリードのみであった。


そのまま迫るダブルペイン。その右腕が振りかぶられる。


そして、その光景を見たランバードはある物を見た。


その瞬間、彼の脳裏に過去の光景が浮かんだ。




5年ほど前だっただろう。

1人の科学者が、ファルサラよりもたらされた魔銃の技術を欠陥と言い研究の中止を求めてきたのは。


その時、二つの自身の新しく考えたという技術を持ち込んできた。


それは


メイルの踵に魔導車のタイヤと同じ機構を付けることによる機動力の向上を狙った装備と

魔銃のみに頼らない戦術として、メイルの腕に可動式の打撃装備を付けるというものだった。


しかし、ランバードは大国からもたらされた技術を欠陥と呼んだことに怒り心頭だったので

その技術を「自分の地位だけを求めた愚作」として不要とした。


そして、その男は自分には不要とし解雇した。




今、目の前に迫る黒いメイル。

その右腕には腕を保護するように付けられた装甲と、その先端にひし形の突起が付いていた。

迫る中、そのメイルの足元に視線を向けると・・・そこには彼の予想していたものが存在していた。


(ダブルペイン・・・二つの痛み・・・そういうことか)


ランバードは、最初その意味を「既に殺害した王家の人間」と「今生き残っている王家の人間」からもたらされたものと思っていた。


しかし、それは違った。


それは


「自分が不要とした、メイルに与えられる2つの可能性を潰した」こと。


その考えに至った時、このメイルの製造者にも見当がついた。


(・・・なるほどな・・・お前の研究、見事なものであったよ)


そう言えば、あの男も自分が研究者の統括者に任命しようと思っていた男ではなかっただろうか?




そしてランバードは

復讐の拳を、その身に受けることになった。



1人の男の野望は

男の捨てた技術によって討ち取られたのであった。



ダブルペイン


元々この国で作られている標準メイルと同型機だったが、開発者の趣味が走って装甲の形状がかなり変えられている。具体的には、装甲が少し薄くなっていることと両肩や足など各所に風を逸らすように傾斜型の装甲が付けられている。両腕に可動式の装甲が付けられており、それが拳を覆う形で展開し打撃武器となるように作られている。踵にタイヤを仕込んでいるが、外付けのカバーを付けることによって初見では判別できないようにされている。


元々この国のメイルは他の国ほどメイルの開発費削減の動きがなかったこともあり、他の国のメイルに比べてそれ自体の耐久力やパワーは高い状態が維持されている。それ故に近接戦闘にもある程度対応できるようになっている。最も「本来の近接戦闘用に作られた」メイルに比べたらパワー不足ではある。


ただ一人の技術者が、ただ一人の男に復讐するために作られ

ただ一人の操縦者が、ただ一人の男に復讐するために乗るメイル。


本機の本当の名づけの理由はここにある。

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