第八話:騎士団 力の象徴 そして
その宣言の後、各街は混乱に見舞われた。
賛同した者達と、王家に忠誠を誓っていた者達との戦いが始まったのである。
一部の街では、騎士同士の戦い。
激しい剣のぶつかり合いが鳴り響いていた。
かつては共に国のために剣を振るっていた者同士、今はその剣を向け合っていた。
ある者は、以前自分の危険を救ってくれた騎士を。
ある者は、恋人ができたことを一緒に喜んで酒を酌み交わした友を。
ある者は、考えの違いにより説得できずお互い別の立ち位置となった恋人を。
それぞれ自身の信じる道のため、譲れない思いの為に斬り合い、そしてどちらかがその命を散らしていた。
そうした関係がなかったとしても、またそうした関係の相手ではなかったとしても、
音が小さくなるにつれて、1人また1人と騎士が血を流し倒れていった。
後に残るのは、ただ二度と戻らぬ日々と、その相手を斬り殺したという感触だけであった。
一部の街ではメイルによる戦闘となっていた。
魔獣の住処があるとされる森などが近くだったこともあり、配備されていた街。
ここでも己の信じた道を譲れない戦いが起こっていた。
同じ街に所属していた者同士、メイルを見ると相手がだれかわかるもの。
直接顔を見ているわけではない、それでも見知った相手に魔銃を向け合っていた。
そして、その余波は街にも被害を及ぼしていた。
盾で逸らしただけの魔弾、相手に向けたが手の震えか照準がずれて外れた魔弾。
それらが街の着弾し、家屋を破壊していた。
一部には逃げ遅れた人々が残されており・・・犠牲者がでていた。
それでも騎士たちは、戦いを止めなかった。
信じた道の障害を取り除くため、道を踏み外した騎士を止めるため。
その一心により戦闘を行い・・・結果として被害と犠牲がでていた。
強い国を作るため。
そのために行動を起こした一人の男の言葉は、魔獣以上の被害を生み出しかねない事態となっていた。
それを知っているのか知らないのか。
当の本人は、自分の宣言を忠実に実行するため、挑んでくる騎士たちの相手をしていた。
「と言っても、やはり我が象徴には相手にもならぬようだがな」
ランバードは、やはりこの力こそ世界を統べる力であると確信する思いを膨れ上がらせていた。
ラー・ファステリードは通常のメイルより巨大である。
それ故に騎士の攻撃は当てやすいようではあった。
しかし、彼らの撃つ魔銃の弾は、その盾によって防がれていた。
両肩に備え付けられた盾は自らの意思を持っているかのように動き、飛んでくる魔弾を防いでいた。
もちろん、複数から攻撃されたら全部を防ぐことはできなかった。何発かは命中していた。
されど、研究に重ねて作られた装甲は盾以上に頑丈であり、少しの傷をつけられるだけであった。
そして、その両腕に備えられた大砲型魔銃による攻撃。
大型化されたその魔弾は、騎士の盾を容易く破壊し、2発目でメイル自身も破壊していた。
「現状で、我がメイルに挑んできたものは10機。そのどれもが優秀な騎士であったと記憶しているが・・・それでもこのざまか」
当初の予想どおり、この力の前では無力であると思っていた。
そう考えていた時、11機目のメイルが眼前に現れた。
そのメイルは、彼がよく知るものだった。
それは、今のメイルに乗る前、自身の愛機としていたメイル。
そのメイルを渡した相手・・・
「アルガード副団長か」
『その通りです、ランバード騎士団長』
アルガード。名前が似ていることから親近感のわいた相手。
実力も申し分なかった故、次期騎士団長に推薦しようと思っていた男である。
『このメイルを突然譲渡された時は驚きましたが・・・今回の事態を付けて理解ができました』
「そうか。そして今、私の目の前に立っているわけだが・・・さて、お前はどちらかな?」
ランバードはある程度期待した回答を求めていた。
そして、目の前のメイルの魔銃が自分に向けられた時・・・彼は期待通りの回答が来たと思った。
『私の忠誠は王家に捧げております。そしてその先には国王その人。それ以上申し上げる必要はないでしょう』
「そうだな。そう来るとは思っていたよ」
そう言い、ランバードも魔銃を向けた。
『言葉では止められないでしょう。故に、力によって止めさせていただきます!』
「元、私の愛機。その力を越えてこそ、今の力が最高だと言う証明になろう」
かくして、2機のメイルの戦いは始まる。
アルガードは、事前に見ていた戦闘により、直線的に戦うのは分が悪すぎるということが分かっていた。
それ故に、彼はメイルを走らせた。
直線的にならぬよう、右に左に向きを変えながら。
美しかった庭園を自ら壊すことになろうとも、彼は走らせた。
そして、急制動し魔銃による攻撃を行う。
攻撃を防がれると予想したうえですぐにまた走り出す。
彼の予想通り、魔弾は盾に防がれていた。しかし、彼はその時の盾の動きを見ていた。
(あの盾は確かに自動で攻撃を防いでいるようだ。だが・・・忘れていないであろうか?それによっておこる欠点に)
自動で防ぐように動くが、防ぐその場所を細かく動かせているわけではない。
いくら盾と言っても、同じ場所に攻撃を受け続ければやがては蓄積されたダメージによって壊れるもの。
アルガードが狙っているのはまさにそれであった。
しかし、それに気づいていないランバードではなかった。
「よく動く。そして急制動を入れてとはいえそのタイミングでこちらに攻撃、それもまた見事な腕を見せてくれている。失うには惜しいとしか思えぬ腕だ。お前にそのメイルを渡したのは間違いではなかったよ」
その腕前には素直に彼は感心していた。
『ありがとうございます』
ただ一言返ってくる返答。
それにランバードは苦笑していた。
「しかし、慣れぬ戦い方をするものだ。あまり余裕がないようだな。・・・それ故に教えてやろう」
そう言い、彼は動きを止めされるために魔銃を下した。
少しして、アルガードは走るのを止めた。
それを見てランバードは言葉を述べた。
「一点で防ぎ続けることによる盾への蓄積ダメージで破壊。お前の狙いはそれだろうが・・・残念だがこの盾は特注品でな。通常の魔弾の威力であれば100発まで耐えれるように作られている」
『なっ!?』
「先ほどから来ている騎士たちの攻撃を合わせても・・・100の半分もいっておらんよ。さて、それでも破壊が可能だと思うのかな?」
『・・・っ』
通常の魔銃では、どんなにがんばっても20発前後撃てたらいいものである。
それをふまえると、彼だけで盾を破壊することはできない。
他の増援の騎士がきたらと思うのだが・・・戦い始めていくばくか経つのに誰も来ないという事は余裕がないという事だろう。
現状では、アルガード1人では勝てる要素が皆無であった。
アルガードは完全に動きを止めてしまっていた。
そこに撃ち込まれる弾丸。
気づき回避を取るが・・・一足遅かった。
轟音と衝撃に襲われるアルガード。次に来たのは体を打ちつけられる痛み。
命をつなぎ留め意識も繋ぎ止めたが・・・次の瞬間彼が見たのは絶望の光景だった。
自身のメイルの右腕が完全に破壊されていた。残骸すら見当たらないほどに。
当然、握っていた魔銃も・・・。
「これでおしまいだ。・・・今一度聞こう。私に協力する気はあるか?」
魔銃を向けながら、ランバードは質問した。
回答は・・・返ってこなかった。
「そうか・・・残念だよ」
そう言い、とどめを刺そうとした。
その時、魔銃の発射音が響いた。
次に起こったのは、ラー・ファステリードの防ごうと動いた盾にぶつかる魔弾。その爆風は通常のそれを上回っていた。
微妙に体制を崩すメイルに、アルガードは驚きの視線を向けていた。
それは、乗っているランバードも同様であった。
「この威力・・・通常のそれではないだと?」
それに気づいた彼は、視線を撃たれたと思う方向に向けた。
その先に、1機のメイルが立っていた。
黒をメインにし、赤色でラインの施された見たことのないメイル。
その手に持たれた魔銃を見た時、ランバードは目を見開いた。
それは、自身の装備しているのと酷似した大砲型魔銃であった。
先ほどの攻撃を受けた盾、騎士たちとの戦いの時からメインで動かしていた方ではなかったか?
そう思った時ランバードは、少しの動揺をした。
そんな彼に、そのメイルから声が届けられた。
『ランバード・・・アリュシア王女殺害、国王殺害、王位簒奪。そのまとめての裁きを与えにきた』
アルガード
ランバード騎士団長が認めた騎士。この男ほど、メイルの操縦に長けた人物を知らないとまで言われるほどの腕前をしている。ファステリード王国内どころか、近隣国にも知られるほどの人物である。