第三話:王国の影、闇に走る刃
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
そこは、とあるメイルの待機場所。
多くのメイルが整備されている場所。
時刻は深夜。
今は暗く、静かな闇の世界となっていた。
そんな場所に、2人の男はいた。
正確には、1人の男がもう1人の男に必死に何かを話していた。
時折メイルを指さし、その後また何かを。
しかし、相手は全く聞く耳を持っていない様子だった。
しばしそのやり取りがされていたが・・・肩越しに振り返った男が何かを言った。
訴えていた男は驚いた様子を見せる。
そのまま男は何かを言っている様子だったが、しばらくして話が終わったのかそのまま立ち去った。
その背中に必死に何かを話しかける男。
しかし、その歩みは止まることがなかった。
立ち去られ、再び静寂の世界になった場所。
男は崩れ落ちるように、床に四つん這いになり項垂れていた。
次の日から、その語りかけていた男の姿を見た者がいなくなったそうだ・・・。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「・・・近衛騎士に殺害された?」
ヴァイスは、信じられないという顔をしていた。
その発言に、リシリアは頷いた。
「はい。その人物は、第一王女に思いを募らせていたようです。それが抑えきれなくなり、襲い掛かろうとして・・・
逃げようとした王女を追い詰めた結果、バルコニーから転落させたと」
「それと、これは私の知り合いのメイドにその後聞いたのですが・・・王女の遺体は結局見つからなかったそうですね」
リシリアが説明をし、アトナが追加情報を提示した。
「・・・なるほど。辻褄はあってるな」
ヴァイスはそれを聞いて、頷いた。
しかし、彼は何かを考えている雰囲気でもあった。
「何か気になることでもあるのでしょうか?」
不審に思ったアトナが聞くと、彼はしばらくして口を開いた。
「他言無用で願いたいのだが・・・俺にもこの国の知り合いがいる。王城で勤めている騎士だ。
そいつの事前情報で聞いた近衛騎士と同一人物だとすると、少し食い違いがある」
「・・・それは?」
リシリアの質問に、彼は答えた。
「その騎士、第一王女への思いを諦めてメイドの1人と恋仲になったという情報がある」
「それが本当だとすると・・・不可解なことになりますが。それでも抑えきれなくなったという事がありえないとも言い切れないかと思います」
ヴァイスの話に、アトナは可能性はあると思いつつももう一つの可能性を提示した。
「かもしれない。・・・だが、この情報はかなり有力なものなのでな。どうしても襲い掛かろうとしたという部分に引っかかりができてしまう」
「・・・やけに、近衛騎士の弁護をしようとしますね?」
「そう聞こえるだろうが・・・話に聞いていた性格と合わなさ過ぎてな」
その後、彼は何かを考えるそぶりを見せつつ・・・沈黙した。
3人はそのまま無言で食事を再開、食べ終わった後はそのまま宿に戻ったのであった。
深夜。
そんな彼らの泊まる宿のそばで、3人の黒ずくめの男が視線を鋭くしていた。
「・・・」
3人は押し黙ったまま視線を固定していたが、宿の中の灯りがすべて消えたのを確認し顔を見合わせて頷いた。
そして、いざ行動を開始しようとした・・・その時であった。
「・・・寝静まった後にやってくるのは、夜這いか不審者か暗殺者だろうが。お前たちはどれだろうな?」
「「「!?」」」
そんな声が頭上から聞こえてきた。
3人が見上げると、陰に利用していた家の屋根に一人の男が立っていた。
その男は、昼間目標とした女たちと一緒にいた男であった。
一瞬固まったが、すぐに男たちは腰からナイフを取り出して構えた。
が・・・その刃が振るわれることはなかった。
構えた次の瞬間、頭上の男が投げた石を額に受けて気を失っていた・・・。
「暗殺者の方だったか。どうやら、何か裏がありそうだな・・・」
ヴァイスは屋根から飛び降りて、気を失った男たちを縛り上げた。
少し考えた後、彼はそいつらを自分の泊まっている部屋に運びこんだ。
その後、2人を呼んだ。
日中、食事の時から何か視線を感じていたヴァイスが気になって就寝したフリをしてもらっていたのである。
「・・・暗殺者ですか」
「どうやら、相手にはこちらのことが知られていると考えて問題なさそうですね」
リシリアの言葉に、アトナが頷いた。
「なにか、気になることがあるようだな」
その発言に、ヴァイスが興味を示す。
2人は少し考えた後、頷き合いヴァイスの方を向く。
「これより話す内容を聞くと、この件から逃げれなくなります。そのうえでお聞きしますが、事情を聞きますか?」
「それほど重要な内容だと?」
「重要です。暗殺者に狙われる理由を知るとともに、この国の色々重要な部分に関わる内容になりますので」
ヴァイスの質問に、アトナが答える。
しばらく考えた後、ヴァイスは頷いた。
「聞かせてもらおう。そして・・・俺の隠している内容も教えよう」
「・・・どうやら、この国に来た目的が別にあったようですね。では、お互い情報をお話するということで」
「まあ、その前に」
ヴァイスがそう言って、男の1人に近づき・・・腹に蹴りをいれた。
「ぐふっ!?」
「やはり、気づいていたか」
そう言って、口にかませていた布を取り除いた。
「お前にもこの会話に参加してもらう。聞きたいこともあるからな」
「・・・その質問に、答えるとでも?」
襲撃者の言葉に、ヴァイスは頷いた。
「俺の話を聞いて、それでも話さないならそれでもいい。だが・・・もしなにか気づいたことがあるなら話せ」
そう言って、彼は椅子に座った。
それを合図に、まずリシリアが話を始めることにした。
「まず襲撃者に襲われた理由・・・それは私の正体が理由でしょう」
「正体?」
「私は元々、この国の人間です。それも、王城で暮らしていた」
「つまり、重鎮の娘だったと?」
「それ以上、ですね」
そう言って、リシリアは一息つき・・・。
「私のフルネームは、リシリア・リュン・ファステリード。この国の第二王女です。
といっても、隠された側室の娘ですけど」
予想以上の立場に、ヴァイスは言葉を失っていた。
襲撃者は、鋭い目で彼女を見ていた。
つまり検問の騎士はリシリアが第二王女だと知っていたわけです。
秘匿されていた、と言っても完全に隠し通せていたわけではありません。
この件門の騎士、元々は近衛騎士だった男です。エリートです。
その場所に左遷された理由は、当時の近衛騎士の1人の起こした事件をきっかけに内部で大規模な人事異動が行われたからです。その頃に近衛騎士となっていた人物のほとんどが今は外れております。
ちなみに、リシリアは騎士のことを覚えてませんでしたがアトナは覚えておりました。なので彼女は検問が緩かった理由に思い当たったわけです。