第二話:白き城、夢とともに
「やはり、あれはあなたでしたか・・・」
リシリアの顔には、少しの怒りの感情がでていた。
しかし、彼女は一度目をつむり・・・その目が再び開いたときその感情はなくなっていた。
「それでは、一応お礼を言っておくのが筋でしょうね」
「お礼?もしかして、あの時の・・・」
彼女のそのセリフに、ヴァイスはあることに気づいた表情をした。
それを見て、リシリアは静かにうなずいた。
「そうです。あの時追われていた馬車に乗っていたのは私です。そちらにどのような意図があったにしろ、助けていただいたことに違いはありません。
なのでそのことについてはお礼申し上げます」
そういい、彼女は頭を下げた。
「そのことについて・・・ね。つまり、それ以外については言いたいことがあるという事か?」
ヴァイスがそういうと、彼女は頭を上げた後・・・静かに首を横に振った。
「いえ。ないとは言えませんが・・・先ほどの言葉からして言うだけ無駄だろうと思いましたので。それに、助けていただいた恩人に対して
苦言を言おうという気はあまり持ち合わせておりません。確かに、生身の騎士相手に魔銃で攻撃するというのはどうかとは思いましたが・・・
彼らも追手としてやってきた以上、どのような結末を迎えるとしても覚悟はしていたでしょうから」
「・・・言っているではないか。だが、その性格には同感できそうだ。
・・・いいだろう。次同じようなことがあれば、生身に直接魔弾をぶつけることはしないでおくとする」
ヴァイスの言葉に、リシリアは一瞬思考が固まった。
「・・・言ってみるものですね。では、その爆風で飛ばされた騎士についてはこちらも『上手く受け身とってくださいね』と思うようにしましょう」
そうリシリアが言うと、初めてヴァイスの顔に少しの笑みが浮かんだ。
「いいだろう。そちらの護衛、確実に遂行しよう。目的地まで必ず送り届けると」
翌日、少しの準備をした一同は出発したのであった。
馬車で並走しようかと思っていたそうだが「それは馬に過剰期待しすぎだろ」というヴァイスの言葉を受けて却下。
トレーラーに並走できるわけがないのである。速度が違い過ぎるのだから。
爺と言われた男は、先ほどの街で情報収集することがあるという事で別れている。
2人くらいなら・・・ということで、現在3人はトレーラーにて目的地に向かっていた。
「・・・そう言えば、そちらのメイドさんは自己紹介ももらってなかったな」
「・・・今頃気づきましたか。まあ、私も聞かれるまで言うつもりがなかったですからいいのですが」
そう言うと、メイドは優雅に一礼した。
「アトナと申します。リシリア様のメイドを務めております。以後お見知りおきを」
「・・・彼女は貴族か何かなのか?」
ヴァイスがそういうと、アトナは頷いた。
「左様ですが、少し事情がありまして・・・リシリア様から話をしない限りは気にしないでいただけると助かりますね」
その言葉に、ヴァイスは頷いて回答とした。
「まあ、お話をした場合は責任取っていただくことになりますけど」
からかい半分でアトナが言うと、ヴァイスの顔から表情が消えた。
「・・・失礼しました。どうやら、あまりこういうお話はしない方が良さそうのご様子」
アトナは素直に謝罪の礼をした。
「気を回してもらってすまない。・・・残念だが、俺の行き先は決まっているのでな」
そのセリフの後、2人に会話はなかった。
なお、リシリアは普通に寝ていた。
それからの旅は順調であった。
というのも、騎士やメイルとはすれ違うが・・・フリーランサーの意味を示すマークを付けたトレーラーだと気づくと
特に検査することなく素通りできたのであった。
「・・・この国の裏のことを考えると、検査をしないで素通りというのは理解できないがな」
運転席で一人トレーラーを走らせていたヴァイスは、少し呆れた表情をしていた。
(あの男・・・まだ行動を起こしていないのか。それとも、すでに水面下で動いているのか)
しかし、その胸の内にはとある懸念があった。
「彼」が言うことが正しいのであれば、この状況が不可解でしかないのだが・・・と。
それから2日後。
彼らの乗るトレーラーは、小高い丘の上に止まっていた。
その先に見えるのは、この地方の首都である。
「ファスティア王国首都、ファステリード。・・・この位置ですと、明日には到着ですね」
リシリアが視線をそらさずに見つめ続けていた。
「・・・ようやく、到着いたしましたね」
アトナがその傍らで一緒にその光景を見ていた。
「そうですね。ようやく・・・何年もたったようにも思える1年でした」
見つめるリシリアの目には、何かを決意するような力を宿していた。
そんな彼女を、アトナはただ静かに見つめていた。
翌日、トレーラーは首都に到着した。
ここでも、ヴァイスの予想を裏切ることが起こった。
「現在、ファステリードは国王命令により通常検問を解除。簡易検問のみ行っている。
首都の滞在理由と搭乗者の人数、メイルの有無の報告のみ行っていただく」
「同乗者2名の護衛依頼を受けてこの首都にきた。俺の滞在理由は、友人からの言伝をこの街に滞在するとある人物に伝えること。長くなっても1週間くらいの予定だ。フリーランサーなのでメイルは1機もっている」
「滞在理由確認。人数は3人ということだな。メイルの所持ありと・・・。わかってるだろうが首都でのメイル起動は厳罰だ。仕事で使用する場合は、事前に届け出をすること。以上だ、通っていいぞ」
そう言って、門が開き城下街への立ち入り許可が下りたのであった。
(やはり、おかしいな。もし事態が動いているのならこんな簡単な検問のはずがない。それでなくても、こんな簡単な検問で外部からの人間、それもメイル付きを街にいれるとは。どうなってるんだ・・・?)
そんなことを考えながら、彼はトレーラーを指定の駐車場に向けるのであった。
「・・・やはり、おかしいです」
とある食事処で、少し遅い目の昼食を食べながらリシリアが疑問の声を上げ続けていた。
この国で生まれ、育っていた彼女にとってもこの状況は異常であった。
「そうですね」
同じく、食事をとりながらアトナが同意するように頷く。
「外部から来た俺でもわかる。巡回の騎士が1人も出会わないというのはどういうことだ?」
ヴァイスの言う通り、彼らは駐車場にトレーラーを止めて街を歩きこの店にくるまで一人も騎士を見ていなかった。
だいたい、どの国でも巡回の騎士がいるものである。
しかし、この街には一人も出歩いていない。
「それだけではありません。そもそも、検問も簡易になっていること自体がおかしいのです。
・・・現在まで日にちが立っているにもかかわらず、あの事が発覚していないなんて考えれないのに」
「あの事?」
リシリアの発言に、ひっかかりを感じたヴァイス。
それを聞く前に、アトナから視線による静止がはいる。
「・・・検問については、私のほうでは予想できることがあります。今お話しできる内容ではありませんが。ただ、巡回の騎士がいないのはわかりません」
その発言に、ヴァイスとリシリアは何も返さなかった。
とりあえず、食事を再開しようとしたとき。
そばで食事をとっていた2人の会話が耳に入った。
「・・・それは本当か?」
「ああ。俺の知り合いが王城勤めの騎士なんだが、そいつからの情報だ」
「それ、話していいのかよ?」
「俺がこの街の情報屋と知り合いだからな。そっちからも何か調べてくれって依頼されたんだよ」
「なるほど。だが・・・そうすると、その話は本当なんだな」
「ああ・・・3年前に起きた事件。それには裏があるんじゃないかってな」
「「・・・」」
その発言に、リシリアとアトナは沈んだ表情をしていた。
「・・・3年前になにかあったのか?」
ヴァイスは、彼女たちが何か知ってると確信して質問した。
少しして・・・リシリアは口を開いた。
「3年前、当時19歳だったこの国の王女が行方不明・・・いえ、殺害されたのです。この国の当時の近衛騎士の1人に」
本編内で語られなかった話
検問が緩かった理由:担当していた騎士がリシリアのことを知っていたから。
彼女の正体は次話にて
巡回の兵士がいなかった理由:別の理由でそれどころではなかったから。
ただ、いないのはこの街だけの話である。