柚子湯はイリュージョン
やりませんよ。
やっかいなのは やんちゃに吹きまわる北風よりも
あしもとから熱を奪おうとする
凍てついてでもいるかのような地面
からだの芯までこごえた真冬には
湯舟にゆっくり浸かりたい
どうせならこの季節に ちなんで
柚子湯とでも しゃれこもうなんて
考えがよぎったけれども
浮かべた柚子はそのあと
どうしたものか 困るのが目に見えてるや
捨てちゃうのはもったいないとはいえ
浮かべたお湯でぬるくなった果実を
湯舟のなかで食べながら入浴するのが
正解かどうか おれにはわからなかったんだ
というわけで 柚子を買って帰るのはやめて
かわりにえらんだのは柚子の香りがする入浴剤
それとたしか 夏祭りの景品でたくさんもらった
緑色のゴムボールが部屋にあったはず
柚子の香りがする入浴剤を入れた湯舟に
緑色のゴムボールをいくつも浮かべて雰囲気づくり
にせものの柚子湯のできあがりだ
香るのは入浴剤でも あったかいお風呂は
芯までこごえたからだに沁みわたる
ゴムボールをひとつ つかんで
まうえにほおりなげてはキャッチ
あるいは ふたつみっつで お手玉を
うん これはこれで悪くない
悪くないけど なんかちがう
入浴剤とほんものの柚子の香りを
かぎわけられるつもりもありゃしないが
なんだか安っぽい気がするし
どんなにがんばって見立てても
ゴムボールが柚子のかわりなのは
どうにも無理があるぞ
やっぱり本物の柚子にしときゃよかったなぁ
おれの柚子湯はイリュージョン
まやかしといんちきで雰囲気だけ出したって
おれの柚子湯はイリュージョン
ゴムボールを浮かべるのは やりすぎだった
思いついたときは いいアイディアだと
はやく実行したくて うきうきしてたんだけど
ゴムボールの浮いた湯船に浸かってたら
なにやってんだろうな おれ って
ふと われにかえったんだ
こんなもので柚子湯を再現した気になるなんて
まったく 風流のかけらもありゃしない
おれの柚子湯はイリュージョン
だから、やってませんてば(汗)