人攫い
アンタークの北東、隣町・アストン
「また人攫い?」
「孤児院のジェーラちゃんですって。」
主婦の皆様の井戸端会議が嫌でも耳に入ってくる。
由々しき事態だ。
ここ最近、ここアストン近郊で人攫いが多発している。
「だってよ、ヴァルカン?」
だが。
「ああ、分かっているよシグネ。」
ようやく犯人の影を捉えた。
「もうすぐアストンに着くぞ。そろそろ起きろエクス…」
「人生初二日酔いなんですよぉ…」
街を出てから気持ち悪そうだったのはそのせいか。
「エクス、よく街を出るまでは平然としていたな?」
「これでも聖職者の端くれですからね…大量に吞んでいたとバレたらどんな顔して旅立てばいいのか分かりません」
そういえば僧侶が酒飲んでいいのか?
「ここの宗教って戒律とかないの?」
「あるにはあるが…守ってるやつはそうそういないぞ」
「無茶苦茶だな」
まぁでも、戒律でガチガチに縛るよりも自由にさせた方がより多くの人に入信してもらえそうではあるな。
「馬車の揺れで車酔いもダブルパンチでキてます…あ、吐く」
「オイオイオイ車内で吐くな外向いて吐け!!!」
その後、二回ほどエクスが吐いたが無事にアストンに着いた。
…馬車の運転手さんにはものすごく嫌な顔をされた。
馬車を降り、アストンの正門をくぐる。
この街はアンタークよりも広く、活気あふれる街だと聞いていたのだが…
「あれ?以前よりも活気がないですね…前に来たときはもっと賑やかだったのですが」
「なーに『何もありませんでした』みたいな顔で会話に参加しようとしてんだおめーは」
これはグランに同意である。
「誠にごめんなさいでした」
「反省してないだろお前」
「え!なんでバレたの!?」
言ってる場合か。
「しかし、確かに活気がないな。ちょっと街の人に話聞いてみるか」
そうグランが言い、街の中に進もうとした瞬間。
「ちょっといいですか?」
声をかけられた。
俺達よりも年上の雰囲気がある男性。
髪は長く、緑色をしている。
服装からして僧侶だろう。
身長は俺たち三人の誰よりも高く、糸目に片眼鏡をかけている。
「はい、なんでしょう?」
俺が返事をすると。
「私はこの街で僧侶をしています、ヴァルカンと申します。近頃この街では人攫いが多発していまして…」
街に活気がなかったのはそれが原因か。
おそらくこの人はその事件の対処をしている人なのだろう。
「せっかくお越しいただいたところ申し訳ないのですが、他所から来た方に危険な思いをさせるわけにはいきません。馬車は手配するので近隣の街へ移動されてはいかがでしょうか?」
しっかりした人だ。
まあ年上みたいだし当たり前ではあるのだが。
「いいか、あれがちゃんとした僧侶の姿だ」
「うるさいですよ」
後ろで二人がコソコソ話をしているのは気にしないでおこう。
「でも、解決してないということはあなた方もいい方法が見つかってないんですよね?俺らが出来ることなら手伝わせてください!お前たちもいいよな?」
後ろでヤイヤイ言っていた二人に問いかける。
すると二人は急にこちらを振り向いて。
「もちろんだ「です」!」
話は聞いてたのね。
「しかし…旅の方、しかもあなた方の様な子供にそれを任せるわけには…」
子供だと思われていたようだ。
…主に二人が喧嘩していたのが原因だろう。
「子供じゃないですよ、成人済みです」
そう俺が言うと。
「そうなんですか!?大変失礼しました!そうか…成人済み…いやしかし…」
そんなに子供っぽく見えるかなぁ…
その後、俺たちはヴァルカンさんに連れられ、彼の教会に向かった。
教会には孤児院が併設されており、孤児と遊んでいる一人の女性に目が留まった。
「妹のシグネです。孤児たちの教育と遊び相手を兼ねてやってもらっています。」
そう言うと、ヴァルカンさんはシグネさんに向かって手招きし、こちらへ来るように呼び掛けた。
「孤児たちは主にパンゲア・ウルティマ大陸における大規模な戦闘によって両親を失った子たちがほとんどです。ここはかの大陸に比べるととても安全ですから…」
「大規模な戦闘ってなんですか?」
アンタークにいた時にそんなものは聞いたことがない。
「大陸南部のネーブル海を根城にする宗教団体を自称するテロ組織の攻撃です。かの大陸はほぼ彼らの攻撃によって手中に収められています。こちらの大陸に攻撃が来ることも予想されていますが、世界は広い。そうそう簡単にこちらに来ることはできないでしょう。」
宗教にテロ組織…この世界にもそんなものがあるのか。
こういう世界の敵組織ってだいたい魔族とか魔王とかそういう類のものだとばかり思っていた。
いやに現実的だな、この世界。
「あのー、もう私喋っていい?」
ヴァルカンさんと話してるうちにだいぶ前から隣にいたシグネさん。
「私シグネ。よろしくね。」
「よろしくお願いします」
「あー、私には敬語使わなくていいよ、兄みたいに偉い神父様じゃないからね」
やっぱり中世ヨーロッパのように、聖職者は高い地位にある様だ。
地球のようにカッチリとした格差があるようには感じないが。
「シグネ、今回の事件について説明お願いできる?」
ヴァルカンさんがそう言うと、シグネは事件について説明をしだした。
「現在明らかになっているのは、被害者の年齢と性別、そして敵のアジトのおおよその位置よ。年齢は10代~20代、性別は男女問わず。」
こういう人攫いって、大体は女性がターゲットになるものだが、今回は違うようだ。
男性も攫われているとなると、犯人の意図を知るのが難しくなるな…。
「ウチの教会から、狙われそうな人を何人かスパイとして用意しておいたの。そのうちの一人、ジェーラという16歳の女の子が攫われたという情報がつい先ほど手に入ったわ。」
結構えげつないことするなこの人ら。
「ジェーラやその他のスパイには、攫われたら何かしらの方法で痕跡を残せと言ってあるの。」
なるほど。
その痕跡をたどればアジトのおおよその位置が分かるという算段か。
「でも懸念点が一つ。敵の規模が分からない。もしもとても大規模なグループの犯行だった場合、私たち二人だけじゃ返り討ちに遭う可能性がある。」
ヴァルカンさんが比較的すんなりと俺たちの協力を許可してくれた理由はこれか。
二人じゃ数十人の敵がいた場合、流石に対処できない。
「ま、私たち結構強いから心配はしてなかったんだけど、あなたたちが協力してくれるのはありがたいわ。戦力は多くて困ることはないからね。」
「それで、いつそのアジトに行くんだ?」
今まで口を閉じていたグランが言うと。
「?。今からよ?」
衝撃的な言葉が、シグネの口から聞こえてきた。




