旅立ち
翌朝、朝5時。
今日は出発の日。
朝早くに目が覚めた俺は荷造りをしていた。
半年間お世話になったこの街とも今日でお別れかと思うと少し寂しい。
部屋に置いてあった物たちを整理して、カバンに詰める。
俺が今回の旅で使うカバンはリュックサックタイプだ。
やっぱりこれが両手が空くし一番いいと思い、街市場で買っておいた。
持っていく荷物の配分は、俺がキャンプ用の鍋などの器材、グランは食料、エクスはポーション類を持っていくことになっている。
器材類はメリーさんが昔旅をしていた時の物を借りることになった。
これで出費がかさまなくて済む。ありがたい。
荷物をリュックに詰め終え、チャックを閉めると同時に部屋のドアがコンコンと鳴った。
「シンヤ君、起きてる?ちょっといいかな?」
メリーさんのようだ。
「起きてますよー、今行きますね」
ガチャリとドアを開けると、メリーさんが右手に何かを持って立っていた。
「おはよう、シンヤくん。これ、昨日のお返し。お守り作ったから、リュックにでもつけといてよ。」
そう言って手渡されたのは日本の神社でよく見るようなお守りだった。
「ありがとうございます、でもいいんですか?」
「?」
「グランにはあげなくてもいいんですか?」
「あぁ、あの子にはもうずっと昔にあげたよ。エクスくんにもね。」
そうか、あの二人はもう前に大陸内を旅していたのかもしれないな。
「三人はもう全員私の息子よ。気を付けて行ってきてね。」
午前8時、俺は貰ったお守りをリュックに付けて家を出た。メリーさんは街の正門までお見送りしてくれるようだ。
いつもの公園でエクスと待ち合わせをして、正門へと向かう。
手配した馬車が正門の外で待っているので、そこへ向かうのだ。
道中、もう見慣れた光景ではあるのだが、なんだかいつもと雰囲気が違う。
ランニングしていたのはいつもこの時間帯だが、その時と比べると人があまりにも少ない。
なんでだろうなあと首を傾げて歩くと、正門が見えてきた。
そこには、街に人が少なかった理由がハッキリと示されていた。
なるほど、こういうことか。
そこには、たくさんの街の人。
特に、店の人や稽古を横で見ていた人たちなど見知った顔が多いような気がする。
店の開店前に駆けつけてくれたのだろう。
「これは…どういうことですか…?」
エクスが呟いた。
「私が触れ回ってたのさ。親バカだろう?」
と、メリーさん。
ええ、全くその通りです。
自然に三人みんなの口から笑みが零れた。
万雷の拍手を背に受けながら大勢の人が作った花道を歩いていく。
その中には双頭剣を売ってくれたおじさんの顔もある。
「大事に使ってくれよー!」
恐らく彼の声だろう。
彼へ向かって手を振り、返事をする。
「ありがとうございました!」
正門の真下まで来たところで俺たちは後ろを振り向き、集まってくれた人へ向けてお辞儀をする。
その人混みの先頭に立ったメリーさんへ向かって手を振り、最後に挨拶をする。
「それじゃあ、行ってきます!!」
見送るメリーさんの胸元には、緑色の宝石が輝いていた。




