最後の晩餐
3月1日。
暑さも落ち着いてきたころ。
今日は俺の誕生日である。
グランの時ほどの規模ではないが、パーティーをやってくれるらしい。
全く、ありがたい話である。
どこからともなく現れたよそ者の俺を暖かく迎え入れてくれた、グランとエクス、メリーさん、街の人たち…
感謝してもしきれない。
午前、午後といつものルーティンをこなし、夕方。
公園でのトレーニングを終えた後、グランに呼び止められた。
「シンヤ、エクス。ちょっとついてきてくれないか?三人で行きたいところがあるんだ。」
今日はパーティーの準備のため、メリーさんは家にいる。
「おう、いいよ?」
「どこに行くんです?」
「まあ楽しみにしとけって」
なぜかもったいぶるグラン。
言われたとおりについていくと、門を出て街の外に出るようだ。
「随分遠くに行くんだな」
「そうでもないぜ」
ここの近くに改めて行きたい場所なんてあったか?
そう考えていると、街を出たグランはいつも魔物を倒しに出ていた東方向とは逆の西の方へと歩いていく。
なるほど、こっち方向はあんまり行ったことないかも。
そう考えているとグランが口を開いた。
「なぁ、シンヤ。お前は別の世界から来たと言ってたがこっちに来たきっかけみたいなのはあるのか?」
一番聞かれたくないことを聞かれてしまった。
「それは…」
言葉に詰まる。
「俺は…自殺したんだ。」
苦しい。
俺はコイツらに暗い話をしたくない。
コイツらは大切な友達だ。だから真面目に話を聞いてくれると分かっている。
分かっているんだが…
「お前達にこんな話するの、心が苦しいよ。申し訳なくなる。」
これは本音だ。
全ては吐き出してしまいたい気持ちはあるのだが、コイツらに暗い気持ちになってほしくない。
「気にすんな。なんか事情があるんだろ?俺らになら話しても大丈夫だ。」
隣でエクスも目を閉じてうんうんと首を振る。
「二人とも…ありがとう…。あり…がとう…」
自然と涙が零れた。
しばらく泣いた後、俺は二人にこの世界に来ることになった経緯を全て話した。
俺は文明の発展した世界から来たこと。
その世界は窮屈で、退屈だったこと。
その世界の創作物でこの世界みたいな世界が描かれていたこと。
それに憧れていたこと。
その全てを二人は真剣に聞いてくれた。
初対面の時の時とは違い、俺の話すこと全てを真実として捉えてくれた。
「話は分かった。お前も苦労してたんだな。」
「今まで、お疲れ様でした。」
二人がそう労ってくれる。
「でも、いつの日かもとの世界に戻りたいと思える日が来るといいな。」
「その世界が、あなたのあるべき場所ですからね。」
そんな日が来るのだろうか。
今はそうとは思えないな。
「そう思える時が来たら、できる限りの協力はするぜ!こっちに来れたってことは帰れもするってことだろ!」
そう簡単なものなのだろうか。
でも、その気持ちが嬉しい。
「さて、そろそろ着くぞ。ここの丘の上だ。」
そうグランが指さした先は地平線が全体的に盛り上がった丘になっており、その先を見ることはできない。
丘を登っていく。
そうすると次第に先の景色が見えてくる。
青い空が地平線に近づくにつれ、夕方の紅い空へと変わっていく。
さらに進むと太陽の光が差し込んできて、眩しさに思わず目を庇う。
手で目元に影を作りながら歩いていくと、丘の頂上へとたどり着いた。
そこで見た景色は忘れられないものになるだろうと直感した。
「これが、俺がお前たちに見せたかった景色だ。」
グランはそう言うと、地平線…いや、水平線へ手を向けた。
そこには夕日に照らされ紅く輝く一面の海。
丘のすぐ先は断崖絶壁になっており、生前の世界だったら防護柵が置かれ、景観を損ねていただろう。
まさに異世界ならではの景色であろう。
ああ、これを人は絶景と呼ぶんだな。
そう感じた。
日本にいたころは外に出ていなかったし、こっちに来てからも街からはあまり出なかった。
久しぶりに大自然を感じ、感動した。
アンタークはエキストラ大陸の最南端、南と西が海に面している場所に位置している。
街から西に行けば、夕日と共に綺麗なオーシャンビューが堪能できる道理である。
丘の上に三人で座り、文字通り日が沈むまでオーシャンビューを堪能したのち、街へと戻った。
家のドアを開けると、ドアベルのカランカランという音と共に、いい匂いが漂ってきた。
肉とハーブの、最高にテンションの上がる匂いだ。
「お帰り、三人とも!」
二階のキッチンから降りてきたであろうメリーさんが、両手にローストチキンを持ちながらそう言った。
「丁度焼けたところだよ!みんな、手洗っておいで!」
そう言われてみんなが洗面所に向かう。
俺は洗面所に向かうついでにとあるものを準備する。
今日まで半年、お世話になったメリーさんにプレゼントを用意しておいたのだ。
メリーさんの誕生日、五月の誕生石のエメラルドがあしらわれたネックレスである。
この世界でも誕生石という概念があるのかどうかは謎だが、俺なりの気持ちである。
これを買うためにトレーニングの合間にバイトもしていた。
喜んでくれると良いのだが…
全員手を洗い終えて一階の店へと向かう。
俺たちが座るのはカウンター席。
ディナータイムにはここはバーとしても使われている。
メリーさんはカウンターを隔てた向かい側に椅子を持って行ってそこに座っている。
「それじゃあ、かんぱーい!!」
メリーさんが乾杯の合図をし、みんなでグラスを合わせる。
今日はもうみんな成人しているので、全員でお酒を楽しめる。
まぁグランの誕生日の時もどさくさに紛れて一杯だけ飲んでしまったのだが。
みんなでチキンやビールを楽しんで、しばらくしてから。
「メリーさん、俺ちょっと渡したいものがあるんですけど。」
例の物を渡そうと俺はポケットに手を入れた。
プレゼントを裸でポケットに入れるのってどうなのかと思うが、箱を買うお金は無かったので仕方ない。
「え~?嬉しいな!ありがとう!」
メリーさんは笑顔になりそう言った。
俺はポケットからネックレスを取り出してメリーさんに手渡す。
「今まで、ありがとうございました。押しかけてきた俺を泊めてくれて。稽古までつけてくれて。感謝してもしきれません。」
「わぁ~!これ本物の宝石じゃない!しかも私の誕生石!」
やっぱり誕生石はこの世界にもあるのか。しかも種類まで一致している。
偶然だが結果オーライだ。
「おいシンヤ~!そういうことするなら事前に言っておけよ~、そうすれば俺らも手伝ったのに~」
グランがそう言うと、横でエクスも頷く。
「いや、これはいきなり押しかけてきて泊めてもらったお礼だから、俺一人でやらないと。」
そんなことをヤイヤイ言っていると。
「ありがとう、大切にするね。」
弾けそうな笑顔で、少し涙声でメリーさんが言った。
「よし、食べようぜ!最後の晩餐だ、パーッと行くぜ!!」
「グラン、ちょっと言動がおっさん臭いですよ…」
その後は、思いっきり食べて、飲んだ。




