実戦練習
武器を買った後は一旦各自家に帰り、午後から練習スタートということになった。
家に帰ると、メリーさんが昼食を用意して待っていてくれた。
「あら、お帰り。随分大きな荷物ね?」
「今日からシンヤの実戦練習だからな。武器を買ってきたんだ。」
「あら、そうなの。カッコいい武器、見つかった?」
メリーさんが俺の方を見てそう訊いた。
「見つかりましたよ~最高にかっこいいのが!」
俺はそう答えると、箱を開けて二つに分かれている状態の剣を見せた。
「あら、二刀流?難易度高いわよ~、頑張らなきゃね」
「それだけじゃないんですよ」
俺は武器屋のおじさんがやっていたように、剣の根元同士を合わせ、半回転ねじる。
「根元のところに細工がしてあって、こうやってくっつけることができるんです」
「双頭剣ね、懐かしいわ~。」
メリーさんはあまり驚いた様子を見せなかった。
「母さん、これ使ってる人見たことあるの?」
「見たことあるもなにも…ケンが使ってたのよ」
なんてこった。
「父さんが?」
グランが驚き目を丸くする。
俺もびっくりだよ。
「しかし惜しいなぁ…ケンさんが今いたら扱い方のいろはを教えてもらったのに…」
「え?使い方なら私が教えるわよ?たまにケンに借りてたから専門ではないけれどそこら辺の冒険者よりは扱えるわ。」
ん?ちょっと待てよ?
「メリーさんって戦闘ではどの立ち位置だったんですか?」
「前衛よ。ケンもね。私たちは前衛二人の脳筋パーティーだったの。」
それでよく生き延びられたな。それだけ強かったってことなのか?
「ご飯食べてしばらくしたら、練習いくわよ!エクスくんにどこでやるか伝えてある?」
「あぁ、いつもの公園の広場でやるんだろ?」
俺たちが朝のランニングの集合場所にしていた公園には、遊具が沢山あるエリアとだだっ広い草原が広がるエリアに分かれている。
その広い敷地を活かして実戦練習をしようってことだ。
本物の刃物を街中で振り回すわけにはいかないので武器屋のおじさんに貰った木刀を持っていくことにしよう。
「さぁ、まずは好きに動いてみな。私が受けてあげるから。」
木刀を手にし、三つ編みをほどいてポニーテールにしたスケバンモードのメリーさんと対峙する。
雲一つない空、一面の原っぱ。
夏の日差しが眩しい。
「それじゃあ、行きますよ…!」
俺は二本の木刀を腰の左右につけた鞘から引き抜き、目の前で合体させ、双頭剣にした。
剣を振り回しながら、相手に近づこうとすると…
「あだッ!?!?」
「なにしてん」
後頭部をもろに剣が直撃した。
メリーさんの冷静なツッコミが心にクる。
ふと、横で見学していた二人に目を向けると。
「「…ッ!グッ…!グフッ…!」」
顔を真っ赤にして笑いをこらえていた。
赤面したいのは俺の方である。
「『それじゃあ行きますよ…!ブンブンブン…ゴン!あだッ!?!?』って…アハハハハ!」
「だまらっしゃい!!!」
死ぬほど恥ずかしい。エクスがあんなに声を上げて爆笑するのは珍しい。
「まずは基本的な動きからだねえ…武器はその後だ。最初の一か月は体術を『みっちり』やるからね」
「ヒッ…!」
メリーさんが鋭い眼光を放ちながら言ってきた。
メリーさんの言う『みっちり』は、それはもうものすごく『みっちり』なのである。
「頑張れよ。」
「ご愁傷さまです」
グランとエクスにも、哀れな目で見られてしまった。
もうこうなったらヤケだ。一分でも、一秒でも早く強くなってやる!
それからは地獄だった。
筋トレの時とは違う辛さを味わった。
筋トレの辛さは疲れが主な辛さだったが、実戦練習の辛さは『痛み』である。
メリーさんは俺に一切の躊躇なく殴りかかってくる。
もちろんパンチや蹴りは寸止めなんてしてもらえず、当たる。
まぁ言わなくてもわかると思うが、素人で喧嘩すらしたことがない俺はボコボコである。
修行中は動きを模倣する技術は使うなと言われた。
とっさの時に動けるようにするには、他人の動きを模倣するより自分で考えて動きを体に叩き込む方がいいらしい。
動きのデータを体に、脳に、脊髄に刻み込む。
一週間が経つ頃にはメリーさんの攻撃を避けられるようになってきた。
「そうそう!いい動きよ!」
たまにこうやって褒めてくれるようにもなった。
モチベーションも上がるってもんだ。
休憩時間、家からスポドリを持ってきてくれたメリーさんが俺に言った。
「シンヤ君、あなた本当に目がいいのね。私、全力でやってるのに当てられなくなってきちゃった」
「昔から良かったんですけど、こっちに来てから拍車がかかった気がします。前は人の動きを完全再現することなんてできなかったと思いますし。」
メリーさんはうんうんと頷きながら俺の話を聞く。
「今後の課題は攻撃の重さだね。美味しいご飯いっぱい作ってあげるから、いっぱい食べな。」
「はい!頑張ります!」
この人が俺の師匠で、本当に良かったと思う。
一か月が過ぎると、得物を使った練習も始まった。
実戦形式以外のトレーニングは、増量、筋肥大を目的としたものがほとんどだった。
メリーさんも食事にはタンパク質を多く取り入れてくれて、みるみるうちに俺の体重は増えていった。
もちろん、太ったわけではない。
筋肉が増えたことで、むしろ以前より体が軽くなったように感じる。
得物を使ったトレーニングは、木刀と実際の剣に重さの差があるため、柔らかい素材でできた重りを刀身に被せて行う。
しかしこれが重いのだ。
刀身も太い上に、二本を繋げて使っているため当然と言えば当然なのだが。
俺はだいぶ筋肉をつけられたと思っていたが、まだ足りないのか。
心が折られそうになるが、三人とも俺を応援してくれるので頑張れる。
最近では一対多の練習もしている。
メリーさんは剣、グランは斧、エクスはメイスを使って俺に襲い掛かってくる。
エクスも前衛と同じように戦うので少々驚いた。
武器屋のおじさんが言っていたように、双頭剣は大人数を相手にしたときに真価を発揮する。
この武器を使いこなせるようになってきたころには、三人に一斉に攻撃されても持ちこたえることができるようになっていた。
三方向からの攻撃。
前方からの攻撃を目で追い、避けながら後方の攻撃は得物を振り回し防ぐ。
こうすればすべての方向からの攻撃に対応できる。
こちらから攻撃する術は何も得物による攻撃のみではない。
最初の1か月で学んだ体術を駆使し、全方向への攻撃を繰り出す。
「だいぶ良くなったね。これぐらいの実力があればエキストラ大陸の魔物は敵じゃないだろう。」
そうメリーさんが言う。
冒険者の経験がある人が言うなら間違いないだろう。
「本当に、ありがとうございました。ここまで強くなることができるとは思いませんでした」
「それだけシンヤ君に素質があったってことだよ。よく頑張ったね」
メリーさんはそういって俺の頭を撫でてくる。
「すいません、あのー…」
「ん?どした?」
嫌な視線を感じた。
「そこの二人がニヤニヤしながら見てくるので…ちょっと恥ずいです」
「おっと、すまんね。君くらいの年頃の男子にすることじゃなかったかな」
まぁ俺はまんざらでもないのだが。
「それにしても、あと一週間でシンヤ君の誕生日だ。君たちとこうして過ごすのももう少しで終わりだね」
「そんなこと言うなって母さん。宝探しが終わったら帰ってくるさ。」
グランがそう言うと、メリーさんは少し寂しそうにフッと笑った。




