双頭剣
修行を始めて3か月が経った。
そろそろ基礎体力トレーニングを終え、実戦形式の訓練に入る頃だ。
朝6時、そろそろ起きる時間という頃、部屋の扉がコンコンとノックされた。
「シンヤ、起きてるか?今日はランニング終わったら買い物に行くぞ」
グランが起こしに来てくれたようだ。
「起きてるよ、今行くわ」
眠い目をこすりながら、ドアを開ける。
「おはよう、買い物ってどこ行くの?」
「武器屋だ。お前の得物を買いに行くぞ。今日から実戦形式の訓練だ。」
おお、武器か。
俺は日本にいたころからどんな武器を使って、どんな戦い方をするかずっと考えてきた。
こんなにワクワクすることはない。
「どうした?そんなにニヤニヤして」
おっと。顔に出ていたようだ。
「いや、ワクワクするなと思って。すげぇ楽しみだよ」
「そりゃあ良い。自分に合う武器が見つかるといいな。」
そう話しながら、ダイニングへと向かう。
グランの家は三階建てで、一階はメリーさんの店、二階にはリビング、ダイニング、キッチンがあり、三階に俺たちの寝室がある。
俺が使っている部屋は元々ケンさんの部屋だったらしく、今は空いているのだそうだ。
いつもの通り、メリーさんの作る美味しい朝食を食べ、ランニングに向かう。
いつもの公園、いつものコースを通り、いつの間にか上がったペースで走っていく。
「今日で3か月、終わりますね。シンヤもよくここまで頑張りましたね」
「ありがと、二人とも俺にペース合わせてくれてさ」
「なんてことないさ。それに最近は俺らも全力なんだぜ?」
「えぇ、その通りです」
最近は走りながら会話もすることができるようになった。
「あ、そうだエクス。今日は風呂入ったら買い物行くぞ。」
「え?僕そんなにお金持ってきてないですよ?」
「いいのいいの。だってシンヤの武器買いに行くだけだから」
「あぁ、なるほど。実戦練習用の武器ですね」
この街で一番大きな武器屋は、このランニングコースの終盤に位置している。
俺たちがランニングをしている時間帯は開店前の準備をしており、いつも挨拶すると挨拶を返してくれる。
人の良さそうなおっちゃんだ。
そんなことを考えていると、その武器屋の前を通った。
「「「おはようございまーす!!」」」
「おう、おはよう!頑張れー!」
おじさんはいつものように返事をしながら、腕を振って走るしぐさをする。
さぁ、もう少しでゴールだ。
「ふぅ。疲れたね。」
「いや、ホントに体力つきましたね、シンヤ。」
心なしか俺よりもしんどそうなエクスが言った。
長距離を走った後に急に止まると体に悪い。
だから俺たちは走ったらすぐに、歩いて大衆浴場に向かうのだ。
水筒に入れたメリーさん特製スポーツドリンクを飲みながら、ゆっくりゆっくり歩いていく。
普通に歩いたら10分くらいで着く道のりを、20分かけて歩いていく。
この街並みも、もう見慣れたものだ。
ヨーロッパ風の石造りの建物を見ると、本当に異世界に来たんだという実感をもたらしてくれる。
今、俺は最高に幸せだ。
街をよく観察すると、ところどころに和風な建物があることに気が付く。
メリーさんが作ってくれた生姜焼きといい、なぜかこっちに来てからも『日本』を感じることがある。
そこまで嫌ってわけではないが、向こうで自殺した身としてはあまり心地のいいものではない。
なんて考えていると、大衆浴場に着いた。
さて、汗を流すとしよう。
大衆浴場から出て、武器屋の方に歩いていく。
俺が使いたい武器はもう考えてあるのだが…あるかな?
「お、ランニングのお兄ちゃんたち!うちに用かい?」
「そうです、実はこの人の武器を探してまして…」
と、エクスが俺を指しながら言う。
「おお、君か!君、体力ついたんだねぇ。最初の方なんて死にそうになりながら走ってたじゃないか。おじさん見てられなかったよ~」
「いやぁ…ハハ…」
苦笑いするしかない。
「で、どんな武器がお望みだい?」
店の中に手を向け、俺に問う。
俺の探している武器は見たところ、無さそうだが…ダメもとで聞いてみるか。
「実は…双頭剣って置いてますか?」
双頭剣。読んで字のごとく持ち手の両側に刃が付いている剣のことだ。
分かりやすく説明するなら、スター・ウォーズでダース・モールが使っていたやつである。
「君、結構マニアックなモノ注文するねぇ…。ちょっと待っててね」
そう言って武器屋のおじさんは店の奥に行き、しばらくすると戻ってきた。
その手には片側に刃の付いている二本の剣が握られていた。
ぱっと見ただの剣に見えるが…
「これは結構扱いが難しいから、買い手がいなかったんだけど…。」
そう言うと、おじさんは二つの剣の持ち手を根元でくっつけ、半回転ねじった。
そうすると、二本の剣がくっつき、一本の双頭剣へと姿を変えた。
「か…かっけぇ…」
思わず声に出てしまった。
これだ。これが俺の求めていた武器だ。
「これは状況によって二刀流と双頭剣に切り替えられるシロモノだ。もちろん一本だけでも使えるから、ただの剣としても機能するよ。」
「双頭剣か…使ってる人見たことないですけど、どんな感じでつかうんですか?」
そうエクスが聞くと。
「そうだねぇ…。双頭剣は真ん中に持ち手があるから、なぎなたみたいにぶん回して使うことが多いかな。一対一の勝負っていうよりも敵に囲まれた時とか、一対多の状況の方が使いやすい印象だね。」
なるほど、この武器は普通の剣としても使えるから、どんな状況にでも対応できるわけだ。
「俺、これがいいな。二人はどう思う?」
「好きなものを使えばいいと思うぞ。獲物は相棒だから、自分が良いと思ったものを使え。」
「同感です。」
二人の了承も得られたことだし、これで決まりでいいかな。
「じゃあ、これください。」
「まいどあり!でもいきなり本物を使うのは危ないから、同じ構造をした木刀をおまけしとくよ。これで練習しな」
そう言って武器屋のおじさんは同じつくりの木でできた剣を手渡してくれた。
「ありがとうございます!大切にします!」
「いいのいいの。君みたいな若い子が使ってくれるのはありがたいよ。これから先が長いからね。」
この街の人はみんないい人だ。
「まいどありー!!」
三人で深々と店へ頭を下げ、店を後にする。
店のおじさんは俺たちが見えなくなるまで手を振っていてくれた。
「いい買い物ができて良かったな。」
「これで今日からの練習に身が入りますね」
二人がそう声をかけてくれる。
これを使って練習するのが楽しみだ。
「やったー!新しいグローブ!!」
小学校6年の冬、クリスマスプレゼントに新しいグローブを貰った。
翌年度から中学に入る俺は、父の影響で野球部に入ると決めていた。
その時は嬉しかったし、グローブを使うのがとても楽しみだった。
その時の光景が今と重なる。
少し、日本が懐かしいと思ってしまった。




