真相
「コイツがか。」
「間違いないです。檻の中にいる俺に話しかけてきたのもコイツでした。」
全ての元凶。コイツを放っておいたら必ずヤバいことになる。
「いやいや、関係ない話になってしまうが…。慎也君、キミの魔力への対応力は目を見張るものがあるよ。」
敵は大げさに両手を広げて、わざとらしく笑う。
「水流弾に重爆焔。名前も素晴らしい。」
そのまま話し続ける。
「魔法の始祖であるこの私ですら、合技を扱うに至るまでにはもう少し時間が必要だった。それをキミは6か月やそこらで魔力に適応、そして自分固有の技を開拓するに至った。」
「魔法の始祖だと?」
この世界に文明らしい文明…救世主が現れてから現在まで300年。
魔法も同時期に開発されたとされている。
敵の言葉が正しいとすれば、その年齢は300を超えているということになる。
あり得ない。
「そうだ。この世界に伝わる、救世主というのは私のことだな。」
おかしい。コイツはただの日本人のはずだ。しかし嘘をついているようにも思えない。
なにかカラクリがあるに違いない。
俺はずっと気になっていた質問を投げかけることにした。
「俺は自殺してこの世界に転生した。お前はどうやってこの世界に来たんだ?」
「転生?キミは何か勘違いしてはいないか?」
勘違いだと?俺は飛び降り自殺をして、確かにこの異世界に来た。
「ここは、地球だぞ?」
俺の中での時間が止まった。
思考が追い付かない。
地球?俺が住んでいた、あの地球なのか?
そんなはずはない。この世界は魔法もあれば魔物もいて、文明のレベルだって全然…。
「いや、すまない。言い方が悪かったな。今キミが立っているこの空間は、キミがいた時代から2億8000万年後の地球だ。」
俺の中で全てが繋がる。
明らかに高すぎる平均気温、大陸の形状、小さくなった月。
その全てが地球で未来に起こるとされていたものであった。
「順を追って説明しよう。私は研究の末、時空移動装置…。平たく言えばタイムマシンだな。それを実現することに成功した。その構造は、まさにこの空間ごとプランク時間という非常に短い時間の間に光速に加速させるというものだ。」
物体は光速に近づけば近づくほど、その内部で流れる時間は短くなる。
その性質を利用すればタイムマシンが作れるというのは昔から言われていた話だ。
しかし、現在の人類の技術力では物体を光速に加速させるなど夢のまた夢であった。
それをこの男はやってのけたのである。大々的に公表したらノーベル賞を10個くらい貰えるレベルの偉業である。
それもプランク時間という短い時間に加速し最高速度に達したのち、減速するという荒業である。
プランク時間とは、光子が高速でプランク長を移動するのにかかる時間であり、秒数で表せば5.39×10マイナス44乗秒という一瞬である。
プランク長は、水素原子の大きさなど比べ物にならないくらい短い距離だ。
加速時間と減速時間があるので、空間そのものが移動するのは当然水素原子の直径よりも短い距離となる。
それならば加減速による人体への被害も考えなくて済む。
「キミは頭がいいから私の言っていることも分かるだろう。そんな頭のいいキミが次にする質問といえば…。」
「…過去にはどうやって行くんだ?」
「それだろうなと思っていたよ。」
彼は心底楽しそうに俺の質問を受けた。
この光速で移動することによるタイムスリップでネックになるのが、この方法では未来へ行くだけの一方通行になってしまうということだ。
周りの時間が早く進むことはあっても、巻き戻ることはない。
「私はどうにか負の移動エネルギーを発生させたいと思い、とある数に目を付けた。なんだと思う?」
「…虚数…か。」
「よく分かってるじゃないか!素晴らしい。」
虚数。虚数単位iで表され、二乗するとマイナスの値を示す特異な数である。
虚数は想像上の数であるため、日常生活で使用されることはほぼ無い。
「私はエネルギーの虚部は四次元空間にあることを特定。虚数の具現化に成功した。これにより負の移動エネルギーを確保、過去への時空移動が可能となる。」
恐ろしい人だ。マッドサイエンティストの名が一番良く合う。
「キミたちの前にアロサウルスが現れたことがあるだろう。あれは私がジュラ紀から生け捕りにして持ってきたものだ。正直あれで倒せると思っていたんだが…想像以上にキミたちが強くてね。」
「そりゃどうも。」
そうなってくるともうコイツは何でもありだな。
だがこれでハッキリした。コイツが魔法の始祖で間違いないだろう。
なんてったって時間の移動が可能なんだから、寿命なんてあってないようなものだ。
そうなると今度気になってくるのは…。
「じゃあ魔力ってなんなんだよ。」
「それにはまず私がなぜ救世主と呼ばれているかを話す必要があるな。」
彼はその質問を受けて満足げに頷くと、語り始めた。
「私は時空移動装置を完成させた時、好奇心のままに100年後の世界を見に行った。どんなに発展した、素晴らしい世界が見られるのかと胸を膨らませたよ。」
それから彼は悲しそうにこう言った。
「しかし、私が期待した世界はそこには無かった。荒廃した、廃墟の集団のみがそこには広がっていた。メソポタミア以降1万年続いた地球文明は、戦火によって滅びたのだ。」
100年後、か。生々しい嫌な数字だ。
「私は戦争の理由を国家が複数あることが原因と考える。日本人だけを救出し、遠い未来で人類史をやり直す『ノアの箱舟』計画を実行した。」
人類史を一つの国家のみででやり直す。形式上だけみれば世界平和への最善策に見えるが…。
「空間ごと日本人を100万人ほどこの時代に送り込んだ後、各地に集落を作らせた。それが今、この時から300年ほど前の話だ。」
これが『文明転生』の実態か。
「私はこの時代の大気組成を調べた際、二酸化炭素の濃度上昇と共に未知の元素を観測した。私はこの元素を『魔力』と名付けて利用方法を探ったのだ。私はキミの他人の動きを完全に再現できる特性も、魔力によって強化されたものだと考えている。」
それが今の魔法に繋がる…と。
「新たな人類史は最初の50年は順調に見えた。しかし世代交代が進むと、目や髪の色が変わるものが生まれだした。恐らく魔力の影響だろう。それに名前も簡略化され、日本古来の黒髪や名字、文化が消えていくように感じられた。」
話を聞くと、川崎誠也はかなりの愛国者らしい。
日本の文化が消えるとなればそれ相応の対処をしてくるだろう。
「そこで、今の私たちの活動があるわけだ。ご理解いただけただろうか?」
「いや、あんたが何言ってんだかこれっぽっちも理解できねーよ。」
グランが突っかかる。
今の話を聞いたうえで、一つまだ解決していない疑問がある。
「俺はなぜこの時代に連れてこられたんだ?」
「ああ、そうだった。それを話すのを忘れていたな。…キミは、複数人を同時に時空移動させる場合のテストだったんだよ。私が死にかけていたキミに蘇生措置を施し、私と共にこの時代へと来た。正確に2億8000万年後に送る予定が、操作が慣れないせいで300年ほど後になってしまったがね。」
これで全てに合点がいった。
俺は本チャン前の捨て駒だったわけだ。
街を歩いていたら自殺未遂をした男が倒れてた。それをサンプルに丁度いいと思ったわけだ。
マッドサイエンティストらしいね。
「そこで、キミに一つ頼みがある。」
人のことを何とも思っていない奴の頼みなんて聞きたくもないが、一応聞いておく。
「なんだ?」
「私の研究を、継いでくれないか?」




