三重合技
「相手の魔法の攻撃範囲は一方向のみだ。4人全員バラけて戦おう。」
「了解!」
オーラを中心に四角形の陣形を取る。
各々との距離はおよそ30メートルから40メートル。
この広い空間をフルに使って戦う。
天井も高く、学校の体育館くらいはありそうだ。
さっき使えなかった魔法や技も使える。
俺たちの全力をもって戦うんだ。
だが殺すことはしない。彼はグランの兄貴なんだ。
和解できれば一番いい。
俺は首にかけたエメラルドのネックレスを握りしめ、覚悟を決める。
「行くぞ!!!!」
その俺の声を合図に、全員が同時に攻撃を開始する。
「『フローズン・スラッシュ』」
「父さん!」
「おう!!」
「『加療毒気・反転』」
エクスの後方支援に加え、俺たち3人の攻撃が同時に炸裂する。
「『無欠防禦』」
しかし、その攻撃の全ては弾かれることとなった。
「私の本来の戦い方は防御が基本です。攻撃などおまけに過ぎません。」
防御して防御し続けて、相手を消耗させたところで攻撃する。
理にかなった戦い方だ。
ならばどう攻める?エクスの毒も効いてないみたいだ。
俺の氷結塊と斬撃を両方受け切ったところを見るに、相手の防御は魔法のみならず通常の攻撃にも対応できるということになる。
恐らく合技にも対応してくるだろう。
ならばこの世界でまだ誰もやっていないことにチャレンジするしかない。
なぜか俺はここ最近、再現した技だけでなく自分オリジナルの動きも出来るようになってきた。
合技がその一例だ。
今パッと思いついたものだが、やってみる価値はある。
身体の周りに漂う魔力を感じる。
今までにはない感覚だ。
魔力とその他の元素を混ぜる割合でその魔法の威力が変わるということを、最近掴んできた。
…イケる。
「『火球弾・極』」
間髪空けず、次の魔法を準備する。
「『炸裂焼・極』」
2つの魔法を一気に相手に投げつける。
このままでは単なる合技。
だがこれでは終わらない。
2つの魔法が混じり合い、相手に達する寸前。
「『荷重操・弐』」
魔力を混ぜる量を0.5倍にした荷重操をプラス。
「『三重合技・重爆焔』!!!」
あくまで今回の荷重操は行動不能にするためでなく、行動を遅らせるためのものである。
2つの極魔法が直撃してしまったらいくらオーラといえども命が危ない。
直撃を避ける最低限の移動ができるように魔力量を調節したのだ。
その狙い通りオーラは爆風を受け吹き飛んではいるが、致命傷にはなっていない様子だった。
しかし、彼は起き上がると俺に向かってこう言い放った。
「なぜ、殺しに来ない?」
それは戦っている相手に投げかける、至極当然の疑問であった。
「お前も知ってるだろ。お前は、俺の友達の双子の兄貴なんだよ。」
「答えになっていない。私はあなたを初対面で殺しかけ、あなたの恩人…私の母親を殺したんですよ?」
彼の声は震えていた。
「私は!!この戦いで死ぬつもりだったんです!!」
オーラの目から涙が零れる。
「幼い頃に離れ離れになった母と再会できたと思ったらその次の瞬間には自らの手で殺していた!!もう生きている理由なんてないんですよ!!」
それを聞いた俺は、うずくまる彼に対して語りかける。
「オーラ。死ぬな。」
その言葉に驚いたのか、彼はこちらを目を丸くして見つめる。
「大切な人が死んだ、その気持ちはよく分かる。現に俺は耐えられなくなって生きるのを辞めた。」
そのまま話し続ける。
「だが、俺は思うんだ。『彼の分まで生きていくべきだったんじゃないか』…ってな。」
俺はあの時、このまま生きていてもどうしようもないとしか思えなかった。
だが、今は違う。
俺はあの世界がどんなに楽しい世界だったかを思い出した。
綺麗な景色も、美味しいご飯も、仲のいい友達も。
俺はもうあの世界を退屈だなんて思わない。
最高に楽しい世界だよ。
「だから、生きろ。オーラ。」
俺の横にはいつの間にか仲間たちが並んでいた。
その中心に立つケンさんが口を開く。
「オーラ、おれたちと一緒に行こう。」
「父さん…。」
オーラは意を決したように顔を上げると。
「私を…僕をここから連れ出して」
その時、辺りに一発の銃声が響いた。
「全く…。だからあれほど連中の声に耳を貸すなと言ったんだ…。」
弾丸は、オーラの脇腹あたりに直撃していた。
「エクス!!!治療だ!!!」
「はい!!オーラ、立てますか?」
エクスはオーラに肩を貸し、後ろの方へと歩いていく。
歩く道筋が銃の射線上に入らないように俺たち3人で壁を作る。
「やれやれ…キミらは敵を庇う性質でもあるのかね?カイラもルミナも殺されなかった。シルビアは自爆みたいなもんだ。」
「オーラは敵じゃねえ。」
グランが冷たく返す。
「ま、どうせキミたちはここで死ぬんだ。自己紹介くらいはしておこう。」
そう言って白衣の男は名乗りを上げた。
「川崎誠也だ。以後、お見知りおきを。」




