最終戦
しばらく歩くと、俺の行く先に大きな扉が現れた。
扉を開けようと手を伸ばすと、遠くからなにやら足音が聞こえてくる。
すぐに体を音がした方に向け、攻撃の準備をする。
「『暗黒せ』…」
「おいおいおい!!待て!俺だ俺!!!」
分かれ道の角から出てきたのは、グランだった。
その後ろからケンさんとエクスも出てくる。
「よう!無事だったか!」
「なんとか、ですね。危うく死ぬところでした。」
「でも良かったですよ。またこうやって話せて。」
感動の再会だが、ここは敵地。
長話をしている暇はない。
「シンヤを探しながら、この施設のあらかたの構造を調べました。どうやらこの扉の奥が最深部のようです。」
「恐らくこの先に敵幹部か大ボスが潜んでるね。」
「最終戦、だな。」
「これが俺たちにとっては最終戦になるかもしれない。」
少し寂しそうに彼は言った。
「いえ、あと14戦です。そう簡単に受験勉強はさせませんよ、原田先輩。」
そう俺は言い放った。
「ああ、そうだな。」
彼はそう言って笑う。
「梶原先輩、そのセリフ言うために甲子園優勝までに何試合あるか調べてきたんですか?」
「おめーは黙ってろ」
「あーいすんませーん」
コイツは完全に俺のことを舐め腐っておる。
来年は俺たちが3年なんだ。
もうちょっと厳しくしてやらないといけないかもしれない。
「『一回の表 光岡高校の攻撃は 一番 センター 原田君 センター 原田君』」
球場に独特のアナウンスがこだました。
「ほんじゃ、行ってくるわ」
「「いってらっしゃーい」」
原田先輩と俺、そして山本は仲良しでいつも一緒にいた。
部活として活動しているときは形式上敬語を使ってはいるが、プライベートではお互いにタメ語で対等に喋っている。
少なくとも俺たちは、いい加減この体育会系特有の上下関係、なくしたらどうかと思っている。
試合が始まり、その初球。
快音と共に彼はレフト前に打球を弾き返した。
「ふーん、やるやん」
「何様なんですかあなたは」
ちなみにこの試合、俺も九番ライトで出場している。
「ん?アレ原田先輩は何やってるんですかね?」
一塁上に立った彼はこちらに向かって、自分の体の前に右手を持ってきていわゆる『お金のポーズ』をして見せた。
「あー、あれね。俺と『今日ヒット多く打てた方が今日の夕飯奢り』っていう賭けやってんの。」
「原田先輩も酷いことしますねー。梶原先輩が打てるわけないのに」
俺は山本をヘッドロックしながら試合の顛末を見届ける。
「おっ。盗塁のサイン。」
筒井先生が帽子の鍔を触った後にベルトのバックルを触った。
帽子の鍔は『キー』。
要はここを触った後に触った場所でやるべき作戦を伝えるものだ。
そして胸のマークがバント、手の甲がエンドラン、ベルトが盗塁である。
相手捕手は強肩で知られているが、原田先輩の足を信じてのサインだろう。
相手投手も彼の足を警戒してか、牽制を何度も行っている。
この警戒されてる中で走るのか。
だが先生のサインは変わらない。
ピッチャーがようやく前に向かってボールを投げた。
原田先輩が走り出す。
その時の風向は、彼から見て向かい風であった。
彼のヘルメットが風にあおられ、脱げる。
彼はそんなことは気にせず走り続ける。
それは相手キャッチャーも同じことであった。
捕手の強肩から二塁に放たれた送球は、若干一塁側に逸れたものだった。
ほとんど同タイミングになると判断した原田先輩は、ヘッドスライディングをして少しでも二塁到達を早めようとした。
送球を取ろうと二塁ベースに就いた相手遊撃手は、予想以上にスピードの速い原田先輩に気を取られて送球への反応が遅れ、球を捕り逃す。
原田先輩の頭と、白球の軌道が交錯する。
辺りに鈍い音が響いた。
ボールは勢いよく跳ね返ることはなく、その場にポトリと落ちた。
それは衝撃が分散されず、当たったものに全てのエネルギーが集中したことを意味する。
その場にうずくまる彼に、俺はタイムがかかる前に駆け寄っていた。
「早く!!!担架を!!!」
「…大丈夫…だ…。歩ける…。」
彼はそう言ってゆっくり立ち上がった。
良かった。意識もはっきりしている。
原田先輩は交代し、山本がセンターに入った。
試合は進み、三回表。
守備を終えた俺は、ベンチに帰ると前のイニングまではベンチで横になって当たった箇所を冷やしていた原田先輩がいないことに気が付いた。
「原田先輩はどこに行ったんですか?」
俺は筒井先生にそう尋ねた。
「原田はさっき吐いちゃったみたいだから救急車呼んで病院に行かせたよ。大事にならないといいけど…。」
やはり、ただ事ではなかった。
試合が終わると、すぐに俺は彼が搬送された病院に向かった。
そこで俺はこう告げられた。
「原田さんは現在ICUで治療中です。ですが…。」
一気に体中から血の気が引くのが分かった。
「助かる可能性はほぼ無いでしょう。」
翌朝の朝練で、俺は原田先輩が亡くなったことを知った。
それから俺は学校や練習していたグラウンドなど、彼と過ごした場所に行くたびに過呼吸などの発作を起こしてしまうようになった。
もはや学校生活のみならず、日常生活が困難な状況になってしまった。
俺はあの時から堕落して生きる気力を無くしていたように思う。
「ああ。正真正銘、これが最終戦だ。」
そう言って俺は分厚く重い扉を開けた。
扉の先はとても広い空間になっており、その中心には見覚えのある黒いフードを被った男が立っていた。
「そろそろ来る頃かと思ってましたよ。さあ、やりましょう。」
オーラ。
始めよう。




