合技
パンゲア・ウルティマ大陸、オリジン山群上空。
「さっむい!!!」
「だからあれだけ着込んで行った方が良いって言ったじゃないですか…。」
僕は2人を連れて空を飛んでいる。
現在の標高は3000メートルくらいだろうか。
酸素も薄くなってきた。
大柄な男2人を運びながら飛行するのがこんなにつらいとは…。
以前ケンさんは当然のように僕とシンヤを担いで歩いていたが、アレがどんなにすごいことなのか思い知らされる。
クレーターの周りの最高峰は、およそ4000メートルとなる。
もう少しだ。
突然、ブザーが鳴った。
日本では見慣れた赤い回転灯が光る。
アイツらが来たのか。
全く、無茶するね。
敵は恐らく俺の方の警備を増強するだろう。
その前にここから脱出する。
幸い今周りには誰もいない。
俺は両手を合わせると、施錠された鍵穴に狙いを定める。
「『暗黒閃・強』」
錠前が機能しなくなり、自然と扉が開いた。
檻のすぐ脇に置いてあった武器と荷物を回収し、出口を探す。
「他は最先端の研究所みたいな見た目してんのに、なんで檻だけこんな旧式なんだ…ああ。そういうことね。」
俺のこめかみには、いつの間にか銃が突き付けられていた。
「なんで牢から出てるんですか?ボクが目を離すとすぐコレですね。」
「お前も災難だな。その歳で銃を持たせる親の元に生まれてよ。」
「なるほど。もう一度死にたいみたいですね。」
俺の目は敵の指を注視。
引き金を引く動作をいち早く察知し、回避する。
「銃の音は近くで聞くものじゃないな。鼓膜が破れたらどうするつもりだ?」
「ご心配なく。鼓膜が破れても不自由することはありませんよ。どうせこの場で貴方は死ぬんですから。」
2発目の弾丸が発射される。
持ち前の動体視力と、鍛えたスピードで迎撃する。
剣を1周だけ体の前で回し、弾丸を打ち落とす。
この狭い通路では、双頭剣は不利と判断。
片手剣状態にして使用する。
…。
コイツ、俺をこの場で殺すと言っておいてヒヨってやがる。
さっきから俺の足を狙ってばかりだ。
行動不能に陥らせて牢に戻す魂胆なのだろう。
弾丸は重力によって弾道が落ちる。
遠くを撃つ際はその落ちる幅を予測して打つのが鉄則だ。
この近距離で効くかは分からないが、いっちょやってみるか。
「『荷重操・肆』!」
一瞬、敵の身体がぐらつく。
だが、敵は不敵な笑みを浮かべ、こう言い放った。
「あなたの特性は研究済みです。味方の技を対処できないとでも?」
敵の身体の動きが元に戻る。
「これで戦況は元通りです。」
小細工は通用しないか。
だが俺はもう旅に出た直後の俺ではない。
小細工を封じられても勝てる。
「なあ。お前、味方の技って言ったな。」
「はい。言いましたが?」
「元・味方の間違いだろ?」
そしてこれは、今から俺たちの味方になる奴の技だ。
「『暗黒閃・強』」
「『魔術返照』…。貴方は学びませんねぇ…。」
何が学びませんね、だ。
俺は跳ね返る魔法を寸前で躱し、敵の背後へ跳ぶ。
黒いビームの軌道は、相手の死角となる。
その死角に俺は完全に隠れたため、敵の反応を遅らせることに成功。
「チェックメイトだ…!」
敵の首へ刃を振るう。
だが。
「王手、と言いなさい。」
俺の剣は、確かに敵の首を捉えた。
しかしその刃が肉に食い込むことは無かった。
硬い。
ドラゴンの鱗の硬さとは異質の、機械的な硬さ。
相手の首のあたりには皮膚の間から銀色の何かが覗いていた。
おいおい。コイツはサイボーグか?
「お前、本当に親に恵まれてねぇなぁ。同情するぜ。」
恐らく父親に仕組まれたものだろう。
「父のことは悪く言うな。」
そう言うと敵は皮膚の間からナイフを取り出した。
近未来的なフォルムの、バタフライナイフというやつだ。
また毒が塗られてちゃたまったものじゃない。
距離を取って戦うことになるだろう。
遠距離。どうやって戦う?
暗黒閃は反射される。溜めにも時間がかかる。
閃熱拳は思いっきり近距離。無理だ。
炸裂焼は室内で使うと俺も巻き添えを食う可能性がある。
荷重操はさっき試したが、もう一回やって効くとは思えない。
今使える手持ちの技はこれくらい。どうしたもんかな…。
サイボーグ。
機械か。1つ考えがある。
だがそれにはもっと機械の部分を露出させることが必要だ。
俺は先ほど分解した剣を双頭剣に組み立てなおす。
剣先で皮膚の表面だけを切り裂く攻撃方法にシフト。
振り回した俺の剣が天井の蛍光灯にヒットし、辺りが暗転する。
敵の露出した機械部分のみが、妖しく光っている。
先に動いたのは敵であった。
機械部分が露出した右肩が動いたのを見て、俺は振り回す剣を前方に移動させた。
敵はこちらの思惑など知る由もなく突っ込んでくる。
動きからするに恐らく致死性の毒が塗ってあると見た。
相手からしてみれば一撃でも攻撃をこちらに当てれば勝ちなのだ。
多少の負傷は覚悟で突っ込んでくるのも頷ける。
だがそれは俺の思うつぼ。
俺は敵の身体に攻撃が当たる度、剣の回転方向を逆向きにしてなるべく多くの傷が相手に残るように仕向ける。
暗闇から敵の武器が視界に飛び込んでくる。
攻撃を当てた反動を利用し、加速させた斬撃で敵のナイフを弾き飛ばす。
「チェックメ…違った。王手、だな?」
「武器を一つ奪ったところで何になる。ボクに対する決定打を貴方は持ち合わせていないはずだ。」
「いいや、十分だよ。」
「『火球弾』」
辺りが炎の灯りで照らされる。
「『氷結塊』」
二つの魔法を合わせる。
「『合技・水流弾』!!!」
俺の両手から、10リットルばかりの水が解き放たれる。
「ま…『魔術返照』!!!」
効かないよ。
これは魔法同士を掛け合わせた『合技』だ。
魔法というのは魔力の形を変え、他の元素と組み合わせたものである。
つまり、通常の魔法は2つの要素が混ざり合ったものとなる。
基本的に魔法は魔力と1つの種類の元素が混ざり合っている。
それをこの合技として2つの魔法を同時に扱うことにより、混じり合う元素は3種類となる。
魔術返照は2つの元素で構成される『魔法』を反射するものであるため、3種類の元素で構成された『合技』は反射することができないのだ。
俺は火花が散る敵の横を、ポケットに手を突っ込みながら通り過ぎた。




