トレーニング
午前6時、起床。
日本にいた頃から朝が弱かった俺にはキツかったが、一週間もすれば慣れてきた。
午前6時半、朝食。
グランのお母さん、メリーさんの作るご飯は美味しい。
それもそのはず、グランの家は食堂を経営しているのだ。
ケンさんというお父さんがいるらしいが、街の外への出張が多く、あまり帰ってくることは無いとのこと。
「シンヤくんはとっても美味しそうに食べてくれるから私も作り甲斐があるわ~」
「いや、ホントに美味しいんですもん」
店をやってるだけはある。それに加えて。
「それよりも、一時的とはいえ住まわせていただいてしまって申し訳ないです」
「いーのいーの~、かわいい一人息子の頼みだし、シンヤくんは家のお手伝いしてくれるじゃない?」
本当にいい人だから居心地がいい。
午前7時、朝の町内一周ランニング。
グランとエクスはご近所さんで幼馴染である。
その二人の家の近くにある公園で待ち合わせをする。
「エクス~、また5分遅刻だぞ~?」
「すいませんね、起きるのが苦手でして…」
しっかりしてそうなエクスの意外な一面が見られたりもする。
「じゃあ行こうか。シンヤはキツくなってきたら言えよ?いつもみたいにペース落とすからな~」
「さて、今日はどこまで付いてこられますかね?」
そんな風に笑い合う。
二人はいつも疲れてきた俺にペースを合わせてくれる。
それでも、次第についていける距離が伸びてきている。
このランニングのコースの全長は距離にして15キロメートルほどといったところだろう。
最初は最後まで走り続けることができなかったが、次第に走り続けられるようになり、ペースも段々上がってきた。
「お、いいぞ!シンヤ、だいぶ走れるようになってきたな!」
「なんでッ…ハァハァッ…お前はッ…そんなに元気なんだよッ…ハァハァ」
「小さい頃からのトレーニングの賜物だな~♪」
「ですね~♪」
死にそうな顔をしている俺を横目に、涼しい顔で走っていく二人。
この光景は既に街の風物詩と化しているらしく、街行く人達の中には顔見知りや、応援してくれる人も多い。
子連れや登校中の学生、お爺さんお婆さん…俺の目の前を走る二人は、笑顔でその一人一人に挨拶をしている。
その後ろを死にそうな顔で走る俺。当然挨拶をする余裕は無い。
街の人に俺の体力のなさが露呈している。
死ぬほど恥ずかしいので早く体力をつけたいものである。
『俺達の修行の日々が始まった』なんて息巻いたが、やっぱり俺一人の修行なんじゃないかと勘繰る。
午前9時、風呂。
もはやこのために辛いランニングをやっているまである。
運動後の汗を流すのは最高に気持ちがいい。
俺は日本にいるころから朝風呂が好きだった。
この街には大衆浴場があるので、三人で入りに行くのだ。
元々二人でやっていた時は各自の家に帰って入っていたらしいのだが、俺がランニングに参加することになるとグランが、
「男三人、裸の付き合いで仲良くなろう!」
と言い出したので一緒に入っている。
実際、この裸の付き合いで仲良くなれた面もあると感じている。
午前10時、帰宅。
ここからは一旦三人別行動である。
俺は帰宅し、メリーさんの店の手伝い。
グランは土木工事のバイト。
エクスは教会が主導で行っている奉仕活動に参加している。
帰宅すると、メリーさんが笑顔で迎えてくれる。
「トレーニング、お疲れ様!これ飲みな!」
と、手渡されたのはメリーさん特製のスポーツドリンク。
レモン、ハチミツ、塩などが入っている何の変哲もないスポーツドリンクなのだが、なぜかとても美味しい。
日本にいた時のスポドリなんぞとは比べ物にならないほど美味しい。
作ってくれた人が目の前にいるからだろうか?
疲れが吹き飛ぶようだ。
「さて、お疲れのところ申し訳ないけど、もうすぐランチタイムの営業が始まるんだ。お手伝い、お願いね」
「全然ダイジョブっす!頑張ります!」
「お!じゃあよろしく頼むよ!」
二人には悪いけど旅すっぽかしてここに就職してしまおうかな…
なんてな。
午後2時、昼食。
メリーさんの店のランチタイム営業時間は11時~2時半だが、2時にラストオーダーになるため、俺は2時になると休憩に入る。
「じゃあ、休憩入りますね~」
「は~い、お疲れ様、ありがとうね。オーダー少ないときにお昼ご飯作っておいたから、先に食べてて~」
何から何まで、ありがたい話だ。
今日の昼食は、店の看板メニューでもある豚肉の生姜焼き。
あれ?生姜焼きって日本発祥だったような…?
ま、いいか。美味いし。
午後3時、トレーニング。
聞いてびっくりしたことなのだが、メリーさんは昔冒険者をやっていたらしい。ケンさんとはパーティーメンバーで、グランを身ごもったことがきっかけで引退したんだそう。
ケンさんはその時の経験を活かして、馬車や船の護衛の仕事をしているそうだ。
そりゃあ出張が多いわけである。
俺がここに来てもうすぐ3か月が経つが、一度も顔を見たことがない。
さて、なぜこんな話をしたのかというと、俺はトレーニングでメリーさんにしごかれているからである。
「ハイ腰上がってきてるよー。下げて下げてー」
昼までの物腰柔らかな感じはどこへやら、竹刀で腕立てをする俺の腰をポンポン叩く。
髪型も店にいる時は大きな三つ編みをしているが、今はポニーテールにしている。
金髪だし、見方によってはヤンキ…なんでもないです。
「むぐぐぐ…死ぬ!死にますってこれ!」
「ハイハイこんなんじゃ死ななーい!」
「ひぃ~!!」
地獄だが、強くなるためだ。
3か月もこんなことをやっていれば筋肉もつく。
もやしみたいだった俺の体は3か月で見事な細マッチョになっていた。
午後6時、夕食。
今日はグランの20歳の誕生日。
だからいろんな人が来るお祝いパーティーをするらしい。
もちろん、エクスやその家族も来る。
今日はディナータイムの営業はお休みにして、店がパーティー会場になる。
俺がメリーさんとパーティーの準備をしていると、店のドアベルがカランカランと鳴った。
「ただいまー!」
「お邪魔します」
グランとエクスが帰ってきたようだ。
扉の方へ出迎えに行く。
「お疲れ~、今メリーさんと準備してた。」
「おう、ありがとな」
そう、グランが答える。
「外は流石に暑いですね…」
「もう12月だからな」
ここ、アンタークは南半球に位置しているため四季が逆なのである。
これは未だに慣れない。
しばらくすると、人が続々と入ってきた。
参加者が全員揃い、準備も済んだころ。
「さぁ、皆さんグラスをお持ちください!」
エクスの大声、初めて聞いたな。
乾杯をエクスが取り仕切ってからはもう大変。
どんちゃん騒ぎもどんちゃん騒ぎで、とても楽しくなってきた。
どさくさに紛れて俺の隣に座っていたおじさんが、俺のグラスにビールを注いできた。
どうしたものかとオロオロしていると、カウンターに立っているメリーさんと目が合った。
するとメリーさんは、
(飲んじまえ)
というジェスチャーをした。
ま、いっか。と思いグイッとビールを飲む。
…。味はよくわからないが炭酸がパチパチしてが気持ちいい感じがする。
お父さんがよく「ビールはのどごしを楽しむんだよ」と言っていたが、これがそういうことか。
少し日本のことを思い出して涙ぐんでいると。
「あれぇ?シンヤぁ?なんれ泣いてるんですかぁ?」
と、既に出来上がりまくっているエクスに絡まれた。
「ゴメンなシンヤ、こいつめっちゃ酒癖悪いんよ」
グラムがそういってエクスにキスされそうになりながら制止していた。
なんというかコイツらは…面白れぇ奴らだな。
そうして、夜は更けていった。




