正体
そんな形でみんながトレーニングで疲れたころ、俺はルミナさんに呼び止められた。
「このあと時間ありますか?ちょっとついて来てほしいんですけど…」
「全然いいっすよ。」
何の話だろうか。トレーニング関連か?
彼女は俺たちがベンチプレスで限界にチャレンジしている時も、黙々と自分のメニューをこなしていた。
ブレない人だ。
プロ意識とでもいうのだろうか。
上げてる重量はプロとは言い難かったが…。
そんな事言っちゃ失礼か。
仲間たちとは一旦別れ、別の道をルミナさんと行く。
「どこに向かってるんですか?」
「行けば分かります」
先ほどから返事がそっけない。
何か怒らせるようなことしたかな?
もしそうなら謝らなくちゃ。
俺たちは甲板へ出る階段を上る。
「あの、俺なんかやっちゃいましたか?もしそうなら謝ります。どうしました?」
外は快晴であった。
船は既に低緯度地域に差し掛かっており、俺たち二人を物凄い熱気が襲う。
体感温度は40℃を超えている。
「ええ、貴方は確かにやらかしました。私たちの敵対組織となったのですから…。」
彼女は頭…正確には髪に手をやると、それを引きはがした。
あれはウィッグか…!
彼女の茶髪の下から出てきたのは、天然ではない黒髪。
奴の組織の証であった。
今俺は丸腰である。
もっと早く気付くべきだった。
部屋を出るときから彼女が背にハンマーを背負っていることに。
しかし、2キロの重りすら持てない彼女がなぜあんな重たそうなハンマーを操ることができる?
身体強化の魔法か?
「この髪が示すことは既に分かっているでしょう。始めますよ。」
こうなりゃヤケだ。
素手で戦うしかない…!
まずは相手の出方を探る。
ハンマー使いに有効なのかは分からないが、一応ピーカブースタイルで敵を牽制する。
敵は背に固定されていたハンマーを握り、軽々と引き抜く。
その見た目から察するに、恐らく20キロはある代物だ。
やはり身体強化の魔法とみて間違いないだろう。
彼女は武器の柄を短く持ち、俺に襲い掛かってくる。
防御態勢、衝撃に備えていたにもかかわらず弾き飛ばされる。
脳が揺れ、すぐには立てない。
朦朧とした意識の中、俺の頭は1つの違和感を覚えていた。
敵の動きがおかしい。
まるで途轍もなく軽い物体を振り回しているような動きをしている。
比喩ではなく、本当に発泡スチロールでできた棒を振るっているかのようなのだ。
発泡スチロールを手にしたことがある人なら分かるであろう。
あの独特の軽いがゆえ、手に持った物が空気に負けてブレるあの動きだ。
しかし先ほど受けた攻撃は、間違いなくハンマーそのものであった。
思考しているうちに第二撃が迫る。
急いで立ち上がるが防御が間に合わない。
脇腹に一撃を貰う。
意外にも俺はその攻撃で吹き飛ぶことは無かった。
…そうか。カラクリが分かった気がするぞ。
俺は仮説を確信に変えるため、構えを解き相手を挑発する。
「そんなことをして、どうなっても知りませんよ…!」
相手は、武器の軌道を俺の頭へと狙いを定めた。
完全に殺りにきている。
これが一緒に飯を食った仲にやる仕打ちかね。
その抗議も含め、俺は防御をしない。
これは賭けであった。
この賭けが当たれば勝利、負ければ死である。
インパクトの瞬間、俺は首を少し傾げる。
攻撃の当たる位置と時間が、当初の予定よりほんの少しではあるがズレる。
その攻撃が、俺の頭に到達する。
しかし、痛みどころか衝撃すらも微塵も感じない。
「…ッ!まさか貴方、気づいて…。」
ビンゴ。
彼女が使っているのは質量操作の魔法だ。
恐らく戦闘が始まった段階で魔法を使用。
常時、魔法をかけ続けながら戦闘。
先ほどのハンマーの挙動はそのためであろう。
そして、攻撃が当たるインパクトの瞬間にのみその魔法を解除。
通常のハンマーによる攻撃に、それまでの動きによるスピードが加算される。
威力とは、速さ×重さ。
最初に貰った一撃がとてつもない威力だったのはそのためであろう。
第二撃がそれほど応えなかったのは、俺が防御態勢に転じる際に少し動いたからだろう。
その動きに対応しようと質量操作魔法を小出しにしたものと思われる。
しかし、それにしても恐ろしい精度である。
彼女の筋力からして攻撃が有効となるインパクトの時間は0.1秒に満たない。
それ以上質量操作を解いてしまうと、それ以上ハンマーを持った状態を維持し続けることが出来ずに攻撃がブレるかハンマーを落としてしまう。
ならばこちらはどう戦うか。
相手に予想されないトリッキーな動きを繰り返すに限る。
俺は頭に当たったままの発泡スチロールハンマーをパッパッと払い、ぴょんぴょんと反復横跳びをする。
武器がない以上、こちらの手持ちの致命傷になり得る攻撃は暗黒閃しかない。
だがそれはこの一対一の戦いに持ち込むには溜めが長すぎる。
俺の脳は仲間を呼び、武器を持って戦うのが最善と判断した。
でもどうやって?
答えは簡単。
騒ぎを起こせばいい。
「『炸裂焼・極』!!!」
辺りに轟音が響いた。




