高位の魔法
「ここから魔物が多いスポットまでは、歩いて2時間ほどかかります。」
「結構かかるんだね」
「そりゃあ、街の近くに魔物が闊歩してたら危ないからな。街は魔物の少ない所に作られるんだよ」
なるほど、確かに。
「その間、お前のことをもっと教えてほしい。」
「同感です。あなたは分からないことが多すぎます。」
まぁ突然こっちの世界に放り出されて勝手にぶっ倒れて街に運び込まれたんだ。
説明する暇もなかったしいい機会だ。ちゃんと自己紹介しとこう。
「名前は梶原慎也。年は19だよ」
「珍しい名前ですね。しかも名字がある。」
「名字があると珍しいの?」
「そうだな、名字を持ってるのは貴族か大金持ちくらいのもんだ」
日本も昔は庶民に名字は無かったという。そんな感じなのだろう。
となると、この二人からしたら俺はお忍びで遊びに来ている貴族の坊ちゃんに見えているということ
か。
早く誤解を解きたいものだが…どうすべきか。
「俺ら二人も丁度19だ。タメだな!」
喋りやすくて良いな。
「来年はようやく僕達も成人ですね」
「こっちも成人年齢は20なのか」
日本の成人年齢は18歳だが、酒が飲めるのは20からなので実質20歳みたいなものだ。しかし20歳で成人か。
こういう世界って16歳で成人とか、もっと若いものだと思ってたが日本と同じなんだな。
「こっちもってどういう…あぁ。そういう設定だったな」
「設定じゃねぇって」
「はいはい。分かりましたよ。」
エクスが俺の肩をポンポン叩きながら言う。
「よし、それなら『別世界』から来たお前にこの世界のことを少し説明してやろう」
グランがそういうと。
「わー」
エクスが気の抜けた声で気の抜けた拍手をする。
こいつらほんとに仲良しだな。
「おお、ありがたいね」
返事をするとグランは立ち止まり、落ちていた木の棒で地面に絵を描き始めた。
「これが世界地図だ。簡単に描いたから正確じゃないが気にするな。あ、上が北な。」
そこには大きくて真ん中南寄りに大きな湖のある大陸と、その大きな大陸の南にある小さな大陸が描かれていた
「このでっかいのがパンゲア・ウルティマ大陸。だが俺らがいるのはこっちじゃない。」
グランは木の棒で小さい方の大陸を指し示すと。
「こっちの大陸の南の端、ここが俺らの住んでいる街、アンタークだ。」
「小さい大陸には名前無いの?」
「正式名称はありません。名前をつけた人にとってはオマケみたいなものだったんでしょう。」
「だから地域によって呼び方が異なるんだけど、俺たちはエキストラ大陸って呼んでるよ。『オマケ』って意味だ。」
「適当だな」
しかしさっきから思ってたがなんでこの世界、日本語が通じるんだ?
『エキストラ』も英語だ。なぜ地球の言葉が使われている?
俺をこの世界に飛ばした神か誰かが俺が日本語に変換できるようにしたのか?
よくある、『ご都合展開』ってやつか…
「そんでな?ここからが本題なんだけど…」
そう話すグランの声が少し高くなり、興奮した様子で。
「パンゲア・ウルティマ大陸には、『時を操る秘宝』ってのがあるらしいんだと!めっちゃ興味そそられない?」
確かに興味深くはある。
「僕もそれには興味あるんです。だから20歳になったらグランと一緒に旅に出て、パンゲア・ウルティマ大陸にその秘宝を探しに行こうっていう話をしてたんです」
エクスは、これまでにない笑顔でそう語った。
「なんで20歳になってからなんだ?今すぐにでも行きゃあいいのに」
「未成年は大陸間の移動が禁止されてるんです。大陸と大陸をつなぐルートは海路しかないので必然的に船を使うことになるのですが、まぁ大陸間の海の魔物が強いらしいんですよね」
「そ、守られる対象になる未成年は足手まといになるから船にはのれないのさ」
なるほどね。
「俺はそのルールに懐疑的なんだけどな。要は守られなきゃいかないくらい弱く無けりゃ良いわけだろ?船に乗せる前に魔物と戦ってみて、勝ったら乗っていいとかさぁ…」
「負けたらどうするんですか。リスクが高すぎますし、乗る人いなくなりますよそんなん」
エクスくん、ド正論である。
そんな話をしながら進んで行くと、遠くに森が見えてくる。
「見えてきたぞ。あれが『初心者の森』だ。」
「名前そのまますぎるだろ」
「僕もそう思います」
「ここには弱い魔物しかいない。スライムとか、動くデカいキノコとか。」
まさに初心者のための森だな。
「一つ注意する点があるとしたら、毒を使ってくる魔物がいるってことだな。それもたかが知れてるけどな」
「ここにいるレベルの魔物の毒は、僕なら一瞬で治せますので。どうぞ、安心して戦ってください。」
「毒ねぇ…症状としてはどんな感じなん?」
「ここの毒はお腹がちょっとギュルギュルするくらいですね」
地味に嫌だ。
「でも3日経過してしまうと…」
「してしまうと…?」
「治ります」
「なめんな」
ただの食あたりじゃねえか。
「では、森に入りますよ。命に関わるということはほぼ無いと思いますが、一応警戒してくださいね」
普通、森と言えば空気が綺麗で清々しいものだが、ここは違う。
なんというか気持ちの悪い空気が漂っていて、背中がゾクゾクする。
なんだか『出そう』な雰囲気である。
まあ実際に魔物が出るんだろうけど。
そんなことを考えていると。
「早速出てきたぞ。ブルースライムだ。」
某ゲームに出てくるようなスライムが出てきた。
なんというか、弱そうである。
初心者向けの森だそうなので当然といえば当然なのだが。
「さぁ、好きに戦っていいぞ。お前がヤバそうになったら助けるよ。」
「オーケー。じゃあやるよ。」
例の魔法使いとやった時にコツは掴んでいる。
あの時の感覚を思い出し、集中する。
両手を合わせて、徐々に開いていく。
そうするとあの時のように、黒く輝く球が手元にできていく。
あの時の威力なら、このスライムくらい楽勝だろう。
球がある程度の大きさになり、魔法を放つ。
静かに、名前を呟く。
「『暗黒閃・強』」
敵の強さに見合わない轟音が響き、辺りが黒い光に包まれる。
目がその閃光の明るさに慣れるころには、もう敵の姿は無かった。
一瞬で蒸発したようだ。
ふと二人に目を向けると、なにやらコソコソ話をしている。
二人は俺が見ていることに気づくと、手招きし俺を呼んだ。
「「ちょっと集合」」
「お前どういうことだよ。」
「どういうこと、とは?」
「あれは高位の魔法です。しかもあの種類は見たことがない。」
「高位ってどういうこと?」
「お前マジで言ってんのか?」
大マジである。
「だからそう言ってんじゃん、俺は別世界から来て、何者かに襲われて、そいつの魔法を真似して追い払ったんだって」
「そんなことが…いやしかし…」
黙り込む二人。
「そういえば、『高位の魔法』ってどういうこと?」
「エクス、よろしく頼む。俺は魔法専門外だ」
「頼まれました。」
そう答えると、エクスは魔法について説明をしだした。
「攻撃魔法にはいろんな種類があります。火、氷、風の三属性を基本に、様々な派生形があり、魔法使いは自分オリジナルの魔法を一つ持っています」
俺が使った魔法はその三属性には該当しないだろう。
どう考えても火でも氷でも風でもない。
「そして、攻撃魔法は威力によって三段階に分かれており、基本となる無印の魔法、強魔法、極魔法の順に強くなります。」
俺が使ったのは二段階目の強魔法か。
「魔法使いによっては、同じ段階の同じ魔法でも威力に差が出ることがあります。これは空気中に漂っている魔力を抽出する技術に差があるためです。」
つまり、上手い魔法使いは基本の魔法で強魔法に勝てることもあるってことか。
「まぁざっとこんな感じですが…」
「いきなり強魔法を使う奴は見たことがない。しかも基本三属性じゃない、聞いたことも見たこともない属性の魔法を。」
「シンヤ、あなたはとんでもない才能を持っているのかもしれませんよ?」
俺もそれについては疑問だった。いきなり魔法なんて使えるものなのか、と。
いくら俺の動体視力が良いからって初見で同じ動きができるもんなのか?
イマイチ釈然としないな。
「よし、いいこと考えた。シンヤ、お前俺たちの旅についてこないか?」
「あなたがいてくれたら旅が楽に、楽しみながらできるようになる。今のでそう確信しました。」
「旅は、楽しむもんだろう?」
良いね。この人たちは良い人だ。一緒にいて退屈することもないだろう。
俺はこういう世界に来るときは、パーティーを組んで冒険をするんだという妄想をたくさんしてきた。
良い旅になりそうだ。
「そうだ、お前誕生日いつだ?」
「3月1日だよ」
「じゃあシンヤが最後に20歳になるんですね」
「それじゃあ、シンヤの誕生日までは俺の家で過ごすといい。誕生日が来たら出発しよう!」
なんか申し訳ないけど、他に泊まるところの当てもない。
お言葉に甘えるとしよう。
街へと戻る帰り道、グランが口を開いた。
「一つ、思い出したことがあるんだ。」
俺とエクスは不思議そうな顔をしてグランを見る。
「シンヤの言っていた、謎の魔法使い。ここ最近、色んな街に黒髪のフードを被った魔法使いが出没しているそうだ。」
恐らく同一人物だろう。ということは…
「同時多発的に離れた場所に出没する、ということは…転移魔法による瞬間移動ですかね?」
エクスが俺の思っていたことを言ってくれた。
「その可能性が高いだろう。俺が戦った時も、俺が反撃するとすぐにフッと消えたんだ。」
「確定だな。一般人のシンヤに強魔法を使うってことは、その魔法使いは少なくとも強魔法は使いこなしている。」
「極魔法を使える可能性もありますね。」
極魔法の威力はよくわからないが、実力のある魔法使いであることは確定のようだ。
あまり出会いたくないが、万が一もう一度出会ってしまった時のことを考えて…
「俺、修行するよ。」
「ああ、俺もそれがいいと思う。シンヤは強魔法が使えるとはいえ、他はただの一般人なんだ。まずは筋力、体力。それが終わったら実戦形式でやろう。」
俺は実は物理アタッカーになりたかったのだ。
魔法が使えるに越したことは無いが、カッコいい武器を振り回して戦ってみたいものである。
「シンヤの誕生日まで丁度半年あります。最初の3か月は基礎体力トレーニング、後半の3か月は魔物を倒したり、僕たちと戦ったりして鍛えましょう」
そんな形で、俺…いや、俺達の修行の日々が始まった!




