説得
「シンヤ!!!」
そう叫んだグランの声が聞こえないほど、俺は動揺していた。
クソッ!!油断した!!
「『炸裂焼・極』」
追い打ち…!
俺はゴロゴロと転がるように魔法を避ける。
しかしその動きは、はたから見れば攻撃を食らって吹き飛んでいるようにしか見えないだろう。
その精一杯の動きの1フレーム1フレームにとてつもない痛みが伴う。
それはそうだ。
俺の左肩には現在、直径5センチほどの穴が開いている。
魔法が反射したことにより威力が落ちたうえでこの威力なのだ。
オーラめ。とんでもない魔法生み出しやがって。
どうする…?どうすればここから打開できる!?
その時、二つに別れた状態の自分の武器が目に入った。
「メリーさん、なんか必殺技的なのって無いの?」
いつもの実戦練習の休憩時間。
俺は何気なくそんなことを訊いていた。
「えぇ…?まぁあるにはあるけど…見たいの?」
「見たいです」
俺は即答していた。
トレーニングの動きを見ているだけでも、この人はレベルの違う強さを持っているということが分かる。
そんな人の必殺技なんて、見たくない訳がない。
「しょうがないなぁ…グラン、受けて。」
「母さんマジで言ってんの?俺死ぬぜ?」
メリーさんは口ではそう言うが、心底嬉しそうだった。
グランが木製の斧を構える。
両者の距離は10メートル程度。
グランの額に滲む汗から、本気であるということが見て取れる。
「行くぞ!!ガチで受けろよ!!」
メリーさんの口調が変わり、辺りに緊張が走る。
彼女は右手で剣を持ち、ググッと重心を下げる。
剣を上に放り、魔法を唱える。
「『氷結塊・複』!!」
3つの氷結塊を頭上に放ち、その高さが剣と重なる。
その瞬間、彼女は跳び上がり剣を逆手で握る。
回転しながら右手に握った剣で、放った魔法を打つ。
『カァーーン!!』という澄んだ音を響かせながら、弾かれた魔法はグランへと飛んでいく。
なるほど、確かにこれなら通常の氷結塊よりもスピードが出る。
しかし、これで終わりかと思いきや。
メリーさんは地面に降り立ち、重心を後ろへと移動させる。
脚に力を集中させ、一気に放出する。
『ドン!!』と音が鳴ったかと思うと、もう彼女の姿はそこにはなく…。
次の瞬間にはグランの80センチ手前。
先ほど弾いた魔法に追いつき、魔法と同時に攻撃を炸裂させた。
「『フローズン・スラッシュ』!!」
この世界では珍しい、横文字の必殺技を、魅せてくれた。
あの時、メリーさんは左手を使っていなかった。
通常であれば左手を使った方が効率が良い技だ。
そればかりか、右手のみの彼女の動きには大分無理があったように思う。
彼女は、この状況を見越していたのかもしれない。
アレは見取り稽古だったのだ。
そうに違いない。
そう思いたい。
俺の身体能力であの動きを再現できるかどうかは分からない。
だが、メリーさんの形見でもあるこの技、やるしかない。
二刀の内1本を拾い上げて右手でしっかりと握り、感覚を確かめる。
俺は重心を下げ、あの技の再現を始める。
「まだやる気か?やめておけ。オレは命まで取る気はねぇぞ?」
カイラは半笑いでそう言う。
「『氷結塊・複』」
そんな言葉には耳を貸さず、魔法を空へ打ち上げる。
だらりと垂れ下がり、感覚が無くなった左腕を庇いながら跳ぶ。
剣を逆手に持ち替え、スラッシュ。
『ギーン!』
記憶の中の音よりも少し鈍い、澱んだ音が響いた。
野球で言うところの、『バットの芯を外した』状態である。
右手が痺れる。
流石に片腕が機能しないとバランスが悪い。
着地。
そして前方へ。
突っ込む。
もう叫ぶ気力もない。
「『フローズン・スラッシュ』」
「遅えよ。」
俺の形だけの技は、『必殺』の名を冠したただの氷と鉄の攻撃となってしまった。
「あぁ。だがそれで十分だ。」
その俺の言葉でハッとしたのか、カイラは左右を見回す。
上だよ。バカが。
爆破されてむき出しになった宿の二階部分から、俺の自慢の仲間2人が攻撃を仕掛けた。
一人はメイスで、もう一人は双頭剣で。
双頭剣が奇しくも俺の傷跡と同じ左肩を貫き、動きを封じたところにメイスの一撃がこめかみに決まった。
肩から血を流し、頭が上下にグラグラと揺れてもまだ敵は立ち続ける。
「まだ…まだ終われねぇ…。」
何がお前をそこまで突き動かす?
「オレは…まだ…」
「もうやめてください!!!!」
その声に、その場にいた全員が振り返る。
「ジェーラ…出てくるな…!まだ終わってない…!」
意識が朦朧としていた俺は、絞り出すようにそう告げた。
その俺の忠告を聞きながらも、ジェーラはこちらへと歩を進める。
「カイラさん。聞いてください。」
とうとう武器を持ったカイラの目の前まで来てしまった。
俺たちは動かない。
いや、動けないのだ。
ここで俺たちがカイラに敵意を向けてしまったらジェーラを人質に取られかねない。
「私は5年前にフォルクスに来た時、何をしたのか、どんなことを喋ったのかなんてほとんど覚えていません。」
カイラがナイフを握りなおす。
俺はカイラの一番近くにいるケンさんとアイコンタクトを取り、いつでもジェーラを救出できるように陣形をとる。
カイラが動き出した、その瞬間。
「でも!」
ひときわ大きな声でジェーラは叫ぶように続ける。
「あなたの店のオムライスの味は、いつまでも忘れることができなかった!」
その言葉にカイラは動きを止める。
「売り上げは伸び悩んでいたかもしれない。でも!あなたは素晴らしい才能を持っていた!」
カイラは武器をを取り落とす。
「正当に評価されないことに憤りを感じていたかもしれないけれど、私みたいに心揺さぶられた人はきっといるはずです!!」
彼女の言葉は、心の奥底から湧き出た叫びとなってカイラへと伝わる。
「私は、5年前のあの店であなたに数えきれないほどのものを貰った!それに何度助けられたか分からない!」
「…そうか」
カイラはボソッと呟く。
「あなたは人を助けることができる!それなのにどうしてこんなことをするの!?」
ジェーラの目には、涙が浮かんでいた。
「しっかり努力すれば人を救えるって、どうして分からないの!?」
それを聞いたカイラは覆面を取り、両手を上げる。
「降参だ。」
その表情は、むしろ清々しいものに見えた。
その後、カイラは警察に連行された。
去り際に、ジェーラへ感謝を述べて。




