再戦
夕食後、みんなは疲れているらしく風呂に入ったらすぐに寝てしまった。
俺はというと…。
「…寝れんな」
さっきまで寝てたんだ、当たり前と言えば当たり前である。
ちょっと夜風に当たってくるか。
立ち上がろうとすると、座っていた椅子がきしみ、音が鳴る。
「ん?シンヤ君どこか行くの?」
ケンさんが目をこすりながら俺に言う。
起こしてしまったか。申し訳ない。
「ちょっと散歩です。眠くならないんで。」
「あ、そう。気を付けてね」
俺は手をひらひらさせて返事をする。
この宿は二階建て。一階はロビーや食堂になっている。
階段をゆっくり降りていく。
外に出るとまだ時間がそこまで遅くないこともあり、街の所々で明かりがついていた。
「いいこと考えた」
この街の東には、高い崖が切り立っている場所があり、天然の街壁となっている。
そこの上から夜景を見よう。
俺は一度街の門から外に出る。
崖の上は展望台が設置されているため、そこへ向かうための道も整備されている。
海に反射する夕日が綺麗で密かに知られているスポットらしい。
既に日は沈んでいるので夕日は見られないが…。
「おいしょ…っと。結構な急勾配だな。」
その道は、木で作られた階段が組まれた坂になっていた。
かなり急な階段を上る。
ここを毎日往復すれば脚に効きそうだ。
5分ほどで、俺は頂上へと着いた。
「これは…ランニングとはまた違ったキツさだな…」
有酸素運動には慣れているはずだが、俺は息が上がっていた。
メリーさん直伝スクワットくらい足腰にキく。
乳酸パンパンだ。
崖の上は少し開けており、景色が見える位置にベンチが置いてあった。
崖に面しているところは流石に柵が置かれている。
俺はベンチにドカッと座り、海と街の明かりを眺める。
現在は快晴、星も綺麗に見える。
「この世界の月は、ちょっと小さいんだな」
日本から見る月に比べて少し小ぶりな月を眺めながらそう呟いた。
港に目を移すと、灯台の明かりに引き寄せられるように船が行き来している。
こんな時間まで船の運航は続いているのか。
現在時刻は大体9時。
よいこはそろそろねるじかんだよ。といった所か。
海から聞こえてくるさざ波の音を聞いていたら、俺も眠くなってきた。
そろそろ帰るか。
そう思った瞬間。
『ドォォォォン!!!』
という轟音が響いた。
何事かと俺は崖の方を振り返り、街の様子を確認する。
すると街の西、港の近くから火の手が上がっているのが見えた。
あれは…!
「宿の方じゃねえか!」
俺は急いで来た道を戻る。
階段をタンタンタンと降り、ふもとへと急ぐ。
残り数段の時に足がもつれ、ゴロゴロと転がるようにして階段を抜ける。
受け身を取り、起き上がってまた走り始める。
クソ、何が起きてる?
何か敵が来たのか?
だとすると相当マズい。
今みんなは疲れて眠っている。万全じゃないんだ。
俺が戦うしかないが…武器を取ってくる時間はあるのか?
チクショウ、さっき階段を上った時の疲れが残っててうまく足が動かねえ…。
遅いながらも全力で走る。
すると、宿から立ち昇る煙が視界に入った。
炎の明るさに照らされて、宿の前に人影がいることに気が付く。
耳を澄ませて聴くと、声が聞こえてきた。
「シンヤ、帰ってきましたよ」
「よかった。思ったより早かったな」
アイツらか。
グランたちが対峙している相手は、言うまでもなくヤツだ。
あの覆面は、二度と忘れることは無いだろう。
カイラ…!
「ほい、シンヤ君。キミ、おれと同じ武器使うんだね」
ケンさんが俺へ双頭剣を渡す。
「偶然ですよ。昔からこの武器使ってみたいと思ってたんです」
そう話していると。
「お話のところ悪いけど、そろそろ始めるぜ?オレも無限に時間があるわけじゃないんでね…。」
各人、武器を構える。
俺も武器を強く握りしめ…
「シンヤさん、事の一部始終をお話しします。私と一緒に一旦後ろに下がってください」
あとででいいんだけどなぁ…
ま、ケンさんがいるなら負けることは無いだろう。
「OK、手短に頼むよ」
「一番最初に異変に気付いたのは私でした…」
ん?何か今物音がしたような…
そう思って目が覚めた次の瞬間、部屋のドアが『バン!!!』という音と共に開いた。
そこから入ってきたのは、あの時の覆面を被った人。
その時点で目を覚ましていたのは、もはや私だけではなかった。
私以外の全員がその3秒に満たない時間で武器を取り、戦闘の準備を済ませていた。
この人たちは戦闘のプロなんだ。
そう再確認した瞬間だった。
「もうその覆面、僕たちには意味ないんだからとっとと外したらどうですか」
いつもは優しくて穏やかなエクスさんが、怒りを露わにしている。
それはそうだ。故郷を滅茶苦茶にされて、怒らない人間なんているわけがない。
「おめーはバカなのか?オレたちはお前らから顔隠してるんじゃねぇ。街の人に見られないようにしてんだよ、指名手配されたらたまったもんじゃねえ」
覆面を外しながらカイラが言う。
「部屋の入り方からして、喋りに来たんじゃないんだろう?さあ、やろう。」
ケンさんが武器を構え、クイクイっと手招きするように挑発する。
「ジェーラ!シンヤの武器を取っておけ!アイツはじきに帰ってくる!」
グランさんにそう言われ、私は慌てて隣のベッドに立てかけてあったシンヤさんの武器を取る。
「ここでは少し狭い。ちょっと、広くしようか。」
カイラは覆面を被り直した。
何をする気だ…?
「『炸裂焼・極』」
彼は魔法を唱えた。
私はとっさにシンヤさんの武器で前方をガードする。
それでも爆発のエネルギーは凄まじく、私やみんなは二階の窓の外へと放り出された。
空中では姿勢の制御が効かない。
ダメだ、頭から落ちてしまう…!
しかし、覚悟していたその衝撃はこなかった。
「大丈夫かい?」
ケンさんが空中で抱き留めていてくれた。
「ありがとうございます…」
私はほっとしたと共に、シンヤさんの双頭剣を私が持っていないことに気づく。
あれ?どこいっちゃったんだろう?と、目をキョロキョロさせて探していると。
「これですか?」
と、エクスさんが双頭剣を持って私を腕から降ろしたケンさんに渡した。
「シンヤ、武器のこと大事にしてますから怒られちゃいますよ?」
エクスさんは私に笑顔でそう言うと敵へと向き直り、そちらの方向に歩いて行った。
「とまぁこんな感じなのですが…」
「明日武器の手入れ手伝ってね」
「はいぃ…」
ジェーラの説明を聞き終えた俺は、武器を片手に敵の方へと走る。
人数差もさることながら、ケンさんの猛攻で圧倒的に優勢のようだ。
俺が前線に到着すると、カイラは口を開いた。
「よし…全員揃ったな…。」
カイラは息も絶え絶えでそう言うと。
「ケン。お前に言っておくことがある。」
「なんだ。」
「メリーは死んだぞ。俺の指示でな。」
言ってはいけないことを、言ってしまった。




