団欒
「おう、父さんだぞ」
マジかよ。
グランと話すケンさんに、ドラゴンの爪が迫る。
「ケンさん!!後ろ!!」
彼はそれを聞くと、クルッと体を反転させ、剣を振るった。
その攻撃に、俺たちの攻撃ではビクともしなかったドラゴンが後ずさる。
「ありがと、エクス君。お久しぶり」
エクスに笑顔で手を振るケンさん。
「あ、それと。キミはシンヤ君…かな?メリーからの手紙で話は聞いてるよ~」
双頭剣を振り回し、敵の攻撃を的確に防ぎながら顔だけこちらを向け、笑顔で喋り掛けてくる。
ナニこの人。強すぎない?
「グラン、そちらのお嬢さんはどなた?おれ把握してないんだけど。」
「アストンで仲間になってくれたジェーラさんだよ。洞窟・廃坑の専門家で、山越えのために付いてきてくれたんだ」
グランとエクスは彼の強さに慣れているようで、平然と会話している。
「はえ~、そりゃ凄いな。どうも、ウチの息子たちがお世話になりました」
「あ…ハイ…。」
逆に俺とジェーラは引き気味だ。
「じゃあ色々聞きたいこともあるし、さっさと片付けちゃおうか。グラン、動けるな?」
「応!久々だな、父さんと共闘するのは!」
グランは背を向けていた木の幹を蹴り、ケンさんの脇を抜けドラゴンへと突っ込んで行った。
アイツは俺たちの中では一番力が強い。
とはいっても大差があるわけじゃない。
ドラゴンのうろこを切り裂けるほどの力はないはずだが…どうするのか。
「行くぞ!!」
グランはそう叫ぶと、ドラゴンの首に斧を振る。
しかし。
『キィーン!!』と大きな金属音がして刃は止まった。
やはり、切れない。
そう感じた次の瞬間。
「父さん!!」
「はいよ~」
ケンさんが後ろから、グランの斧頭目掛けて剣をフルスイングした。
剣の峰で叩かれた斧頭は、『ギィーン!!』と濁点のついた音を発しながら、『ズッ…ズッ…』と敵の首へと入っていった。
ドラゴンは苦しそうに甲高い咆哮を上げる。
その次の瞬間。
グランが斧を引き抜き、後ろへ飛び退く。
それを確認すると、ケンさんは剣を上に放り、体を回転させながら敵の頭を飛び蹴りする。
それを受けたドラゴンは脳震盪を起こしたのか、その場に倒れこむ。
ケンさんは一度着地したのち、もう一度飛び上がる。
上に放り投げた剣を空中でキャッチし、剣の先端の尖った部分を下に向け、先ほどつけた傷跡目掛けて降下する。
足より先に剣が着地、傷跡にピンポイントで剣を入れた。
そのまま全体重をかけた剣は、首を貫き地面へと到達する。
急所を貫かれたドラゴンは咆哮を上げたのち、こと切れた。
「ふう。いっちょ上がりかな?」
「全く…40超えたおっさんの動きじゃないですね。あれ、これ前にも言った気がしますね…」
木にもたれかかり、自分の治療をしていたエクスが言った。
「俺が聞いてる限りでも3回は言ってたな。父さんが39の時に言って『まだ40じゃないわ!!』ってキレてた」
「ハハッ…そうでしたね。いてて…笑うと響く…」
何そのエピソード。
…しかしすごいものを見たな。
ケンさんが強いのは驚かないが、適切な連携ができればグランもあそこまで動けるのか。
「おし。お二人さん、倒れてるところ悪いがここは危ない。もう一体ドラゴンが出てきた日にゃ全員生きて帰れないからな。おれが担いでいくから街まで急ぐぞ」
そう言うとケンさんは右肩に俺を、左肩にエクスを担いで歩き出した。
「来ねえな。そろそろ到着するはずなんだが…。」
カワサキ様からの指示でここセデスに二日前から居を構えている。
現在、奴らがセデスに入った時に報告ができるよう、時計台の上から街の入口を注視している。
奴らは山脈を越えられない。
必然的に北上してくるはずなのだが…。
「お。来たな…」
茶色のツンツン頭が見えた。恐らくグランだ。
いや、おい待てよ…?
「チッ。面倒なことになったな。」
ケンか。
オレは真正面からやり合ったらアイツには勝てない。
何か策を練らなければ…。
肉体的、もしくは精神的にデバフがかかるような策を。
…フッ。
「あるじゃねえか。新鮮で、とっておきの話題が。」
目が覚めると、天井が見えた。
いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「おはよう。もう夜だよ」
そんなに寝てたのか…。
「昼夜逆転しちゃいますねこれは…。」
日本にいた時はしてたけどね。
「ハハハッ。シンヤ君、キミ面白いね」
身体の痛みが引いている。これは恐らく…。
「エクス君が先に目覚めて君のことも治療してくれた。今みんなは下の階でご飯食べてるから一緒に行こう」
「ケンさん、ずっと俺につきっきりだったんですか?ご飯は?」
「まだだよ。息子の友達を邪険にはできないだろう。」
夫婦そろっていい人なんだなぁ…。
それなのに…メリーさんは…。
「ん?どうした?」
「いや、何でもないです。行きましょう」
あのことをいつ伝えよう。
俺はベッドから起き上がり、ケンさんの後ろを歩きながらそんなことを考えていた。
「おう!シンヤ、起きたか!」
「おはようございます、全力で治療したので僕もうクタクタですよ~」
「だいぶバッチリグッスリでしたね」
各々の手を握り、肩同士をコツンと当てて回る。
俺はこの欧米みたいなノリも結構好きだったりする。
「すいません、先食べちゃってて。今起きてくると分かってたんなら待ってたんですが…」
「起きるんなら起きるって言っておいてくださいよ~」
んな無茶な。
だがジェーラも俺たちのノリが分かってきてくれているようで嬉しい。
だが次の船の出発日である2日後、お別れすることになる。
寂しくなるな。
「じゃ、ケンさんとの再会を祝して、乾杯しましょうか」
「おいおい、おれはそんな大層な人間じゃないぞ」
「あの動き出来る人が大層な人間じゃないわけありません」
俺もエクスに同意だな。
「まぁまぁ、いいじゃん父さん。騒ぎたいお年頃なのよみんな」
いつも騒いでる筆頭のお前が何を言うか。
「じゃ、カンパーイ」
「お前がやるんかい」
ぬるっと乾杯の号令をかけた俺に、グランがツッコミを入れる。
慌ててグラスを合わせるみんな。
人が増えると、楽しいな。




