危機
「グランだと?」
全く意味が分からない。
こいつらの標的は俺じゃないのか?
「なんでグランなんですか?彼何かしました?」
アイツはチャランポランだが、ここまで大きな組織を敵に回すような行動はしないはずだ。
「何もしていない。だがそれが問題なんだ。グランは俺たちの組織に入るべき人間なのだからな」
衝撃的な言葉は続く。
「何も知らない君たちにオレが一から説明してやる。グランはな…オーラ様の弟なんだよ。」
オーラ。
暗黒閃・強を使い、この世界に来た俺を攻撃した魔法使い。
シルビアやカイラが様付けしているあたり、組織の中では高いポジションに就いているのだろう。
「グランは一人っ子ですよ!僕は幼い頃からの友達です、それを僕が知らないわけがない!」
「ちょっと黙ってろ。今説明する。」
ジロリと鋭い目で睨まれ、俺たちは蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
「ざっとした経緯はこうだ。冒険者だったケンとメリーは、旅の途中で子供を作った。双子だった。兄はオーラ、弟はグランと名付けられ、大層かわいがられたそうだ。」
ここまではありがちな話だが…。
「二年が経ち、二人ともすくすく育った。ケンとメリーは船を使ってエキストラ大陸に渡り子育てをすると決断、幼子二人を連れてそれまで滞在していたパンゲア・ウルティマ大陸北部の街・ランボを離れ、エキストラ大陸へと向かった。」
「エキストラ大陸の方が魔物が弱い。子育てには良い判断じゃないか?」
「通常はな。だが時期を見誤った。海は大荒れ、船が転覆した。その時グランは両親の近くにいたため、一緒に救助を待つことができた。幸い、転覆した場所はランボからすぐの場所だったため、救助はすぐに来た。」
「…オーラはどうなったんだ?」
「彼は見つからなかった。正確には、救助隊『には』見つからなかった、だがな。」
では誰が…
「では誰が見つけたか。それが我々の組織のトップ、カワサキセイヤ様だ。」
まさか、トップは日本人なのか?
それでオーラはカワサキの元で育ったってわけか…。
「だからといってグランがそっちの言いなりになる理由はないだろ。」
「そうです!グランはオーラの弟である以前に、僕たちの仲間なんですから…!」
「そうか…なら仕方ないな。この手は使いたくなかったのだが…」
そう言うとカイラはズボンのポケットから黒い板のようなものを取りだした。
あれは…!
スマホじゃねぇか!!!
「なんですかその小っちゃい板は?」
脳が追い付かない。
なぜこの世界にアレがあるんだ!!
「オーラ様、交渉決裂です。最終手段を。」
カイラはオーラに連絡を取った。
最終手段ってなんだ…?
「グランをこちらへ迎え入れるには、こちらにつかなければ大変なことになるということを頭に刻み込ませなければならない。故郷が燃えるとかね。ハハハッ!!じゃあなお前ら。オレはアジトに戻るぜ。『空間転置』!」
その魔法を唱えると、カイラとその他覆面四人はその場から消えた。
消えたというよりも、移動したというほうが正しいのかもしれない。
いや、それよりも…!
「アンタークが危ない!!!」
「どうしましょう…!今からでも引き返しますか?」
「それだと間に合わない!何か…何か方法は…!」
いや、俺の能力ならあるいは…
「さっきカイラが転移魔法を使ってた。その動きは再現できるからアンタークに飛べるかも!」
「それだ!!早くやるぞ!」
「戦闘になる可能性が高いです。ジェーラはここで待機を。」
「分かりました。皆さんの武器を持ってきます!」
ジェーラは宿へ走っていった。
どうしよう。アンタークが滅ぼされるかもしれない。
「シンヤ、大丈夫だ。落ち着け。」
「僕らが行けばきっと救うことができます。」
自然に流れた涙を二人が拭う。
こいつらにはいつも助けられてばかりだな…。
しばらくすると、ジェーラは武器を持って帰ってくる。
「『力譲法・破』!!私の持てる力を全て皆様にお渡ししました…絶対に…いきて…」
ジェーラはその場に倒れこむように寝てしまった。
この娘も無茶するなぁ…
この場に放置するのは気が引けるが、路地裏だし人もいない。大丈夫だろう。
「さあ二人とも、俺に触れていて。」
俺の右肩にグランが、左肩にエクスが手を置く。
カイラがやっていたように、両手で印を結ぶ。
「『空間転置』!!」
瞬きをすると、アンタークの正門前だった。
大きくて重い門を三人で力を合わせて開ける。
その向こうに見えたものに、俺たちは絶望する。
「遅かった…。」
「クソッ…クソォ…」
俺は声を出すことが出来なかった。
あちこちで煙が上がる、俺にとっての第二の故郷の変わり果てた姿を、ただ茫然と見ることしか出来なかった。
「行くぞ、二人とも。まだ生きている人がいるかもしれない。」
これが俺にできる最善の行動だ。
俺たちが瓦礫を片付けながら歩いていると、なにやら言い争っている声が聞こえてくる。
片方はとても聞きなじみのある声だ。
メリーさん!生きているのか!?
二人を呼び寄せてその声がする方向へ向かう。
そこには。
剣を手にしたメリーさんと、オーラが戦っているのが見えた。
「オーラ!!もうやめてちょうだい!!せっかくあなたに会えたのに、こんなのもうあんまりだわ!!」
ふと横のグランに目をやると、見ていられないという顔をしていた。
そりゃそうだ。自分には双子の兄がいたという事実も消化できてないのに、いきなり戦うことになってしまったのだから。
しかもその兄が、今実の母と戦っているのである。
「お願いだから、こっちに来て?少しお話しましょう?」
その言葉が響いたのか、オーラはメリーさんに近寄っていく。
メリーさんは剣を捨て、両手を広げている。
オーラを抱きしめようと、彼女も足を進めると。
「ごめん、母さん。」
「え?」
その刹那、街に黒い閃光がほとばしった。
「『暗黒閃・極』」
…。
嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だうそだうそだうそだあああああああ!!!
「母さああああん!!!!!」
グランが弾かれたように飛び出す。
土煙が収まる頃には、オーラの姿はなかった。
グランを追いかけ、メリーさんに駆け寄る。
彼女の腹部には、俺の肩に開いたものとは比較にならない大きさの穴が開いていた。
「エクス!!!早く治療だ!!!!」
止血しろ…!何か抑えるものはないか…?
「エクス!!!何してるんだ!!早く!!!!」
「…無理です」
何を言ってるんだコイツは…!
「無理なことないだろ!早くやるんだ!!!」
「無理なんですよ!!!メリーさんはもう助からないんです!!!」
そんな事って…
そんな…
瞬間、俺の脳内には彼女との記憶が鮮明に蘇る。
日々のお手伝い、特製スポーツドリンク、お誕生日会。
その全てが懐かしくて…。
ただ、虚しい。
「…グラン?」
か細い声で、メリーさんが話す。
「グランだよ!!母さん、大丈夫?大丈夫だよね!?」
「シンヤ君とエクス君もいるのかな…?私ね、もうダメみたい。」
「ダメなんて言うな!!!何とかなるはずだろ…?おいエクス!!」
グランはすがるような眼でエクスに言った。
「ッ…!何度も言わせないでください…!こっちだって辛いんですよ…!」
唇を嚙み締めた声は、震えていた。
「…君たちが旅立ってからはちょっと寂しかったんだ…私がいなくなっても、旅を止めちゃダメだよ…?」
その言葉を最後に、メリーさんはもう喋ることはなかった。
メリーさんの右手には、緑色の宝石をあしらったネックレスが握られていた。




