リプロデュース・アトムズ
集中すると、周りの動きが遅くなっていくのが分かる。
空を飛ぶ鳥、風になびく木。
既に手傷を負って死ぬ可能性だってあるというのに、俺の頭の中は至極冷静だった。あの時と同じだ。
奴の動きをよく見ろ。
暫くすると、奴の手元に黒く輝く球のようなものが出来上がっていく。
なるほど、あれが魔法か。
「『暗黒閃・強』」
次の瞬間、その球が弾け、黒いビームがこちらへ飛んでくるのが見えた。
周りの速度と比べると、そのビームがいかに速いかが分かる。
しかし、ビームの動きを目で視認出来ている。
この時点でこのビームは光速より遅いことが確定している。
よってこのビームは『光線そのもの』ではなく、圧縮したエネルギー体のようなものであるだろうと想像がつく。
だが、俺の身体能力では避けられない。
予想通り、ビームは俺の左太ももを貫通。
死ぬほど痛いが必要経費だ。
これであの魔法の放ち方は分かった。
再現する。
放つ前の奴の体の動き、息遣い、思考回路まで予想して補完する。
そうするとみるみるうちに俺の手のひらのうえには黒く輝く球が発生した。
成功だ。物は試しだな。
それから敵がやっていたように人差し指を相手に向け、銃を撃つように魔法を放つ。
口の動きまで再現するため、こっ恥ずかしい中二じみた魔法の名前を唱える。
「『暗黒閃・強』」
当たってくれ…!
祈りが通じたのか、俺が放ったビームは相手の足の甲のあたりに当たる。
「心臓を狙ったつもりだったんだがな…俺は相変わらずのクソエイムだ…」
痛む手足を庇いながら、絞り出すように声を出す。
顔の上半分をフードで隠した相手は、今まで微動だにしなかったその口を少し驚いたように開けて見せ、すぐにまた元の表情に戻った。
そして次の瞬間、俺の目の前20メートル程のところから突如として消え去った。
俺の目で捉えることができないスピードで移動したのか、単なる魔法なのか…
今は目の前の脅威が去ったことを喜ぶべきか?
しかし、血が止まらん。
このジャケットもズボンも、お気に入りだったんだがなぁ…
マズい。意識が薄れてきた。
俺は…もう…
死にたくない…!
「只今戻りました。…カワサキ様。」
これは由々しき事態だ。
「うん。ご苦労。」
私の魔法が完全に模倣された。あんな街のヒョロガリに…!
「どうしたの?何かあった?」
現時点では何も問題は無いが…。
「いえ、なんでもございません。」
もし、もしあいつが、相手の技を全て使えるようになるとしたら?
「そう?じゃあ最後の街、アンタークも問題なしだね?」
加速度的に、あいつは強くなる。
「はい。」
まぁ、当分は大丈夫だろう。それに、私の手札はあれだけではない。
「本当に問題ないのか…?」
「はい?何か言いましたか?」
「いや、何も。それじゃあ、各地の連中には計画を続けるように言っておくよ。」
私は負けはしないさ。
ここは…?
石造りの天井、ステンドグラス、祭壇もある。
どうやらここは教会らしい。
全く、どこまでも俺の描いた異世界そのものじゃないか!
肩と脚の傷は綺麗に止血されており、傷跡は縫われている。
さて、どうしたものかと考えていると、ドアの外から足音が聞こえてきた。
「さっきの人は?」
「奥で寝かせています。傷を受けたらしい場所も塞がっていますし、もうすぐ目覚めるはずですよ。流石エクスさんですね」
「それほどでもないです」
「おう、ありがとね、神父さん」
どうやら、俺を助けてくれた人らしい。
お礼を言わねば。
足音が近づいてきて、ドアが開く。
「お邪魔しまー…お、起きたね?」
「おかげさまで。助けていただいてありがとうございます」
入ってきたのは二人組の男性。二人とも年は俺とあまり変わらなそうだ。
一人は茶髪でツンツンした頭の戦士風の男。目は緑色だ。
「まだ痛むと思いますが、とりあえず目を覚ましてくれて良かったです」
もう一人は僧侶に見える。俺の傷はこの人が治してくれたのだろう。
銀髪で、青い目。イケメンというかは、綺麗な人という印象だ。
「さて、ちょっと色々聞きたいことがある。喋れるか?」
そう、戦士の男が言った。
「全然大丈夫っすよ」
俺が答えると。
「グラン、まずは自己紹介をしましょう。初対面なんですから」
と、僧侶の男が戦士の男に言った。
「おう、そうだな。俺はグラン。見ての通り冒険者で、前衛を担当してる」
「グランさんですね」
「おいおい、さん付けはやめてくれよ。敬語もいらない。まぁエクスはずっと敬語だが…」
グランと名乗った男がそう言うと。
「僕は幼い頃から年上に紛れて生きてきましたからね。敬語がスタンダードです。」
エクスと呼ばれたその男が続ける。
「僕はエクスです。僧侶やってますが教会には仕えてません。仕えかったんですがグランに連れ出されました」
「お前には戦闘の才能があったからな」
二人とも仲が良さそうだ。
「で、お前「あなた」は?」
息ぴったりだな。
「梶原慎也です。えーと…」
俺が言葉に詰まっていると。
「お前街の中でも見たことないんだよな。髪を後ろで束ねてる男なんて珍しいから見かけたら覚えてるはずなんだが…」
「恰好もこの辺りじゃ見ない服装してますしね」
うーん…これは隠すの無理だなぁ…
「いや~俺実は別の世界から来たんだよね~」
「「…。」」
静寂が流れる。
「「へ、へぇ~…」」
おっと、これ信じられてませんね?
「ま、まぁ特別な事情があるんでしょう、これを深く追及するのは野暮ってもんです」
「そ、そうだな。じゃあ次の質問だ。」
変に気を使わせてしまった…
「お前、なんであそこで倒れてたんだ?」
そうなりますよね。でもこれも信じてもらえなさそうなんだよなぁ…
「街の入口探してたら謎の魔法使いが現れて攻撃された」
「「へ、へぇ~…」」
もういいって。
「でも実際に、あれは魔法でつけられた傷でしたね…」
「え、そうなの?俺魔法使えないから分かんない」
本当なんだけどなぁ…
「でも、攻撃されたのならなんで殺されなかったんだ?」
「相手が放ってきた魔法を模倣して撃退した」
「「何言ってんのこの人」」
何言っても信じてもらえないなぁ…
「じゃあ、この近くに魔物とか出てくるところない?」
「ありますけど…なんでですか?」
「俺の言ってることが正しいと証明するよ。」




