状況一転
「いらっしゃいませ~、四名様でよろしいでしょうか?」
「はい四名です」
今日の夕食を奢ることになっているグランが対応している。
「あれ、貴方のその腕輪…カイラ様のじゃないですか?」
俺の腕輪を見て店員さんがそう言った。
「少々お待ちください?」
店員さんは店の奥へと入っていった。
しばらくして店員さんが帰ってくると、後ろになにやら人影が。
「おう君たち、オレの店に来てくれたの?」
人影はカイラさんだった。
「ここがカイラさんがやってる店だったんですか!私、実はこの店に来た事があるんですが、五年前と結構雰囲気変わりましたよね?」
ジェーラが驚いた様子で言う。
「そうそう。二年前にリニューアルしてね。そのあたりから売り上げが上がったんだ。」
「私ここのオムライスが好きだったんですけど、リニューアルでメニューも変わっちゃいましたかね?」
見るからにオムライスを出している店の見た目ではない。
「そうだねぇ…そのメニューはもうないけど一食だけだったらオレが特別に作ってあげるよ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
なんという太っ腹。
ジェーラは小さい子供のように跳ねて喜んだ。
思い出の味なのだろう。
奥の個室に案内され、席に座る。
俺は焼き魚定食、グランとエクスは仲良くすき焼き定食を注文した。
運ばれてきた魚は、恐らくサンマであろう。
いいね。俺はサンマは好きだ。
ご丁寧に大根おろしと、ポン酢がついている。
生前、俺はポン酢にハマっていた。
ステーキにポン酢、メンチカツにポン酢、刺身にポン酢。
ポン酢は万能だ。
特に魚介に関しては、合わないものがないんじゃないかと思うくらいよくマッチするのである。
また和食を食べられるのは嬉しい。
「シンヤお前…魚食うのめっちゃ上手いな!!」
俺の箸捌きを三人が食い入るように見ていた。
当然である。
父に叩き込まれたのだから。
お父さん、元気にしてるかなぁ…
「…お前、よくわからないところで泣くよな。」
自然に涙が零れていたようだ。
「すまん…地元の味がしてな…」
それを聞いた俺の隣にいるジェーラが、身を乗り出して反対側のグランとエクスに小さい声で話しかける。
「あの…シンヤさんの『別の世界』の話ってマジなんですか…?」
「僕らが見聞きした情報を統合すると、八割がたマジですね」
「信じられんと思うが、マジの可能性が高い」
聞こえてるよぉ…。
食事を終え、お会計をしようとするとカイラさんに『タダでいいよ?』と言われたが、そこまでしてい
ただくわけにはいかないので半ば強引に払って店を後にした。
もちろん、払ったのはグランである。
「奴ら帰ったか?」
「はい。やりますか?」
「ああ、オレの宿に行くには細い路地を通らなきゃならねえ。そこに差し掛かった時に一気に叩くぞ」
「でも、どうやって路地に入ったかを知るんですか?」
「ひ・み・つ」
部下にはあきれたような顔をされたがこれでいい。
カワサキ様に預けられたこの黒い板。
これにはこの街の地図と、腕輪の位置が示されている。
どうやってこんなことが出来るのかは全く分からないが、ありがたい技術だ。
よし。
「今だ!行け!ゴーゴーゴー!!!」
狩りの時間だ。
「オムライス、美味かった?」
「はい!あの時の味のままでした!」
店を出てからジェーラは機嫌がいい。
ずっとニコニコしている。
それだけ美味しかったのだろう。
宿へ帰ろうと歩いていると、行き止まりに当たってしまった。
「あれ?道間違えたかな?」
「いや、そっちに細い路地があります。そこ通らないと帰れないっぽいです」
どんな街の構造してんねん。
「デケェ宿なんだから、もっとアクセス良い所に建てればよかったのになー」
「同感です」
などと話していると、何やら足音が聞こえてきた。
足音はこちらへ迫ってくる。
俺たちは食後で、敵意を向けられることに対する感覚が鈍っていた。
次の瞬間、囲まれていることに気が付く。
マズい。
今俺たちは丸腰だ。
路地の前後から五人の武装兵が俺たちに向かってゆっくりと歩みを進める。
瞬間、俺はカイラさんが黒髪だったことを思い出す。
奴はシルビアと同じ組織だ。
もっと早く気付くべきだったんだ。
なぜあそこまで初対面の俺たちをもてなしてくれるのか。
俺たちの他にも旅人らしい人はたくさんいた。
なぜ俺たちにピンポイントで話しかけてきたのか。
その時、ハッとする。
例の組織の人間以外、俺はこの世界で黒髪の人を見たことがない。
俺の黒髪は、とてつもなく目立ちやすいんだ。
クソッ!
俺のせいでみんなを危険に晒すことになるのか?
そんなことはさせない!
「すまんみんな、一度で理解してくれ。カイラさんは敵だ。シルビアと同じ組織で…」
これで伝わると思ってはいない。
最悪俺一人で戦うことになるが、仕方ないだろう。
「お前は『こんなの伝わるわけない』だのと思っているだろうが、俺たちを舐めるなよ?」
「半年過ごした仲を甘く見ないことですね。」
ああ。コイツらは前からこういう奴だったよ…!
「戦うぞ。」
「「応!!」」
俺たちはジェーラを中心に前方にグラン、後方は俺とエクスで守ることにした。前方の敵は二人で後方は三人。
グランは肉弾戦に長けているため、一人で前方を守ってもらうことにした。
「分かれたか。丁度いい、話をしよう」
後方三人のうちの一人が口を開いた。
「お前は自分が狙われていると勘違いしているな?カジワラシンヤ。」
俺のフルネームを…!?
被っていた覆面を取ったのは、カイラさんだった。
「オレが狙っているのはな…」
ゆっくりと一歩前に出て。
「グランだよ」
はっきりと、そう言った。




