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焼き魚

『アレを?…フフッ。たった一つの書物から、噂は広がるものなんだねぇ。』


「して、どうします?」


『やれたらで良いよ。最悪こちらの大陸にさえ来させなければね。最終手段はオーラに伝えてあるし。』


「では、最善を尽くします。」


「ああ。頼んだよ、カイラ。」


オレがここまで力を獲得できたのは、カワサキ様のお力添えあってこそだ。


基本的な資金援助に加え、商売の方針も相談に乗ってくれた。


なぜそれほどまでに知識があるのかは分からない。

でも、彼の言う通りにしていたらいつの間にか店はとんでもなくデカくなっていた。


感謝してもしきれないね。





「久々の柔らかいベッドだああああい!!!」


「枕投げ!!しましょう!!」


カイラさんのご厚意でスイートルームにご案内された俺たち。

壁が分厚いので騒ぎ放題である。


「シンヤさん…あの人たちっていつもあんなんなんですか?」


「ん?いつもは俺もあっち側。でもツッコミの役割がジェーラに集中するといけないから我慢してんの。」


「ありがとうございます…?」


困惑気味にジェーラは謝意を述べる。


「あ、そうだ今日飯どうする?何が食べたブフッ!」


俺の顔面に枕が直撃した。


「お前らマジブチ転がす」


ぬるりと立ち上がった俺を見るなり、二人は逃げ回りだした。


「エクス!先に捕まった方が今日の夕飯奢りな!」


「望むところですよ!!」


「人に追いかけられてる時に賭け事を始めるな!!」


その後、5分ほど鬼ごっこは続き、夕食はグランの奢りとなった。




「驕ったが故に奢ることになっちまったな!ガハハ!!」


「ガハハじゃねえんだよ」


クソほどしょうもないことを、俺の予告通り転がされながら言う。


「ジェーラも参加します?」


この期に及んでまだやる気なの?


「遠慮しときま~す」


ニコニコしながら断るジェーラ。


「てか、もう夕方だぞ。どこの店行くとか決めてんの?」


と、グラン。

そういえば決めてなかったな。


「あ、それなら私行きたいところあるんですけどいいですか?」


「「「いい『です』よ」」」





「ここ…なんですが、雰囲気が前と違いますね…」


おぉ…こりゃまた物凄く…。


「異質な雰囲気ですね。別の世界みたい」


「よし、入るか…シンヤ何してんの?」


めちゃくちゃ和風な建物を前に呆然としてしまった。


アンタークでもちらほら見られた、和風な建物。


家族で地方に旅行に行った時の旅館を思い出す。





俺は幼い頃から旅館の雰囲気が好きだった。


伊豆半島の南、下田。


小学校3年生の春休み、家族でここに来ていた。


「海は?海あるの?」


「あるけど今3月だから入れないよ」


それを聞くと俺は頬を膨らませ、不機嫌になる。


「わざわざ旅先で風邪ひきたくないだろ?」


車のハンドルを握りながら、父はそう俺をたしなめた。


「砂浜を歩いたり、宿でゆっくりするだけでも楽しいぞ?」


その時の俺にとっては、そうは思えなかった。

車が宿に着き、部屋に案内される。


「俺はちょっと車の運転で疲れたからここで寝とくよ。お母さんと海の方にでも行ってきたら?」


「うん!お母さん、早くいこ!!」


俺は母の手を引き、グイグイと引っ張っていった。


母は『ハイハイ、転ばないでね』といった感じで俺の後ろをついてきた。

砂浜で母と貝殻を探したり、近くにあった洞穴に入ってみたり。


遊べるものは何でも遊びつくした。

夕方になり、遊び疲れて自室に帰る。


「お父さん、ただいま!お風呂行こ!」


「よし、待ってたぞ~、行こうか!」


この宿屋には温泉があった。

俺は昔から温泉のあの独特な匂いが好きだった。


さっさと身体を洗い、湯舟へと向かう。


ここの温泉には大浴場の他に露天風呂もあった。

3月のまだ冷たい空気が、火照った裸体に心地いい。


家の風呂は嫌いだが、露天風呂は大好きだ。

温泉を心ゆくまで堪能したのち、部屋に戻った。


さあ、次はお待ちかねの夕食である。

部屋のテーブルに並べられた、釜に入った白米や旬の真鯛など、豪華な品々を前にして、俺はテンションが上がっていた。


「どうしよーかなー?何から食べようかなー?」


迷った結果、俺が最初に箸をつけたのは鯛だった。


俺は昔から箸の扱い方は父に厳しくしつけられたものである。


よって、魚の食べ方に関してはそれなりにこだわりがある。

まずは身の背中側から箸を入れ、食べる。


しっかり骨の近くの身もこそいで食べる。


骨の近くが一番美味いのだ。


片面を食べ終わったら、ひっくり返すのではなく尻尾側をつかみ、背骨とそれについている中骨を下側の身から剥がす。


ゆっくり、背骨が折れないように。


「…。」


上手くいった。

背骨を取ってしまえば下側の身は食べやすい。


好きに食べてしまえばいいだろう。

食べ終わった皿を見て、父が言う。


「お!魚食べるの上手くなったな!免許皆伝、二重丸!」


懐かしい。あの伊豆の夕日、もう一回見たいなぁ…


…いやいや、それじゃあ何のために死んだのか分からないじゃないか。

でも、向こうにいたままだったら何か変わったんじゃないだろうか。


ここ最近、そんなことを思うことがある。






「いや、何でもないよ。中入ろうか。」


俺は三人の後に店に入った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こちらの異世界でしっかり楽しく過ごせているけれど、元の現実世界での思い出もとても素敵なものですね! 箸の使い方を教えてくれたり家族旅行に行ったりと、きちんとした家庭で育てられたという印象で…
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