カイラ
敵の眉間に俺の拳が叩き込まれる。
毒で弱っていた敵には決定打となったようだ。
敵はズドンと大きな音を立てて倒れる。
「とどめを刺しておきましょう。」
その言葉に俺は頷くと吹っ飛ばされていた双頭剣を拾い、比較的柔らかいが戦闘中に攻撃することは難しかった顎と首の間に刃を突き立て、斬る。
「血には触れないようにしてください。毒が回っているので。」
俺はそれを聞き、足元に流れてきた血を避けるように後ずさる。
おっと、そうだった。
双頭剣を分解し、二本の剣へと変える。
その二本を頭上でクロスさせ、大きな音が鳴るように勢いよく叩きつける。
『キィーン!キィーン!!』と、二回音を鳴らす。
そうすると、後方遠くから走っているだろう足音が聞こえてきた。
「マジで倒したんですか、凄いですね」
目を見開いてジェーラが言う。
「え、勝てないと思ってたの?」
「いや、あの女より強そうじゃないですか、コイツ」
いやまあそうだけども。
「これで少しは僕たちに対しての信用上がりましたか?」
「ええ、そりゃあもう。」
その後は途中交代制で見張りを付けて仮眠を取ったりしたが、特に何事もなく廃坑を抜けた。
山脈の向こう側は一面の草原だった。
空気はカラッとしていて暑く、旅行で行った沖縄を思い起こす気候だ。
心地の悪い暑さではない。
しかし、もう夏は過ぎたというのに本当に暑いな。
厳しい残暑の中、先の戦闘の影響で少し仲良くなったジェーラと話しながら歩く。
「スパイに行くときもシグネはあんな感じだったん?」
「あれ以上ですよ、命掛かってますからね。」
「まぁ今回も結果的に命掛かってたけどな」
「マジで笑い事じゃないんでやめてください」
そう言うが、ジェーラの口からも笑みがこぼれている。
「ジェーラはフォルクスに着いたらどうするんだ?もしかしたらああいうのがまだ居るかもしれないからすぐ帰るのは危険だよな?」
「ちょっと予定を変更して、もう少し北上します。皆さんはパンゲア・ウルティマ大陸を目指してるんですよね?」
「そうです、『時を操る秘宝』っていうのを探しててですね…」
「私はその話については懐疑的なんですが…」
それを聞くと明らかにエクスがムッとする。
初めて会ったときはコイツが一番現実主義だと思ってたんだがなぁ…。
「なら、エキストラ大陸北部及びパンゲア・ウルティマ大陸南部は立ち入り禁止なのは知ってますよね?」
グランとエクスは首を縦に振る。
が。
「え、俺それ知らないんだけど」
三人が『マジかお前』とでも言いたげな表情で俺を見る。
半年も一緒に居たんだから教えておいてくれよ二人とも。
「なんで立ち入り禁止なの?」
「単純に気温が高すぎるんだよ。俺たち人間のみならず、大型の哺乳類が生きていける環境じゃないんだ。」
「あの地域で生きていけるのは主に小型の動物ですね。しかし大きくてもその気温に適応したものもいます。あそこでの生態系の頂点にいるのは爬虫類の王、ドラゴンですよ」
ドラゴン、見てみたかったなぁ…。
それに近いものは見たけどね。
「赤道付近ともなれば四季すらありません。年中無休で気温は50℃。死の大地ですよ。」
終わってんな。
「話を戻します。パンゲア・ウルティマ大陸に行くならフォルクスの北にある港町、セデスの経由が必須です。セデスからは海路で海に面した街ならどこでも行けます。」
なるほど。それで山脈以南の街に戻ろうという算段か。
「と、いうことで。セデスまではお世話になると思います。よろしくお願いします」
ジェーラはそう言って頭を下げた。
「全然いいよ~。」
「ジェーラがいたほうが旅も楽しくなると思いますしね」
「ま、仲良くしようぜ!」
さぁ、次の街まではもうすぐだ。
「カイラさんの…」
「カイラ様に…」
「カイラさんが言うには…」
みんな、オレの話をしている。
とても気分がいい。
この街が手に入るのも時間の問題だな。
邪魔が入らないといいが…
…いかんいかん。
オレが考えたことは大体当たるんだ。
不利なことは考えないに越したことはない。
「賑わってますねー!」
「だな。今まで見た街の中で一番人が多いかもしれない」
フォルクス。
トランスアンタークティック山脈の北部、フォルクス平原に位置するこの街は、『経済の要所』や『商人の街』と呼ばれている。
この世界は基本的に国は無く、街単位で貿易を行っている。
その貿易の中心地として栄えているのがここ、フォルクスだ。
あくまでもエキストラ大陸の中心地というだけで、パンゲア・ウルティマ大陸にはさらに大きな街もあるというのだから驚きだ。
「幼い時にここには来たことがありますが、その時はこれほどまでは栄えてなかった記憶があります。だれか凄腕の商人さんでも移住してきたのかも…」
と、ジェーラが言う。
街の大通りを歩いていると、俺たちに声がかけられた。
「見ない顔だね?旅人さんかい?」
黒髪を短髪にして、丸眼鏡をかけた男。
「オレはカイラだ!ずっとこの街で店を出してたんだが、二年前ぐらいに才能が開花したみたいで爆発的に儲けが上がったんだな!」
明るく笑う、カイラと名乗ったその人。
「よろしくお願いします、カイラさん。ちょっと山越えをしてきたもので疲れてるので、ここの街には3日ほど滞在して休もうかと思ってるのですが…」
「そりゃあ大変だったな、ゆっくり休むといいぞ。オレが経営している店の傘下に、宿屋がある。何かのよしみだ、泊まっていくといい」
なんだか申し訳ないが、路銀に余裕もない。
お言葉に甘えるとしよう。
「ありがとうございます。して、宿屋はどこに?」
「ここから少し離れたところにある。案内するから少し話そう」
宿までの道中。
「君たちの目的地はどこなんだい?」
「パンゲア・ウルティマ大陸です。こっちの二人が『時を操る秘宝』を見つけたいとかで…俺も興味あるので付いてきたって感じです」
俺がエクスとグランを指すと、二人は『いえーい』とピースサインを作った。
「ハッハッハ。オレも向こうにいた時に探したよ。見つからなかったけどね。」
信じてる人他にもいたんだ。
「かの大陸はデカい。とてつもなくな。探すのなら長期戦を覚悟した方がいいぞ」
「ですね。俺は引きこもり気質なので同じ場所に留まりたいんですが」
苦笑いしながら答えていると。
「着いたぞ。ハイ、これ。」
そう言うとカイラさんは赤い宝石の付いたブレスレットを俺に手渡した。
「それ見せればタダで泊まれるから。街出るときはオレ探して返しとくれーい。じゃーな!」
そう言うと、彼は足早に去って行ってしまった。
なんというか、つかみどころのない人だなぁ…。
「彼らと思われるパーティーに例の腕輪を渡しました。」
『うん、お疲れ。』
「それと、一つ面白いことが。」
『何?』
「彼ら、貴方のあの装置を狙ってますよ?」




