新メンバー
翌朝。
昨日の食事会に参加したメンバーが、街の門までお見送りに来てくれた。
「ジェーラ、元気でね…」
シグネが涙をポロポロこぼしながらそう言う。
彼女、泣くタイプだったんだな。
「すぐ戻りますよ、山越えのお手伝いするだけですから」
「うぅ…でもぉ…」
シグネはジェーラの手を離そうとしない。
「そういえば、すぐ帰るって言ってもジェーラは帰り一人でも大丈夫なのか?」
グランがそう訊く。
「大丈夫です、あそこの廃坑には弱い魔物しかいませんし、こちら側の高原は魔物が出にくいスポットを知っているので。」
ジェーラがシグネに抱きつかれながらそう言う。
「いい加減に離してください、山に着く前に日が暮れてしまいます」
「うぅ…ごめんねぇ…でももうちょっとだけぎゅっとしてていい?」
「あと5分だけですよ」
俺には淡々と『スパイに出した』って言ってたがその時もこんな感じだったのだろうか。
なんというか…ジェーラは苦労人だな…。
しばらくして、だいぶ粘ったシグネも落ち着き、俺たちは街を後にした。
この街には俺らが帰ってくるときも寄って行こう。
仲良くなった人もいることだしね。
「じゃあ短い間だけど一緒に旅をすることになるんだ。自己紹介でもしようか」
グランがそんな提案をする。
「じゃあ僕から。エクスです。僧侶やってます。」
「破戒僧…」
「破戒僧だ」
「そこ、黙っててくださいね」
メイスを喉元に突き付けられたので黙って聞くことにしよう。
「そこの二人とは友達です。お互いの裸を見た仲です」
おい、言い方に語弊があるぞ。
…ほらジェーラちゃんドン引きしてるじゃん。
「俺はグランだ。エクスとはおさなななじみだ。」
「なが一個多いぞ」
「アホが露呈しましたね」
そんな俺たちの言葉はお構いなしにグランは続ける。
「眠くなったら子守唄を歌ってあげよう。俺は歌が上手いんだ」
「キッショ。」
「流石に僕もそれはドン引きです」
エクスはあまり人のこと言えないと思う。
「俺はシンヤ。君たちにとっては珍しいだろうが名字がある。梶原慎也だ、一応覚えておいてくれ」
「あなたはまともそうで」
「あと俺、別の世界から来たんだよね」
一瞬でジェーラの表情が曇った。
「うんうん、分かる。俺たちも最初そんな顔になった。」
「ゆっくり慣れていきましょう」
それを聞いたジェーラがボソッと。
「私選択ミスったかな…」
傷つくぞ。傷ついちゃおっかなー!!
「私はジェーラです。孤児院出身で、15歳のころから教会で働いてます。シグネさんとヴァルカン様にはとてもお世話になりました。」
あの二人面倒見良さそうだもんなぁ。
「洞窟の雰囲気が好きでよく遊びに行ったりもしてました。それが転じて洞窟や廃坑、地下通路なんかの研究をしてます」
ダンジョン攻略には欠かせない、シーフのような役割か。
でも『シーフ』って言い方、あんまり好きじゃないんだよね。泥棒みたいで。
もっとなんか他にカッコいい言い方無いものかね。
…探検家。エクスプローラーなんてどうだろうか。
「あのー?」
「お前、昨日から人の話聞かなすぎな。」
おっと。これは俺の悪い癖だ。
考え出すと止まらなくなって、周りが見えなくなる。
え?目は良いのにって?
やかましいわ。
「ごめんごめん。こんな変人たちで申し訳ないけど、よろしくね」
「あなたも例外ではないですが」
そうでした。
しばらく歩いて、山のふもとの昨日言った洞窟から東に2キロメートルほど行った所にある廃坑の入口へと到着した。
「ここからは魔物が出ます。さほど強くはありませんが、警戒してくださいね」
「おう、俺らに任せとけって…なんでそんな目で見るの?」
グランがそう言うが、理由は明確だろう。
「お前ら、昨日ずっと寝てたから信用されてねーんだよ。」
「えぇ…あれはしょうがなくないですか?回避不能ですよあんなん」
その代わり、俺は結構いい所見せたのでジェーラからの信頼は厚いはず…
そんな期待を込めた目でジェーラを見ていると、申し訳なさそうに。
「あなたの戦闘能力と機転は凄いと思いますがさっきみたいな言動をされるとちょっと…」
泣いていいかな?
…現在時刻は太陽の傾きからして午前11時といったところ。
この大きい山脈だ。恐らく今日中には抜けられない。
中でキャンプをすることになるだろう。
廃坑内の安全確保の方法を、俺は知らない。
だが、ジェーラがいる。その辺のことは大丈夫だろう。
それでもできるだけ早く抜けるに越したことは無い。
気合い入れていこう。
「ここの廃坑はエキストラ大陸最大と言われています。よって地図の量も膨大で、このような、一冊の本になっています」
中学生の時に配られた地図帳のような、20ページくらいの薄い本。
あれ全部が廃坑の地図だというのだから驚きだ。
「廃坑というのは鉱石をとるために作られた坑道が使われなくなったものです。鉱石を効率よく採掘するため坑道は蜘蛛の巣のように広がっており、広大です。」
「俺たちの目的は早く向こう側へ行くことだ。最短ルートで行こう。」
「そうもいきません。」
シグネが続ける。
「坑道には、経年劣化によって床や天井が脆くなっている場所があります。そうした場所は坑道ができた経緯や順番を考えれば分かります。」
なるほど。そうした場所を見極めながら進まないといけないってことか。
中々骨が折れるね。
「ですが…脆くなっているであろう場所は私が事前に地図に印を付けておきました。そこを通らなければ基本的には大丈夫だと思いますよ。」
あらヤダこの娘優秀!!
「では…行きましょうか。」
それを聞いたグランが、俺に耳打ちしてくる。
「なぁ…これ俺たちいるか?」
困惑しているご様子。
「目を覚ませ、これは俺らの旅だぞ」
「あ、そうだった」
「僕も一瞬旅の目的忘れてました」
ひっぱたくぞ。
廃坑の中を進む。
よく人が通るとの情報は正しいようで、廃坑内は綺麗に整備されていた。
…最初の方は。
廃坑の奥に入っていくと明らかに入り口付近に比べて薄暗く、道や壁も汚くなっている。
それに。
「おかしいですね…今まで魔物に一切出会っていません。」
本来いるべき場所に魔物がいない理由は大きく分けて二つある。
一つは、魔物が住処を移した場合。
廃坑内には他に移せるような住処は無い。
「おい、そこの陰に何かいるぞ。」
全員が武器を取り、戦闘態勢になる。
二つ目の理由。
それは、アンバランスなほど強力な力を持つ捕食者に狩りつくされてしまった場合。
物陰から出てきたのは、ジュラ紀に絶滅した地球の生物。
アロサウルスだった。




