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(3)

お楽しみください〜

吐き出された場所は、予定通り僕の家の土間だった。でも、どこにも手紙がない。


もしかしたら、もう母親が手紙を開封してしまったのだろうか。

しまったな、「今日どこかで死ぬ」なんて書いたものだから、母のことだ、きっと手紙を握りしめ、僕を捜しに出て行ったに違いない。


僕が俯いて土間に正座していると、背後で素早く布がこすれるような音がした。

振り返ると、道化師が時空の裂け目を両手で塞いでいるところだった。空中の中で手のひらを何往復もさせながら、継ぎ目を封じていっている。


へえ、時空の裂け目ってこんなやり方で塞ぐことができるのか、なんて感心もしたけど、なぜ道化師が時空の裂け目を塞いでしまうのだろう、という疑問も湧いた。


僕はよみうりランドに帰らなくたって構わない。

でも、こいつはよみうりランドの住人なのだ。きっと、よみうりランドの従業員寮に住み込みで働いているんだろう。

よみうりランドは明日も営業しているはずだし、帰らなくていいはずがない。



「ここの最寄り駅からよみうりランドまでは、四十分くらいかかりますよ」



僕は親切心から教えてあげた。あと、一応謝っておくか。


「すみません、急いでいたものだからあなたに『どいてくれ』と一言声を掛けるのを忘れていました。

すぐに家に帰らないといけない事情があった時に、あなたの両脚の間に時空の裂け目を見つけてしまったものでして。

僕はすっかり、慌ててしまったんです。こんなところへ一緒に連れてきてしまって、実に申し訳ない」



道化師は何も答えず、相変わらず白塗りの笑顔を保っている。


僕はなんだか苛ついた。

自殺もできなかったし、夏休みは終わってしまうし、母に手紙は見つかるし、いいことがない。


そこに、この道化師の間抜けなにやけ顔だ。ああ、早く帰ってくれないかな。電車ならまだあるはずだ。



「あの、時空の裂け目はあなたが塞いでしまったから、駅から帰るしかありませんよ。

ただ、うちから最寄り駅までは徒歩で二十分ありますけど。何なら、タクシー呼びましょうか?」



と、帰りを促す。

タクシー会社の番号は、母が電話の前に貼っていたはずだ。もちろん、Googleで調べたっていいけれど。



「どうします?」



少し語気を強めて突き放すように云ったが、相変わらず道化師は口角をあげてにやついている。

なぜ帰ろうとしないのか。帰りたくない理由でもあるのか。


こいつは、もしかしたら、強制連行でよみうりランドに連れてこられた道化師なのかもしれない。

朝から晩まで間抜けな芸を休みなくやらされて、給料は全て吸い上げられる。

寮と遊園地の往復の日々。

休日はなく、一年中よみうりランドの敷地から出られず、外の世界を夢見ていた。


そんな時、時空の裂け目に偶然巻き込まれ、ここ、京王堀之内の駅まで逃れることができたのだ。

京王線をよみうりランドと逆方向に乗れば、そこは自由の街・新宿。新宿までたどり着ければ、よみうりランドの追っ手を撒くことができる。


雑踏に姿を紛れさせ、潜伏し、メイクを落とし……道化師という役割を捨て去り、一人の女として生きていける……。


道化師の身の上を勝手に空想しながら、自分で呟いたこのフレーズにふとひっかかった。



「一人の女として生きていける」。


続きます!

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