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noteに載せた作品です。

5話で完結します。お楽しみください!

夏休み最後の日。僕はよみうりランドに向かっていた。

自殺をしようと思っていたから、少しにぎやかな場所で、にぎやかな人たちに紛れて死にたいって思ったんだ。


よみうりランドにしたのは、なんとなく、小倉優子が気になったから。

今年の夏は、京王線の駅で乗り降りするたび、レモンイエローのビキニを身に着けた小倉優子が、媚びた上目遣いで僕を見つめてくる夏だった。


小倉優子のささやく声。


「シャチョさん、シャチョさん。よみうりランドにイラッシャイヨ」。


          ◇


好きなアトラクションなんてひとつもない。でも、人生最後の日だしどれか乗ってみようか。


「エー、バンデッドバンデッド、バンデッドあるヨー」


そんな呼び込みも聞こえる。

ああ、どれがいいんだろうか。僕の最期にふさわしいアトラクションは。


その時、はっと思い出した。

残してきた遺書に、書き忘れていることがあることを。


これは云っておかねば、というような大切な事柄だ。


ああ、母があの手紙を見つけてしまう前に。

書き直して、また改めて玄関の土間に置いてこなければ。


よみうりランドから家に戻るには、京王線でそれなりに時間がかかる。それに、往復してる間に閉園時間が来てしまうかもしれない。



「どこかに時空の裂け目はないか?」



僕は独り言を呟いた。

時空の裂け目を見つけられれば、よみうりランドにいながら、家の玄関に帰ることができる。


裂け目から上半身を乗り出して、土間に置いた手紙を取り、よみうりランドに持ち帰る。そして売店でペンを買い、書き直し、また裂け目から土間に置いておけばいい。


僕はアトラクションそっちのけで、時空の裂け目を探した。

園内を競歩のような歩調で素早く歩き回る。


こうやって不特定多数の人間が集まる場所は、裂け目も姿を紛れさせやすいから、しれっと生じている可能性が高い。

心ない客のひとりが、マットやテントを切り裂いて、そこに裂け目ができていたりだとか。

遊園地じゃ誰も彼もが浮き足立っているから、気持ちが大きくなってそんないたずらをする輩がいても不思議じゃない。


沢山のひととすれ違った。


家族連れにカップルに。

僕はすれ違った子どもと女のジェラートをすいっと奪い取り、食べながら歩いた。


子どものジェラートはバニラ味。

女のものはブラッドオレンジの味。


知覚過敏が染みるのがイヤだから、唇でむしるように食べる。


炎天下で暑いし、何よりよみうりランドは土地が広大だから、栄養補給しながら移動しないと干涸びてしまう。ジェラートの強奪くらいは許してくれるだろう、なあ、優子。


二つのジェラートのコーンは、食べずに道に捨てた。

僕はコーンが嫌いなんだ。


続きます〜

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