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ヴォロディア仙導戦記  作者: 萬井 歌舞人
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第1章 アイゼニアの姫のこと 9-6

「邪魔をしてすまなかったな」

 ウォルフが弟に声を掛ける。

「あとは一人で色々試してみるよ。自分の鍛錬に戻ってくれ」

 そう言ってみたものの、ナッシュはおろか誰一人としてその場を離れようとしない。

「ん?どうした?」

「あとは何を試すんだ?見てみたい。続けてくれ、兄貴」

 後ろからの視線を感じて振り返ると、ティアナが目を輝かせてこっちを見ている。ゼノンは腕を組んで、大きく頷いてきた。

「ノルドの剣が、こんなだと思わなかったな・・・」

 ギリアムが剣を片手に頭を掻いた。

 除霊などの希少な効果があるとされるノルドの剣は、国宝レベルの扱いをされるのが普通だ。所有者は数多あれど、いづれも厳重に保管されており、実際に触れたことがある者などそうはいない。伝説のように祭り上げられている武器にしては、造りが粗雑すぎて、あまりにも期待外れだったようだ。

 皆、口には出さないが、ユリウスの手帳に残された魔法こそが、最大の武器となる可能性が高いと考えているのだ。その魔法が生死を分けるかもしれないと感じている。

 全員が期待を込めた眼差しでウォルフを見詰めている。

「では・・・」

 ウォルフはあきらめて肩をすくめた。 

「武器以外にも付与できるかどうか、やってみます」

 口の中で呪文を唱え始める。先刻より早い。たちまち魔法陣を構築すると、間髪入れずに解き放った。

 狙いは、先ほどナッシュが切り落とし、地面に落ちている枝である。

 魔法陣から放たれた光が、枝に着弾した転瞬、淡い光が生じた。白い光は枝全体を包み込む。

 ギリアムが歩み寄って枝を拾い上げた。

「ちゃんと付与されてますね」

 何度か向きを変えながら、手の中の枝を眺めてギリアムが言う。

「時間を見ててください」

 言うが早いか近くに生えていた大木に、激しく枝を打ち付け始めた。魔法のかかった枝を剣に見立てて、何度も何度も木の幹に叩き付ける。

 ギリアムは完全に光が消えるまで休むことなく枝を振り続けた。

「どうですか?」

「ナッシュの剣と変わらないな」

 僅かに呼吸を荒くしたギリアムの問いに答えたのはゼノンである。

 変わらないと言ったのは、魔法が継続する時間に対してだ。ナッシュの剣と木の枝、どちらも五分程度だった。一方はさほど使用していないが、一方は激しく叩き続けてみた。つまり、使っても使わなくても持続時間は同じということだ。

「じゃあ、俺にかけてみてくれ」

 これはナッシュである。

 武器以外の物にも付与できることは分かった。生物ではどうか?ということである。

「それは・・・」

 ウォルフは躊躇した。検証すべきであることは承知している。だが、できることなら他の生物で異常がないことを確認してから、人で試したい。

 弟を実験台にするなんて・・・。という想いもある。だがナッシュからすれば、

(弟である俺以外では、兄貴は試せない)

 そう思っているし、それは正しい。

「ゆっくり検証してる時間なんてないだろ?明日必要になるかもしれない」

「わかった。異常を感じたらすぐに知らせるんだぞ」

 弟の説得にウォルフは渋々といった感じで折れた。

 子供の頃からこの二人の関係は変わっていない。迷いが生じた時、ウォルフは必ず弟の意見を尊重する。それがために後に憔悴するほど悔やむことになるのだが、それはもう少し先の話である。

 ウォルフは弟に背中を押された形で、三度呪文を唱え始めた。

 魔法陣が展開されていく。

「いくぞ」

「ああ」

 短い意思疎通が交わされる。魔法陣から光線が飛んだ。

 ナッシュの大きな身体が、淡い光に包まれる。

「どうだ?」

「別に何も変わった感じはしないな・・・」

 どうやら人体に影響はなさそうだ。ウォルフは胸を撫で下ろした。

 ナッシュの胸の辺りに当てた魔法で、先に手に持っていたバスタードソードまで発光している。新たにギリアムから手渡されたロングソードは光らなかった。ギリアムと手を握ってみたが、同じく白光は移らない。

 受け渡しは不可のようだ。

 今度はバスタードソードをギリアムに渡してみる。すると、たちまち剣の方の光は消えてしまった。再びナッシュに戻しても、バスタードソードは光を取り戻さない。

 この検証からは、例えば魔法を付与された剣が二つに折れてしまったら、恐らく大きい方の塊だけが効果を持続できるのだろうと推測できる。

 弓矢を使いたい場合は、同時に魔法をかけてしまうと、恐らく体積の大きい方、つまり弓だけに効果が残されて、弦を放れた瞬間に普通の矢に戻ってしまうのだろう。希望通りの効果を出すためには、矢の一本一本に魔法を掛けなければならないということだ。

 やがて、剣や枝の時と同じく五分程度経つと、全身の光は消えた。

 次に直径百五十センチはあろうかという大樹に狙いを定めて撃ってみた。

 幹から枝、葉の一枚一枚に至るまで、淡く発光する。

 大地は光らなかった。

 少し土を掘り返してみると、埋まっていた根の部分も光っている。

 この魔法は、樹木と土を別の物として認識したということだ。理由は分からない。術者の意識の問題かもしれない。

 もう一つ分かったことは、このような巨木であっても効果は全体に行き渡るということである。しかし、持続時間に違いが現れた。

 三分程で終わってしまったのである。

 詳細は不明だが、大きい物ほど継続時間は短くなると考えて間違いはないだろう。

 次にウォルフが始めたのが、魔法陣の大きさの調整である。つまり効果時間の変更を試みたのだ。

 結論から述べれば、その作業はこの夜の内には終わらなかった。翌日も歩きながら練習を重ね、ようやく魔法陣の大きさを倍にできたのは、二日後の夜であった。

 魔法陣の大きさは威力と比例する。つまり持続時間も倍近くに伸ばせたということだ。

 しかし、一番肝心な「死霊兵に効果があるのか」という点は、依然として不透明のままだったのである。



 

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