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ヴォロディア仙導戦記  作者: 萬井 歌舞人
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第1章 アイゼニアの姫のこと 1-3

 キースを先頭にユリウス、ウォルフの順で3人は湿気の多い洞窟を黙々と進み続けた。一本道なので迷うことはないが、樹木の太い根が所狭しと絡み合い湿気を帯びた足場は滑りやすく歩きづらかった。

 途中何度かカンテラの油を継ぎ足しながら、かれこれ小一時間ほど、歩き続けている。

 トルキアの王都だったトロメスの方へ向かっているようだとウォルフは思った。

 三人は警戒を怠らなかったが、今までのところ何事もない。小動物の類すら見当たらなかった。濃い樹木の匂いの中に彼らはどことなく癒されるような神聖な空気を感じている。

「まだ先は長いのですか?」

 足を止めずにキースが問いかけた。外に残ったジェイと共にレジスタンスの中核を担う戦士である。元はトルキアの騎士で、魔法は一切使えないが剣の腕は立つ。頭も切れる頼りになる男だ。

「うむ。三分の二は来たかと思う」

 ユリウスが答えた。

 遠くで水の音がしている。かなり激しい音だ。

「あの音が聞こえるか?このまま進むと、確か天然の地下水路にぶつかるはずじゃ。そこを渡ってから、もう少し歩かなくてはならん」

「では、少しペースを上げましょう。このままでは、夜が明ける前に戻れない。そうなると全員危険にさらされます」

 森の中とはいえ、ひとり残されている巨躯のジェイには隠れられる場所も少ないだろう。

 ユリウスは答える代わりに小さく頷いた。

 ウォルフは二人の会話を黙って聞いている。

 しばらくは、危険はないと判断したキースは、先を急ぐことを最優先とした。進むほどに水音は、どんどん大きくなっていく。やがて三人の前に激流が現れた。

 地下水が、行く手を阻むように向かって右から左へ猛烈なスピードで流れている。水脈というよりも、もはや地下河といったほうが良い。

 対岸までゆうに10メートルはあるだろう。普通に飛び越えるのは無理だ。

 キースがカンテラの光を右に差し向けると、少し高い位置から大量の水が噴き出して滝のように落ちているのが照らし出された。

 上流に渡れそうな場所はない。

 左に光を向ける。水はゴツゴツした岩のトンネルに流れ込んでいるようだ。その先はどうなっているかわからないが、この水流の中に落ちてしまったら、まず生きては帰れないだろう。

 水の出口の少し手前に太い木の根が見える。大人一人では抱えきれないほど太い根である。地下河の上に張り出して対岸まで続いているように見える。

「あそこから渡れますか?」

 キースはユリウスの方に向き直り、地下河上の根を指さした。

 それに答える代わりにユリウスは大きく頷いた。ここまでペースを上げて来たせいか、少し息が切れているようだ。それでも

「急ごう」

と、キースを促した。三人は根元に近づくと、今まで通りキースを先頭に根の上を渡り始める。足場は悪く滑りやすい。しかし、そこを渡る以外に方法はない。

「滑るので気を付けて下さい」

 激流に飲み込まれれば、命はない。一行は一足一足踏み場を確かめるように慎重に歩を進めた。わずか十数メートルの距離に二十分以上の時間をかけて、ようやく渡り切ったキースは、まずユリウスに、続いてウォルフに手を差し伸べて対岸に乗り移る手助けをした。

 安堵の息を小さくつくと、ユリウスは言った。

「もう少しじゃ、先へ進もう」

 しかしこの時、彼らはひとつのミスを犯してしまっていたことに気づかなかった。

 彼らが降り立ったその場所に小さな魔法陣が仕掛けられており、それを踏んでしまったのである。

 魔法に全く適性のない者でない限り、魔法陣は見える。魔法陣の記号の配列を読むことで、それがどんな魔法なのか知ることができる。当然、ユリウスやウォルフには見えたはずだ。しかし見逃した。これは、仕掛けた者が巧妙であったと言わざるを得ない。

 激流の上を渡るという極度のプレッシャーから解放される一瞬、気が緩むその瞬間を狙って仕掛けられた淡い光を放つ小さな魔法陣は、踏むと同時に消えるように作られていたのである。


 そして・・・。

 三人のいる場所から直線距離にして十数キロ離れた寝台の上で、一人の男が目を開いた。

「来たか、ユリウス・アークレイ」

 嘲笑を含んだしわがれた声で男はつぶやいた。そして、

「レイドールいるか?」

 すると闇の中から返答があった。

「ここに」

「ユリウスが来た。地下神殿を目指しているのだろう。二体の死霊兵を連れて南の森へ行って出迎えてやれ」

「どのように処理いたしましょうか、ラズリー様」

「ユリウスは殺せ。『黄金の五人』などという希望はいらん。だたし弟子は逃がせ。わざとらしくならないように気を付けるんだぞ。『神獣の指輪』を持って帰ってもらわねばならん。ティアナをおびき寄せなくてはならんからな。それ以外は任せる。好きにしろ」

 ラズリーと呼ばれたベットの男は、その身を起こすことなく指示を出し終えると再び目を閉じた。

「かしこまりました」

 答えと共に闇の中の男の気配が消えた。

「ふふふ。儂の願いが叶う時は近い」

 そう独り言ちてラズリーは、再び眠りの世界に戻っていった。


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