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VS〜コノヨノコトワリ〜  作者: TERIS
FILE1:『意義』
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FILE1.1:オレと光月と銃と朝飯

読み辛いのは自覚しております……。

それでも頑張っていきたいので、応援よろしくお願いします。

 じりりりりりりりりり……。

 午前六時、目覚ましが鳴る。

 セットした通り律義に鳴った目覚ましを、少々乱暴に叩いて止めた。

 寝ぼけ眼のまま起き上がる。

「雨は……」

 窓の外を見るが、雨は降っていないようだ。昨日の夜、テレビの天気予報は降水確率40%と言っていた。中途半端な数字に少し不安を覚えたが、空もそれなりに明るいから今日は大丈夫だろう。

 布団から抜け出し、部屋数は多いがあまり広くないアパートの狭い廊下を通って台所へ向かう。冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを取り出す。コップに注ぎ、一気に飲み干す。体内を冷たい液体が通過する感覚が、朝の寝ぼけた体に心地よい。

 うん。いつも通りの朝だ。寝起きで固まった体を伸ばしたりひねったりしてほぐす。そのたびにバキゴキと鈍い音がした。

 すっきりしたところで顔を洗う為に洗面所へ。蛇口をひねり、両の手で作った器に水を溜める。表面張力で浮き上がって溢れようとした瞬間、掌で顔を覆い、こする。

 さっぱりした顔を上げると、鏡の中から自分の顔が、切れ長の瞳でこっちを睨むように見ている。オレ自身が言うのもなんだが、不機嫌そうな面構えだ。人には、ブスッとしてなければけっこう顔立ちは整ってるとは言われるが、自分ではよくわからない(父親はそこそこイケメンだったと母親は言っていた)。若干色が落ちて来たダークブラウンの髪が、水に濡れたせいで額に張り付いている。

 タオルで顔を拭き、洗面所を出たところで、腹が豪快に音をたてて鳴った。

「朝飯……」

 今日の当番は……、オレじゃないな。

「起こすか」

 朝飯当番を起こしにいくため、寝室に引き返す。

 部屋に入ると、オレがさっきまで寝ていた布団が床に敷いてある。そして隣には、小さめの一人用ベッド。

 その上で、一人の少女が眠っている。長くサラサラとした天然の茶髪に、閉じられた形のいい二重。長いまつ毛は頬に影を落としている。よく中学生に間違われる童顔だが、幼さを残した寝顔はなんとも愛らしい。

 おっと、ぼんやりしてるヒマ無いな。朝飯当番にはさっさと起きてもらわなければ。

 そいつの体を揺らしながら言ってみた。

「みつき、起きろ。今日朝飯当番お前」

「すー」

 起きない。

「こら起きろ。遅刻すっぞ」

「んー……」

 起きた。多分。

「あれー? 今日何日?」

 寝ぼけたままで聞かれたので、

「四月十四日。お前だろ」

 今日の日付けを伝える。

「違うよー? ゆうでしょー?」

「何言ってんだ。偶数の日はお前だろ」

「んー、眠いから今日ゆうが作って」

 またか。二日前にも聞いたぞ、そのセリフ。

「そう言って一昨日も代わってんだけど」

「そうだっけ? まあいいでしょ。ゆう料理上手いじゃん」

「おだてても無駄。だいたいみつきんが上手いだろ」

「えー、そう? 照れるー」

「誉めてねえ」

 あー、ダメだ。キリがねーわ。

「もう今日オレが作るから明後日ちゃんとやれよ」

「はーい」

 結局オレが朝飯を作ることになった。

 ヤツは、一応彼女ってことになる。幼なじみの愛本 光月(あいもと みつき)。けっこう、いや、かなりわがままだ。何回こうして朝飯当番を交代させられたかわからない。なんとも困ったウチのお姫さんだ。

 一介の高校二年生がなんで彼女と同棲してんだって絶対思われるし、現に言われたこともあるが、理由があってのことだからしかたがない。オレの両親と、みつきの父親はすでに他界しており、みつきの母親はもう何年も入院している。まだややこしい理由は多々あるけど、今は朝飯を作ることの方が優先。

 寝室を出て、再び台所に。

 晩飯の残りの肉じゃががあったので、レンジで温める。その間に卵焼いてインスタント味噌汁の為にお湯を沸かす。

 あらかた作り終えたとき、みつきが台所に入ってきた。

「おっはよー」

 目はすっかり覚めたのか、なんとまあ元気に来やがった。そんな彼女をジト目で睨む。

「人に当番押し付けといて何そのテンション?」

「えへへー。ごめんね?」

 みつきが謝る。くそっ。かわいいな……。

「も、いいから。さっさと食え。遅刻する」

「はーい」

 机に飯を運び、椅子に座る。

「いただきまーす」

「いただきます」

 互いに朝食を食べ始める。カチャカチャと食器や箸が音を立て、食欲を促進する。

 まあ、自分で作って言うのもアレだが、不味くはない。オレにしてはよくできてるんじゃないか。

 そんなことを思っていると、味噌汁をすすったみつきが口を開いた。

「ゆうー、」

「なに?」

「これ味噌汁インスタントでしょー。しょっぱい」

 こいつ……。人に作らせといて文句言いやがった……。

「文句言うなら自分で作れ」

 まっとうな反撃を繰り出すが、

「いいでしょー、晩ごはんとか私がほとんど作ってるんだから。彼女に楽させなさい」

「うっ……」

 まっとうな意見で返された。反論できない自分が悲しい。

「だいたい、ゆう。私が何党か知ってるでしょ?」 

 ふん、と小さく胸を張ってみつきが言う。

 壁際に置いてある三段ボックスの真ん中、『みつき専用! 勝手に食べたら絶対ダメ!』と書いてある段を見て、

「甘党。つーか極甘党」

 そう答えた。あんなにチョコとかクッキーが溢れそうになっているボックスの持ち主が甘党以外な訳がない。

「そう。なのにしょっぱいもの出すってどういうこと?」

 なんか無茶苦茶言い出したなこんちくしょう。そこまで自信持って言われるとこっちが間違ってる気がしてくるから不思議だ。プラシーボ効果? いや、ちょっと違うか。

「つまり甘いみそ汁を出せと。悪ぃな。オレのレパートリーに甘いみそ汁はねぇんだ」

「つまんなーい」

 精一杯の皮肉を返すが、バッサリ切られた。

「卵は甘めにしてあるだろ」

「こーゆーのは甘いって言わないの」

「あっそ。お口に合わなくてすみませんね姫」

「よろしい。でもおいしいから全部食べてあげる」

 偉そうにそう言って、みつきは朝飯を完食。

 次いでオレも食い終わったので、食器を片づける。

「私、着替えてくるね」

「ああ」

 みつきは自分の部屋に入って行った。

 手早く食器を片づけて、着替えるためにオレも自室に入る。

 窓の外を見ると、大分明るくなってきていた。そろそろ町も目を覚まし始める頃だろう。

 大きな欠伸を一つして、さっさと着替える。詰襟に袖を通し、ボタンを下から3つとめた。首元が窮屈だから、カラーは外している。

「さってと……、」

 着替えも終わったし、一応カバンの中身でも確認するかね。

 黒い手提げカバンのファスナーを開ける。教科書は全部置き勉なので、入っているのは小説と雑誌と筆記用具、ファイルくらいだ。

 しかし、オレのカバンには、明らかに異質なものが1つ入っている。

 ノートパソコンほどの大きさの黒いアタッシュケースだ。ただ、厚みも重さもかなりある。

 ゆっくりと、慎重にそのケースのふたを開ける。中は――、

 自動式拳銃が一丁、リボルバーが一丁。さらにサバイバルナイフ等、物騒なものがちらほら。

 こんなもの高校生が持ってたら即行逮捕だ。だがオレにはそれが適用されない。

 オレは特別擬似警察活動部隊、通称『特警』の一員だ。十三歳で入隊したから、今年でもう四年部隊にいることになる。当然、何度も殺されかけたし、その度相手を殺してきた。この手で、人の命を奪ってきた。正直嫌気のさす仕事だと思う。

 しかしそれでも、オレはその業から逃れられないし、逃れる気もない。

 ケースを閉める。厳重にロックし、カバンにしまった。

 あとは……、財布、鍵、ケータイに仕事用携帯にミュージックプレーヤー……。

 ポケットを叩いて確認する。忘れ物はなさそうだな。

 カバンを持って部屋を出る。みつきはまだのようだ。オレより着替えが長いのはまあしょうがない。女子なんだから。

 おそらくもう少しかかると踏んで、台所の椅子に座って新聞を読む。一面の見出しは、『またも被洗脳者による犯罪』

「昨日のか」

『四月十三日(月)、このところ横行している被洗脳者による犯罪が勃発した。午後六時頃、守川市の街中の交差点で、刃物を持った男、(被洗脳:○○○○さん、二十八歳)が、通行人に無差別に襲い掛かった。事態を聞きつけた特警が駆けつけ、○○さんに向かってゴム弾を発砲。○○さんの足に命中し、取り押さえたところで洗脳を解除。幸いにも死亡者はおらず、被害者も全員軽症ですんだ。また○○さんは洗脳解除後、「何も覚えていない、自分のしたことにショックを受けた」と述べており、警察は今後も事件の真相を……、』

 内容はこんなもんだ。オレも現場にいた、というよりも、発砲したのがオレだ。事実その記事の最後のコメント欄に、『発砲した日向 友(ひゅうが ゆう)さんのコメント』というところがある。

最近は犯罪者自身が直接犯行を行わず、機械、洗脳等を利用して、自分の手を汚さずして罪を犯すといった事件も増えている。

 そんな凶悪な事件だと警察も手を出せないことが多い。そこで出動するのが、戦闘のエキスパートであるオレ達特警というワケ。

 命の保証は全く無い上に、ターゲットは確実に殺さなければならない。本当に嫌な仕事だ。

 技術発展の結果がこれでは本末転倒だな。だからオレ達のような組織が生まれてしまった。

「皮肉なもんだよな。まったく……」

 みつきはまだ部屋から出てこない。いつものことだから別に気にならないけど。

 時刻は七時三十分。学校は八時三十分始業だから、まだ間に合う。

 新聞を閉じて、椅子から立ち上がった。少し体を伸ばしてから、部屋の隅にある小さな仏壇に手を合わせた。

 写真が三枚飾られている。オレの両親と、みつきの父親だ。

 両親もオレと同じ、特警隊員だった。まあ、それなりに優秀だったらしい。

 父さんはオレが特警に入隊してすぐ任務で亡くなった。

 母さんは――、

「……」

 オレが殺した。


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