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サマラ芸術館における日本の古芸術品コレクションについて

作者: オレグ・トルビン

サマラというボルガ川にある街に日本の古芸術品の大きなコレクションが発見されました。それぞれの芸術品の印判を解釈しながらそれを集めた人の人生・性格が徐々に見えてきました。その回路をたどったについてのエッセイ。

サマラというボルガ川にある街に日本の古芸術品の大きなコレクションがあることが突然分かったのは昨年末の事。昔、30年前に学生として同市を訪れ、飛び込みで現地の芸術館を回り、「琉球産のタンス」とだけ記憶に残りました。このタンスが30年後に深くて長い回路への入り口になると想像も出来ませんでした。

「本当に琉球産なのかな??」と思って同芸術館に対してメールを打ちました。翌日早速返事が来て、「実は、タンス以外にも日本の古芸術品が多々あり、その解釈に困っています。日本語出来るのであれば手伝ってもらいたい」とのこと。試しに5点を送ってもらいました。忠臣蔵の潮田高教の絵、伊藤総山によるカラスの絵、駒井象嵌のお皿、仁丹の宣伝キャンペーンの団扇、京薩摩風の花瓶でした。解釈がまあまあ出来まして、博物館の担当者からこの古芸術品を集めてきた人物についての話を初めて聞きました。

オーストリアに生まれて、チェコ、ドイツ、ロシアのビール工場で働き、結局サマラ市でビール工場を1881年に設立して、20年間で資金を貯めて日本、中国、インド、エジプトを旅行し、色々な芸術品を買いまくりました。Alfred von Wakano(1846-1929)。

どうしてサマラを選んだのか?だれも言えませんが、一つの推理としては「ロシアで一番きれいな女性がサマラに住んでいる」という事実なのかな。担当者からWakano氏について本があります、と聞いたらレニン図書館で一日住み込み、例の本をむさぼり読みました。それで、本人についての情報がごく少ないという結論に至りました。恐らく、本人が集めた芸術品を適宜解釈すれば本人の性格、人生、等について新しい知識が得られるのだろうと思い、翻訳の仕事に着手しました。

約7か月間かかりました。同時にWakano氏について勉強を続けました。ビール工場に限らず、サマラ市を住み心地のいい街にしようと個人の資金で下水道を建設したり、公園を整備したり、等々今現在「CSR」と呼ばれる活動を重ねました。しかし、オーストリア人として、スパイの疑いもかけられたり、恨む高官のいじめを受けたり、あちこちからプレッシャーがあったのでギャラリーを作って、来客次第に芸術品を特定の順で並べて、話題を促す材として日本の絵、花瓶、等を使ったのではないかという推測に至りました。そういった「外交力」が段々身について、1917年ボリシェビキ革命ごでも特にトラブルに至らず同コレクションから欲しいものをオーストリアに持って帰られることを許可された程です。

日本を旅行したルートも判明されたかと思います。サマラからウラジオストクまで鉄道で行き、ウラジオストクで船を借り、釧路(「釜吉鋳」という印判の薬缶)、仙台(「市橋安長製造」と印判の薬缶)、本泉市(忠臣蔵の絵に同市名の印判)、東京、京都(薩摩焼、九谷焼の花瓶多々)、沖縄・琉球(例のタンス)というイメージが付きました。購入した芸術品を船で保持し、宿泊は船又は訪問した町のホテルでした。

今現在、サマラ芸術館が保有する日本芸術品の殆どが明治維新前後の物であり、 陶芸品、屏風、浮世絵、象嵌品、団扇等があります。陶芸品では、明治維新以降に積極的に輸出された薩摩焼、肥前焼、九谷焼が展示されています。九谷焼では金山による花鳥画の五彩手花瓶、薩摩焼では錦光山宗兵衛六代と七代によるお皿、花瓶等の芸術価値あるものが数十点置いてあります。浮世絵では、歌川豊国三代目(国貞)による歌舞伎の役者絵シリーズ、歌川芳虎による忠臣蔵の絵、歌川広重による山水画、鳥文斎栄之による美人画、伊藤総山による花鳥画、豊原國周による「なぞ合三六句」シリーズ等ご覧出来ます。象眼では、京都の駒井製象嵌小箱、装飾皿並びに黒田宝石工によるお盆が展示されています。



古芸術品のお勉強によって今現在の流れの中でも精神的な力が汲めるかと愚考致します。菊川英山の絵にあるよく忘れられた「風流」という単語もファッションとして蘇られれば悪いことが大してないと思われます。

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