三十二話・天才少女の未練
「それでは第一回チキチキオカ研肝試し大会はっじめっるよー!」
夜闇の中。俺たちを照らすのは電灯の光だけ。
木々に囲まれた山道の入り口に鈴音の明るい声が響き渡る。
「「「おー!」」」
俺と孝宏、アリスの三人が声を重ねる。
今日は夏休みのオカ研の活動の一つである、肝試し大会の日だ。
町はずれの森までマスターが車を出してくれたので、全員でアリスの家に集合して出発した。
最後まで一人駄々をこねていた奴もいたが、鈴音が首根っこを掴んで強引に車に乗せていた。
「……本当にやる気なの? ばっちいわよ?」
今も友華は俺らの後ろで、この世の終わりのような目をしていた。
友華はマスターが車を止めた後にその辺をぶらぶらしてくると言ってどこかに出発してしまったから、一人で駐車場に残っている訳にもいかず渋々ついて来た。
現在も本気で嫌がっているのだ。
「もっちろんやるよ! ちゃんと下見して安全は確認してるし、通路には目印を置いて来たから迷う心配もないからね!」
「え、鈴音ちゃんそんなことしてくれてたの!? 誘ってくれればよかったのに」
「アリスちゃんと二人でやったから大丈夫!」
「昨日鈴音が突然うちに来てそのまま連れていかれた……。すごく疲れた」
「アリスを誘ったのか……。えげつないな」
体力のないアリスを山道の散策に誘うとは。
鈴音らしいと言えばそうなのだが、少し可哀そうだ。アリスが今日会った時、足に湿布を貼っていたわけだ。
「お前は何でこんな時だけ準備が良いのよ……!」
友華が頭を抱えて恨めしそうに鈴音を見る。
「あの、私は来てよかったの?」
俺たちの横で飛鳥がすっと手を挙げた。
今日はオカ研のメンバーに飛鳥と俺を加えた合計六人で肝試しをするのだ。
「大丈夫だよ。それに部員じゃないと駄目ならこいつも来てないしね」
孝宏が俺を指差す。
「そうなの。そういえばあんたまだ入部していなかったのね?」
飛鳥がつられるように俺を見てきた。
まあ、確かにここまで毎日顔を出していたらそれで部活に入っていないと思う方が難しいよな。
でも、まだ入れない。俺はまだ入部してはいけないんだ。
「ああ。俺よりも飛鳥は入らないのか? 大門寺が飛鳥もオカ研の部員だと思ってたぞ」
「うーん。私も入りたくないわけじゃないんだけど、何か躊躇っちゃうのよね」
「うわ、何この幼馴染。めんどくさ……」
煮え切らない俺たちに孝宏が呆れていた。
そんなやり取りをしていると鈴音がポケットから紙切れを取り出す。細長い、メモ帳から作ったような簡易なくじ引きだった。
「これに番号が書いてあるから、みんな順番に引いていってね! 三グループまで作るよ!」
そう言って、近くにいた孝宏、アリス、飛鳥にくじを引かせる。
その後は自分が選んで最後に俺と友華に引かせてきた。
引くと鈴音が握っていて手で隠れていた部分に番号が書かれている。
俺の番号は三。
「俺は三番だな」
「げ……」
友華が嫌そうに顔をしかめた。
流石にくじ引きの結果でその反応をされても困る。
「悪かったな俺で」
「ええ。できれば鈴音か飛鳥と一緒になりたかったわ。あの二人なら頼りになりそうなのに」
「俺はそれ以下なのか?」
「いえ、そうではないわ。まあ、孝宏に比べたら幾らかマシだからいいわよ」
「そうか」
「はは。まったく、二人は僕を最下層に置いとかないと気が済まないの?」
孝宏がニマニマしながら気色悪い顔をしている。
妙だな。いつもなら強くツッコんでくるところなのに。
「何か怪しい顔しているわね? 気持ち悪いわよ」
「ふ、今の僕には友華ちゃんの罵倒も子守唄さ。なんせ大当たりを引いたんだからね!」
そして自分のくじの番号を見せてくる。
そこには二番と書かれていた。
「当たりって何がなんだよ」
「私も二番」
アリスが手を挙げる。
なん、だと……!
「アリスとペアになったのか!?」
「ああ! 女子はアリスちゃん以外皆狂暴だからね! 最悪優作でもいいやって思ってたらまさかの大金星さ!」
「あんたらよく私たちの前でそんな話が出来るわね」
不満そうに飛鳥が見て来る。
まさか孝宏がアリスとペアとは。正直不安だ。
「よし! じゃあ、私たち第一組から行ってくるね! 皆は五分おきに出発するように!」
鈴音は何かを急いでいるような素振りで飛鳥と一緒にそそくさと山道に入っていった。
コースはそこまで長いものではないようなのだが、事前に下調べをしているということは何か仕掛けているとみて間違いないだろう。
「うう。斉場と一緒なんだ」
「そうだよ。よろしくね、アリスちゃん!」
「あ、うん」
「アリス、もしこの男に何かされたらこれを鳴らしなさい」
友華がアリスに何かを手渡しする。それは見覚えのある黄色い手のひらサイズの機会だった。
「これは、防犯ブザー?」
「ええ。山だからよく響くはずよ」
「わかった。もし斉場が変なことしてきたら、すぐに鳴らすね」
「アリス、俺からはこれだ」
俺もたまたま持っていたアイテムをアリスに渡す。
「これは、シャベル?」
「ああ。山だから殴って隠せ」
「わかった。もし斉場が変なことしてきたら、すぐに叩くね」
「……あの、本当に何もしないんで。物騒な物持つのやめてもらえますか」




