それに誰もが気づかない②
最近人よりも体が弱いことを気にしているので、もしかしたら無理をしているのかもしれない。
「アリスちゃんどうかしたの?」
鈴音が首を傾げる。
「その。まあ、気になることがあるって感じだよ」
他の全員から見られてバツが悪くなったのか、頬をポリポリかきながら申し訳なさそうにそう言った。
気になる事って……。さっきの話の中にだろうか?
「何が気になったんだ?」
「えっと、上手く言えないんだけど。何かおかしなことが無かった? ……この部活が出来るまでの話だけど、できれば続きが聞きたいかも。みんなが知り合った経緯はわかったけど、肝心の部分が聞けてないから」
真面目な顔でそんなことを聞いてくるが、アリスがここまで話してくるのも珍しいのでみんなも真剣に考え込む。
そう、俺も含めて全員が直ぐにその疑問に答えられなかったのだ。
アリス自身もわかっていないおかしな点に誰も気づかないし、それだけでなく誰もその先を思い出せなかった。
「えっと、結局この部活ってどうやって出来たんだっけ?」
孝宏が頭を押さえながら口にする。
「うーんと、友華ちゃんが校長先生と……あれ?」
「まったくあんたらは……。確か私と優作が友華と一緒に――えっと?」
「お前ら、本当に記憶力がないわね。優作任せるわ」
友華までもが忘れてしまっているのか俺に話を投げてくる。
本当に全員が覚えていないのか。
「あれだろ。えっと、俺と飛鳥が友華と最後に約束したやつ」
「へえ、覚えているのね……」
珍しく友華が驚いたように、いや感心したように俺を見ていた。
こんなことで感心されても嬉しくはないけれど。
思い出すのに少し時間はかかったが、少なくとも他のように完全に忘れてはいない。
「はあ、当たり前だろ。逆に忘れてるこいつらがおかしいんだよ」
「失敬な! 僕は偶々いま思い出せないだけだ!」
「はいはい」
孝宏をしらけた目で見る。
ったく、確か約束の内容は。
「あら」
友華が俺の目の前で躓いた。
「おっと。大丈夫か?」
俺の体に埋もれるような角度で前に倒れたので肩を支えることで受け止める。
「ごめんなさい。少し立ち眩みがしたのよ」
友華は直ぐに離れて、スカートのプリーツを整えた。
立ち眩み?
それにしては妙に真っ直ぐ倒れたな。
「優作。約束って何の事?」
飛鳥が聞いてくる。
そうだった。約束。
えっと……。あれ?
「……悪い、ド忘れした」
「ええ!?」
「本当にさっきまでは覚えていたんだ! 本当だって!」
鈴音ががっかりしたように肩を落とす。
なんかすごい申し訳ない。
「ま、そんなことだろうと思ったよ」
「でしょうね。あんたの記憶力ならしょうがないわ」
「山元。別に恥ずかしがることじゃないよ。人によって記憶力は違うんだから」
「急に畳みかけて来るな!? お前らも忘れてるだろ!」
綺麗な手のひら返しに驚愕する。揃いも揃って酷い言いようだ。
「「「忘れてないよ(わよ)」」」
アリス以外の全員の声が揃う。
くそ! 本当に清々しいくらい意地っ張りな奴らだ。
「みんな覚えてないんだ……。少し残念」
「あ、いや。また今度話す、今は思い出せそうにないだけだ」
アリスは本気で残念そうにしているので素直に謝っておく。
にしても何で思い出せないのだろう?
ここまで集団でド忘れしてしまうなんて軽いオカルト現象のような物にも感じる。
まあそういったものが大好きな鈴音が、特に気にした素振りを見せないからもしかしたら俺の考えすぎかもしれないな。
そう思って、俺はこれ以上考えるのをやめてアリスの実家。行きつけの喫茶店へと向かった。これから夏休みなので、しばらく訪れることのない放課後。飛鳥、アリスの三人で談笑して改めて一学期の終りを感じていたんだ。




