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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
二章・友華 一部
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   始まりの日②

「ええ。本当に偶々会えたわね。でもよかったわ、私の悪口を広められる前で、ね?」


 やばい。おこだ。

 こいつ頭いいキャラのクセに沸点低かった。


「ま、待ってください! 優作は少し口が悪くて誤解されやすいだけなんです! ほら頭下げて!」

「押し込むな! この女が苦手なのは本心だ!」


 俺と友華の間に飛鳥が入ってくる。直後に俺の頭は飛鳥の手で押さえられ、前に首を倒された。強引に謝罪の体勢をとらされているのだ。

 友華は初対面の飛鳥の行動に少し驚いたようで、既に俺から飛鳥に視線を移していた。


「あら……。へえー、そういうこと」


 そして勘ぐるように俺たち二人を交互に見た後、目を細めた。今日出会ったばかりだが何となくわかったことがある。

 この顔は悪いことを考えている顔だ。新しいおもちゃを見つけたようなそんな顔。


「お前、この男と恋仲なのかしら?」


 からかうようにそう口にする。飛鳥の今までの反応を見て、このような発言をしたら動揺して慌てふためくと思ったのだろう。


 しかし。


「あ、いえ。そんなんじゃありませんよ。誰がこんなのと付き合うもんですか」

「はっきり言うな。俺も傷つくんだぞ……」


 俺たち二人の反応を見て友華は不安そうに口をへの字にした。


「む。おかしいわね、てっきりどっちかは片思いだと思ったのだけれど」

「はは。残念だったな友華。飛鳥の理想は誠実で真面目な優しい男だ。俺とは正反対なんだよ」

「お前、言ってて悲しくならないの……?」

「とにかく! 優作は高校では真面目になるよう教育するんですから、先輩はあまりからかわないでくれるとありがたいです」


 飛鳥が話を戻す。

 というか初耳だぞ。

 こいつ最近おとなしいと思っていたら、高校生活中に俺を矯正するつもりだったのか!?


「ふふ、一年。それは聞けない提案ね。この男ではもう私が遊ぶと決めているのだから」

「うう……。それなら! 私と勝負して、勝ったら好きにしていいですよ! 負けたら優作のことは諦めてください!」

「何でだ!?」


 話がどんどん変な方法に進んでいく。友華がその飛鳥の提案ににやりと笑った。

 何で俺の学生生活がこの二人に決められないといけないんだ。


「面白いじゃない! ええいいわよ、そういう遊びは大好きなの。乗ってあげるわ」

「後で撤回は無しですよ! 勝負内容は、えーと……」


 飛鳥が周りをキョロキョロして何かを考え込む。


 頭では到底かなわないとわかっているので、自分でも勝てそうなものを探しているのだろう。喧嘩だったら飛鳥が勝つだろうが、そこは女子同士。単純な肉弾戦に出るほど野蛮な戦いではなかった。

 ある一点を見て飛鳥が首を止める。


「先輩! あれで勝負です!」


 指さしたのは。


「あれって――砂場じゃない。陸上部がたまに使っているものだけど、何かしら。お城づくりでもする気?」


 予想外の勝負の提案に飛鳥が首を振った。

 そして砂場に走っていき、軽く山を作る。


「違います! 棒倒しで勝負です!」


 そして近くに二十センチ程の棒を山の頂上に差し込んだ。

 ぼ、棒倒し……!


「え、お前マジで言ってるの?」

「いいわよ。どんな勝負でも私の勝ちは揺るがないわ」


 呆れる俺と相反して、友華は制服の袖を上げてノリノリで砂場に向かっていく。

 子供のようだと思ったが、それと敵対する俺の幼馴染も既に砂山の前で膝を曲げて準備万端だった。


「ま、待てよ! 俺の学生生活がこれに懸かってるのか!? 冗談だろ、な?」

「外野は黙ってなさい」

「そうよ! 先輩との真剣勝負なの!」

「ええ……」


 俺のために争わないで……。

 そう言いたかったが、確実に両方から批判されるので口に出すほどの勇気はなかった。


 二人は竜虎が激突するかのような雰囲気を漂わせながら、砂場の前で屈んでいる。


「では、私からいきますよ……」

「ええ。せいぜい、頑張る事ね。私の完璧な計算で、絶望に誘ってあげるわ」

「っく! 絶対に負けません! 優作を真人間に再教育するんです!」


 すごい。高校生が二人、砂遊びで盛り上がっている……。

 なんかもうツッコむのも面倒くさくなってきたな。

 でも結果は気になるから二人の動向に全てを任せて、終わったらそそくさと逃げてやろう。


「では一回目です!」


 飛鳥が意を決したように砂山に手を突っ込む。


 そのまま一気に引いて――。


「あ、危なーい!」


 二人の横から突然声が迫る。

 完全に意識の外にあった砂場の横から何かが飛び込んできたのだ。何かというか、誰かが。

 そして二人が決戦の舞台に定めていた山を両足で粉砕する。


 そいつは、走り幅跳びをしながら砂場に入ってきたのだった。


「だ、大丈夫か!?」


 慌てて駆け寄るが二人に怪我はない。飛び込んできた奴が綺麗に躱して突っ込んだようだ。犠牲になったのは砂山のみ。


 そうなると俺の視線はその人物に向く。


 小柄な、短髪の少女がそこに寝っ転がっていた。砂に背中から完全に倒れていて、走りながら叫んだせいで荒くなった呼吸を整えている。


「あ、あなた大丈夫!?」


 飛鳥がそいつに声をかけた。


「思いっきり飛び込んでいたけれど、怪我はないかしら?」


 俺たちの反応とは違って、少し冷静に少女を覗き込む友華。

 倒れていた少女はがばっと起き上がって、そして太陽のようににっこりと笑った。

 それだけで、何となく少女が快活な明るい人間なのだという印象を受ける。


「大丈夫! それよりも皆は怪我無かった!? 直前までよそ見してて、踏み切る時に気づいたからそのまま飛んじゃった!」

「え、ええ。私たちは大丈夫。それよりあなたが無事でよかった……。確か一年生よね?」


 飛鳥が少女を見たことがあったようでそう推測すると、ぱあっとまたもや満面の笑みで飛鳥を見つめた。


「そうだよ! 私は坂上鈴音、一年だよ!」


 それが、オカルト研究会創設時の最後のメンバー。


 鈴音と俺たちとの出会いだった。



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