反省室にて③
流石にここまでダイレクトに人の傷をえぐるのは見ていられない。言われた孝宏はわなわなと震えている。
その肩に手を置いた。
「大丈夫か孝宏!?」
「ぐう……、まさかそこまで知られているなんて! っは! 君もしかして僕のファンかい!? それなら付き合おう、君の顔なら合格だよ! おっぱいも大きいし!」
「死ね猿が。私は一度見たニュースを忘れないだけよ」
「違うのかよ畜生!」
俺の想像とは違う意味でショックを受けている目の前の変態男。
少し、違和感がある。
「なあ、お前はスポーツが出来なくなったのがショックだったんじゃないのか?」
「怪我して以来、女子にモテなくなったんだよお……」
「友華。こいつはただのクズだったようだ」
「そうみたいね。清々しいほどの下衆ね」
畳の上に四つん這いになり涙を流して後悔の念をにじませている男を、俺たちはゴミを見るような目で見る。
しかしここで友華が何かを閃いたように瞳に豆電球を浮かべる。
「ねえお前。確かこの話は他の人に知られたくないのよね?」
「うん? 当たり前だよ、見下されるか同情されるだけだし。そんな目に合わないように地元の知り合いがいないここまで来たんだよ」
そこまで確認したところでにんまりと底意地の悪そうな笑みを浮かべた。
悪い魔女のような顔をしている。
「そう……。お前、入りたい部活はあるのかしら?」
「え? 別にないけど」
「嫌な予感」
「お前を我がオカルト研究会の部員二号としてスカウトするわ!」
「やっぱり!」
頭を抱えてしまう。
反省室で、なんでこんな話に発展するんだよ……!
「いや、嫌だよ。僕オカルトとか興味ないし」
当然孝宏も拒否する。
得体のしれない部活に勧誘されたら当然の反応だろう。
「お前の過去。新聞部に言いつけようかしら」
「ひょおお! 入ります入ります! 勘弁してください!」
「わかればいいのよ」
「ひどすぎないか!?」
とんでもない勧誘をし始めた友華。
そして、注意する俺をよそに何かを孝宏に耳打ちしている。
同時に二人の視線が俺に向いた。
「お前ら、何を企んでいる……」
「そうねえ。こういうことよ」
むにゅ。
「むにゅ!?」
友華が俺の腕を掴んで流れるように自分の胸に押し付けた。
結構強く押し付けるものだから、そのたわわな双丘は手に吸い付くように纏われる。そもそも女の胸なんて触ったこともないから他との比較なんてしようがないんだけど、とにかく大きいのはわかった。予想以上に柔らかい。それはもう男の夢と希望が詰まっているのだからそこにあるのは小宇宙。制服の上からでもわかるその感触、否制服の上だからこそロマンがるのだ。胸元についたリボンに俺の手が干渉してしわがつく。その光景に妙な気分に駆られ、ああ自分の求めていたものはここにあったんだなと――。
パシャ。
響き渡るシャッター音。混沌に陥っていた俺の思考を停止させる。
「孝宏! お前今写真を撮ったのか!?」
慌てて友華の胸から手を離した。
スマホを持った孝宏に声をかけるが、クズ男はまるで悪びれた素振りはない。むしろほくそ笑んでいやがった。
「犠牲者は多い方がいいだろ? な!」
「絶対に一発殴ってやる!」
「いやーん。襲われたわー。これはもう、出るとこに出るしかなさそうね」
「悪かった! 何でもするから勘弁してくれ!」
「よろしい。お前ら二人は今日より私の手となり足となり、シャキシャキ働いてもらうわよ」
入学初日。
俺は悪魔のような女と出会ってしまったのだった。




