二十九話・反省室にて
「それで、お二人が遅れたのは友華さんが部活の勧誘をしていたから。でいいですかね?」
「ああ。全くその通りだ。こいつが全部悪い」
「お前が逃げたのが原因じゃないの。冤罪も甚だしいわね」
あの後激しい攻防の末、俺は無事に入学式に遅刻するという失態を晒してしまった。
入学初日から反省室での説教である。
この学校の反省室は何故か茶道部の部室らしき場所で、畳張りの部屋になっていた。
現在は頭のおかしい上級生、如月友華と一緒に背の低い教師の前に正座させられている。
小学生かと間違えるほどには容姿の幼い、目の前の短髪の少女はなんと俺の担任になる人らしい。
「もーう! 初日から遅刻なんて駄目なんですよ! 二人ともしっかり反省してください!」
「悪かったわよ。いちきに怒られたら何も言い返せないわ」
「え、おっほん! ですよねー、大人の私に説教されたら怖いですもの!」
「子供に言い返してるみたいで、自分を惨めに感じるからかしら……」
「ひどい!」
先生が涙目になる。
友華の毒舌は生徒だけが対象ではなく、教師に対しても似たような扱いをするようだ。
「まったくもう……。なんで遅刻なんかしちゃうんですか」
呆れたように先生が俺らとそして、この場にいるもう一人の男を見る。
そう。遅刻したのは俺と友華だけではない。もう一人、新入生の中で学校に遅刻してきた奴がいるのだ。
「だってー。目覚ましが壊れていたんですよ。しょうがないじゃないですかー」
気の抜けるような声で先生にそう語るのは、どうやらこいつも俺と同じクラスらしい童顔のイケメンだった。
顔は、イケメンなのだが。どうしてだろう、この男からは少しもイケメン特有の陽キャオーラを感じない。
「孝宏くんも! ちゃんと反省してください! まったく、私が校長先生に怒られちゃうんですから気を付けてくださいよ。……あの人に怒られるのは怖いんですよー」
先生が泣きそうな顔で抗議してくる。
なんかぽわぽわしている人だな。どことなく頼りなさそうな、天然で何かやらかしそうなタイプに見えてきた。
孝宏と呼ばれた男は流石にまずいと思ったのか、少し焦る。
「あ、いや、本気で言ったんじゃないんすよ。冗談っす、冗談」
「もう。それならいいんですけど、ともかく皆さんは少しは反省してくださいね。高校生なんですから」
先生が靴を履いて、入り口のドアに手をかけた。
「私は少し用事があるので、反省したらここから出てくださいね。あ、ちゃんと反省せずに出たら、め! ですよ」
まるで保育園児を相手にするかのように、びしっと指を立てて俺たちを諭してきた。
そして、そのまま部屋から退出するのだった。
ちゃんと説教したぞー。みたいな満足そうな鼻歌を鳴らしながら。
初対面の三人が教室にポツンと残される。
「……え、終わりなのか!?」
「ええ。あの人の説教はいつもこんな感じよ。可愛いわよね」
「見た目だけじゃなくて、中身も子供みたいだな」
友華と現在の状況を把握する。
どうやらいつでも帰っていいようだ。
それならば、俺はこの問題児二人と関わりたくないので直ぐにでも退出してやろう。
「あ、なあお前。ちょっと待てよ」
そこで孝宏とかいう男に呼び止められた。
「なんだ?」
「ほら、クラスが一緒なんだし自己紹介位させてくれよ。僕は斉場孝宏。学年一のナイスガイになる男だ。遅刻仲間同士、一緒に天下とろうぜ!」
「……俺は山元優作。この学校の空気も同然になる男だ。わかったら頼むから関わるな」
案の定、孝宏もやばそうな感じなので冷たくあしらっておく。
おかしい。俺は何者とも極力関わらず、暇つぶしの学校生活を終えるつもりだった。
だというのに初日からなんだこの有様は……。
次回の更新は明日になります。
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