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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
二章・友華 一部
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   これからのオカ研③

「と、友華ちゃん! 私が、本当に部長でいいの?」

「ええ。前までのお前なら少し不安があったけれど、文化祭で吹っ切れたのならもう大丈夫でしょう。自分を受け入れるようになれたのなら、これ以降立ち止まることはあっても躓くことはないはずよ」

「うう、友華ちゃーん!」

「こら、抱き着かないの! 重いんだから!」


 感極まって友華に飛び掛かった鈴音を、友華が邪魔そうに押さえるがどこか嬉しそうな顔をしていた。

 三年は文化祭が終わると引退。

 そんな当たり前のことが一度も頭をよぎることが無かったのは、文化祭と鈴音の問題を両立するので手一杯だったからか。それとも、友華が意図的に逸らさせていたのか。


 今になってはわからないが、多分どっちも関わっているのだろう。

 こういう時変に勘のいい孝宏は何かに気づいたのか、目を細めて難しそうに友華を見ている。


「あ、それなら友華の引退前に何か部活っぽいことしたい。私はあまり関われてなかったけど、それでも友華は凄く大切な友達だから」

「あ、それいいね! 私も賛成! もうすぐ夏休みだし、その期間中に何かする?」

「僕も賛成だよ。最後に思いっきり楽しみたいしね」

「楽しい事か……、オカルトで夏と言ったら」

「優作、それ以上口にするのはやめなさい」

「肝試し!」


 鈴音が元気いっぱいに口にした一言で、友華は頭を抱える。

 一瞬で悪い顔になりそれに同調したのは孝宏だ。


「いいね! 夏といえば肝試し! オカ研っぽい活動じゃん!」

「お前、わかっててやってるわね?」


 少しでも調子に乗った瞬間、睨まれてそのまま委縮していた。


「肝…試し!」

「アリス。そんなに輝いた目をしないで! 断れなくなるでしょう!」


 鈴音と同じくらい肝試しという単語に反応するアリス。

 流石の友華もここまで純粋な目で見られては一歩後ずさって注意し難そうにしている。


「じゃあ、やるか肝試し。友華も引退なんだ、最後に全員で何かやりたいって気持ちもわかる」

「優作も賛成だね! これで友華ちゃん以外全員賛成だから、肝試しは決まりってことで!」


「待ちなさい! 肝心の私が賛成していないでしょう! 肝試しなんて、ほら、危ないわよ! いいこと、最近若者の廃墟への不法侵入が問題になっているじゃない? その一因は肝試しなのよ。幽霊が出そうなところとして、古い家や神社に勝手に入って落書きや傷をつけたりするの。法律を犯してまで何で怖い思いをしたいのか理解に苦しむわね」


「部長命令!」

「うぐ! ……言うようになったじゃないの」


 何か長ったらしく言い訳を語っていたが、鈴音の一言で堪忍したようだ。

 幽霊が苦手なのでもちろん肝試しも嫌いな友華なのだが、自分以外の全員が賛成している状況では納得するしかない。


「えー、おっほん! それではオカ研夏休みの肝試し大会、決定だよ!」


 アリスの部屋に鈴音の声が響く。

 文化祭後の集まりで何故こんな話し合いになっているのかはわからないが、オカ研の全員が揃い楽しそうに話している姿を見ると、どこかで落ち着いている自分がいるのに気づいた。


 しかしだ。

 友華の表情が妙に引っかかる。

 昔から他人の顔色に注目して生きてきた俺だから、ただの考えすぎなのかもしれないけど何か違和感を覚えた。

 呆れたように肝試しを決めた鈴音を見ている、その光景はいつも通りなのだ。

 でも、哀愁というか慈愛というか。何か普段とは違うものが籠められているような気がしてならなかった。


「さて! そろそろ下に戻ろうか! 僕まだ料理食べたりないからね」

「うん! アリスちゃんも行こうよ!」

「もちろん。お父さんが心配しすぎなだけでまだまだ動けるよ」

「え、あの、本当に肝試しはするの? もっと熟考しても良いと思うのだけれど」

「まあまあ。決まったことだ、楽しもうぜ友華」

「お前、目がやらしいわよ」


 全員でアリスの部屋から一階の喫茶店のホールに向かう。

 その間のくだらない、ありふれた会話の中で俺の心配は杞憂へと変わっていた。


 その後。

「マスター、酒飲みすぎだって!」

「うっさいわ山元! そうやなあ……、折角やからアリスが昔おねしょした時の可愛い言い訳の話をしたるわ!」

「絶対にやめて!」

「孝宏。私に飲み物を持ってきなさい」

「へいへーい。あれ? 僕はいつの間にこんな扱いを受け入れているんだ!?」

「ぷはあ! 千夜子ちゃんのお茶は美味しいねえ!」

「うふふ。そう言ってもらえると嬉しいです」

「幸耀さん。この味付けなのですけれど何を入れていますの?」

「ああ、それはね、こっちにレシピがあったような……」

 全員が各々の楽しみ方で文化祭の余韻を味わったのだった。

「うむ! 全てが上手くいったようだな! これで文化祭も本当におしまいだ! 次からは新たな学校生活での出来事が楽しみだな! がっはっは!」

「お前がしめるのかよ!?」

 まあ、なにはともあれ。

 騒々しい喧騒に見舞われながらも、全員がそろったパーティーは終わりを告げる。




 ここにいる全員が揃うのは後にも先にもこの時だけだったんだ。

 




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