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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
二章・友華 一部
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   これからのオカ研②

「まったくお前らは、本当に早とちりな連中ばかりね。流石の私も呆れるわよ」


 友華が呆れたように息を吐いた。


 ぐ、今回ばかりは何も言い返せない。だからだろう。俺たちはアリスの部屋で椅子に座りこんでいる友華の前に横に並んで正座している。


 友華以外の全員は先ほどまでの自分の勘違いや行動を恥じて、なんとも言えない顔をした。


「い、いやーお恥ずかしいところを……」

「悪いのは優作の行動だったと思うんだけどー」

「私の部屋に友達がこんなに……! すごい」

「他の奴らは下に置いてきて大丈夫だったのか?」


 まあ、鈴音以外は反省している素振りは無かったけれど。

 予期せぬ事態だが、オカ研の部員がアリスの部屋に全員揃うような状況になっている。


 必要最低限の家具しか置かれていない部屋なのだが、さすがに高校生が五人も入ると少し狭く感じるな。

 部屋に入ったばかりの時はアリスに目を奪われてしまい、置かれている物にしか気が回らなかったけど、よく見るとこの部屋には違和感を覚える。

 床は木製で茶色いのだが、なんというか不気味なくらい綺麗な気がする。マスターたちは長いことここで喫茶店を経営しているから、そこそこの築年数がたっている筈なのに床には傷一つなかった。

 後は壁紙が真っ白なのだが、よく見ると友華の背後。勉強机が接している壁と天井との境目には焦げ跡のような黒い何かがついていた。

 まるで壁紙で埋めるように隠されている跡。あれは一体……。


 床が妙に綺麗すぎるのと何か関係しているのか?

 こう。部屋ごとリフォームしたとか……。


「私が言うのもあれなのだけれど、お前たちはもう少し協調性を磨きなさい」


 俺の思考は友華の一言で中断される。


「私がいなくなったらどうするつもりなのかしら?」


 耳にかかった長い黒髪をかき分けてそう口にする。


 少し、本当に少しだけだけど、友華の表情が曇ったように見えた。まるで、何かを隠しているかのように。


 友華がオカ研からいなくなったら……。

 そんなこと考えたこともなかった。


「いなくなったらって、どうしたの急に?」


 孝宏も同様の疑問を感じていたようで質問する。

 友華は何をいまさら聞いているのかしらといった顔をした。


「急にも何も、文化祭が終われば三年生は引退するのが当たり前じゃない。夏休みにも部活に参加する三年なんていないわ、受験もあるのだし私は普通に引退するわよ。あ、次の部長は鈴音に任せるわ」


 な……。


「「「なんだってええええええ!?」」」


 友華以外の全員の声が重なる。

 あまりにも唐突すぎる内容に全員驚いていた。


「友華ちゃん今年中に卒業できたの!?」

「俺はてっきり、留年して部長を続けるんだと思ってたぞ!」

「つ、次の部長は私って本気で言ってるの!?」

「友華って三年生だったの!?」


 各々反応をするがそういえばアリスは今年オカ研に入ったから、友華が先輩だって知らなかったのか。

 全員タメ語で接していたから、気づかなかったのも無理はない。


「地味にアリスのが一番傷つくわね。――今年で卒業するし、当然部活も引退するわよ。部長に鈴音を選んだのは、私が知る限り鈴音が一番オカルトに興味がありそうだったかしらね。アリスも幽霊に関しては関心がありそうだけれど、鈴音はどちらかというとその他のあらゆるオカルト現象に精通しているから。部長としては適任だと思ったのよ」

「へ、へー」

「意外と、ちゃんと考えてるんだね」


 孝宏と感心したように頷く。

 友華は普段こそ特に何も考えずにパソコンをいじっていそうな印象が強いが、やはり自他ともに天才と認めているだけあってその観察力には確かなものがある。


 アリスが以前は幽霊だったことも推測だけで見抜いたのだ。部長に鈴音を任命するのは、口で言った理由とそれ以外にも色々な考えの上で決めていそうだ。


「友華、さん。部活を辞めるのは、受験勉強のため、ですか?」

「やめなさい、下手な敬語は使わないで結構よ。受験というよりかは、何というか理由は色々とあるわよ。少なくとも勉強の方は心配していないわ。私、天才だから」

「そうなんだ? まあ、友華が決めたのなら良いと思う。この後も部活に偶には顔を出してくれると嬉しい」

「……ええ。ありがとう」


 勉強が理由ではないのに引退か。

 何というか友華らしくないな。周りがそうすることが当たり前だから、なんて理由では友華はまず辞めないだろう。そんなに聞き分けが良かったら、友華は授業をサボったりなんかしない。


「え? 勉強が理由じゃないんだ?」


 再度孝宏が疑問を口にする。


「ええ、海外に行くつもりはないのだから。国内で私が落ちる大学があると思うの? 」


 その発言は決して誇張ではないことを、この場の誰もが理解できた。


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