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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
二章・友華 一部
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二十六話・これからのオカ研

「はあ、はあ、びっくりした……」

「こ、こっちのセリフだ。馬鹿……」


 あの後、何とか誤解を解いてアリスと和解する。

 一度は完全に変質者と間違われたので、アリスは今も俺との距離をいつもより空けている気がする。

 アリスが窓側のベッド。俺はその反対の壁にある、ドアの横に正座していた。


 ベッドの上に座りながらジト目で布団を壁のように持ち、顔を半分だけ出して俺を見てきている。

 うん。かわいい。


「馬鹿って何。私は本当にびっくりしたんだもん……、バカ」

「ああ、いや、悪いな。驚かせたかったわけじゃないんだ、本当に」


 確かに普段は自分かその家族しか立ち入らないスペースに部外者の男がいたら不安にもなるよな。

 というか完全に俺が悪いのだから、素直に謝罪するのが一番だった。


「むう……まあ、山元が寝ている人を襲う度胸があるとは思わないから信じるけど。今度からはもうちょっと気を付けてよね」

「お、おう! 次は気をつける!」


 今度って……。こんな機会もう二度と来ないと思うんだが。

 まあ、そろそろこの話は終わりにしよう。下手に続けると何かボロが出そうで怖い。

 アリスも少しは落ち着いたようなので、本題に入ることにする。


「そ、それとな。さっきも少し言ったんだけど、体調はもういいのか? マスターが限界とか言ってたから、体がまだ万全じゃないんだろ」


 言い終わった辺りでアリスは布団をおろして、不思議そうに俺を見ていた。


「まあ、確かに今日は少し動きすぎたけど、このくらいだったら大丈夫だよ。明日になれば治ってると思う」

「そうか」

「うん」

「……」

「え、本当にそれだけだったの!?」


 アリスは突然、驚いたように目を丸くした。

 それだけって。それ以上にこの部屋を訪れる用事なんか俺にはないだろう。アリスのことに興味がないわけではないが、寝込んで疲れているアリスを相手に本当に浮ついた考えを持てるはずがない。

 流石にその辺の分別は出来る。


「いや、まあ、それしかないな。幸耀さんにもお願いされたし、俺も心配だったし」

「……や、まあ。それは嬉しいんだけど。もう」

「悪い。何か気に障ることしてたか?」


 鈴音の件でもあったが俺は自分でも知らない内に相手に失礼な事を言ってしまう事がある。もしかしたらさっきのセクハラ的な勘違い以外に何かしていたのかもしれない。

 しかし、アリスは何故か俺の言葉にバツの悪そうに頬をポリポリかいた。


「うう、何か私が変な子みたい。というか、二人っきりでも何もしてくれないんだ……」


 最後の方は聞き取れなかったが、妙にアリスの頬が赤い気がする。

 もしかして俺の前では変に気を張っているだけで体調が悪いのだろうか?


「なあ、アリス。少し動くなよ」


 立ち上がってアリスに近づく。疑問そうに首を傾げているが気にすることなく、俺はアリスの額に手を当てた。


「ふわあ!」


 びくりと肩を強張らせるアリス。

 うん。やっぱり少し熱っぽいな。


「アリス。お前……」


 人前で気を張るのは癖なんだろう。こんなことを続けていては心配だ。


「ひゃ、ひゃまもと! その、幾ら何でも早すぎるよ! 準備が出来てないの!」

「準備? 何言って――」


 ガシャン。

 背後から何かが落下する音が聞こえた。


 振り向くとそこには孝宏と鈴音が立っており、音の原因は鈴音の手から何も載っていない鉄のトレイが落ちたからだった。

 二人もアリスが心配で来てくれたのだろう。


「お、お前らも来たんだな」

「鈴音、斉場! これは違うの!」


 何故か必死に誤魔化そうと焦るアリス。

 どういうわけかはわからないが、入り口付近にいる二人は固まっていた。


 アリスの顔が赤くなっているのに驚いているんだな。さっきよりも紅潮しているので、あの位置からでもアリスの体調不良がわかるのかもしれない。

 最初に喋ったのは孝宏だ。

 わなわなと震えたまま、まるで世界の終りのような表情をしながら絶叫した。


「え、エッチなことしてるー!」

「ゆ、優作―、アリスちゃんとやっぱりそうだったの……」


 絶句する孝宏。悲しそうに泣く鈴音。顔を手で隠してうずくまるアリス。

 事態はカオスを迎えていた。


「待て待て! 何があったんだよ!? お前まで似たような反応しやがって!」


 孝宏に言うも、既に話を聞くような状況ではなく魔眼をもっていたら人を殺しそうな勢いで睨んでくる。


「お、お前、見損なったぞ!」

「何がだよ!?」

「あーはいはい。お前らうるさいわよ。何があったのかしら?」


 入り口からアリスの部屋を覗き込むようにひょこっと顔を出したのは、我らが頼れる部長の友華だ。

 今は……、心底呆れたように俺たちを見まわしているけど。


「本当に、何があったらこんな状況になるのよ……」


 オカ研の廃部が危惧された時よりも、さらに面倒くさそうな顔をしながら部屋に入ってきた。


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