文化祭の後に
文化祭が終わった。
わが校には後夜祭のようなものは無いので、生徒はそのまま帰宅することになる。
多くの場合はそのまま各々カラオケやファミレスで打ち上げという形になる。
例にもれずオカ研の部員、そして今日の文化祭でオカ研の店を手伝ってくれたメンバーで俺たちも集まっている。
アリスの実家である喫茶店【司】のホールを貸し切っての贅沢な打ち上げだ。
マスターに本当にいいのか尋ねたが、今日はそもそもお店を開ける予定は無いそうなのでむしろ大歓迎や、と言っていた。
今回の文化祭の目標である全出店の中で売り上げ三位内に入ること。
それが出来なければオカ研は廃部になる。
その結果は先ほど友華に校長から連絡が来て俺たちにも伝えられた。
まあ、お店を貸し切っての打ち上げを友華が提案してきた時点で何となく結果は察していたんだがな。
ホールの中心。孝宏が全員の前でグラスを片手に挨拶をする。
「おっほん! それじゃあ、今回の文化祭。無事売り上げ二位になり目標を達成したことを祝して、カンパーイ!」
「「「かんぱーい!」」」
全員の声が重なる。
色々あったが全てが上手くいったので、ようやく一安心だ。
目の前には今日の材料の余りで作られた料理と、あとはマスターたちがこれだけじゃ足りないやろと用意してくれた軽食が並んでいる。
「ああああ! 疲れたああああ!」
誰よりも先に気を抜いて椅子に座りこんだのは、久しぶりにこの場所を訪れた飛鳥だ。
生徒会として文化祭期間は本当に忙しそうにしていたので、この中で誰よりも疲労していただろう。一応学校では完全無欠な副会長のイメージを守るよう気を張っているらしいが、最近はだいぶ崩れてきた気がする。
「飛鳥ちゃん疲れてるね! これ食べる?」
「ありがとう鈴音―。あなただけが優しいわー!」
鈴音に抱き着いて泣き出した。こりゃ相当きつかったんだな。
「今更ですが私たちはお呼ばれしてもよかったのでしょうか?」
知覧が俺の横に来て申し訳なさそうに聞いてくる。
「何言ってるんだよ。知覧がいなかったら売り上げ三位以内は厳しかったんだから、来てくれて嬉しいよ」
「そうですか。それなら遠慮なく楽しませてもらいます」
「がはは! 楽しめ楽しめ! 今日は無礼講だぞ!」
「お前、それは私が言うセリフなのだけれど……」
実際知覧たちがいなければ、鈴音の件と文化祭の売り上げを同時に達成するのはかなり難しかった。
本当に感謝してもしきれないくらいの借りができたな。
「おーっほっほっほ! 文化祭の売り上げ二位おめでとうございます! まあ、我が料理研究会は一位ですけど!」
空気の読めなさに関しては友華を遥かに凌ぐ山川が、何故かその売り上げ二位を祝した会で煽りを始める。
「友華ちゃーん。なんか言われてるけど無視でいいの?」
「ふふ、いつもなら拳骨くらわせる所だけれど今日の協力に感謝してるから見逃してあげるわ。奏から聞いた話だと、一番しっかり手伝ったのはあの子らしいもの」
珍しい。友華が挑発に乗らないなんて。
今日の成果が上々だったことに、顔には出さないが内心舞い上がっているのかもな。
「あらららら! 如月友華も遂に私の有能さに気づいたようですわね! オカ研の手伝いをしてあげたことを感謝するが良いですわ! ざーこ、ざーこ! 文化祭売り上げ二位!」
山川は調子に乗って煽りを続ける。
こいつは根っこの方は良いやつだとは思うんだが、如何せん普段の態度がなあ……。それさえなければ完璧だろうに。
「知覧。お願いするわ」
「はい。了解ですー。山川さん少しこちらに」
「いいですわ、今日の私は乗りに乗っていてよ! いつものように簡単に屈するとは思わない方がよろしくてよ!」
知覧が山川の背中に手を当てて逃げられないようにしてから、店の奥の方へと誘導していく。
俺はグラスに入ったお茶を飲みながらその様子を眺める。
二秒後。
「ぶえええん! わからされたですわー!」
号泣しながら山川が出てきた。
もうわざとやっているとしか思えないが、友華はその様子を見て面白そうにお腹を押さえて笑っている。
「ほんま賑やかな奴らやな」
マスターがお酒の入ったグラスを持って、俺の横に並ぶ。
「お、マスター。今までどこにいたんだ?」
「ん? ああ、アリスがそろそろ限界やからな幸耀さんと上に運んどったわ」
「アリスが限界?」
よくわからない表現に俺はそのままオウム返しをする。
マスターはまるでいつもの事のように呑気な表情で、グラスに入っていたお酒を一気に飲み干してから、俺に視線を向けた。
「ぷはあ! ま、聞くよりも見る方が早いやろ。幸耀さんがおるから二階に行ってみいや」
マスターからの意外な提案。
少し驚いたが、気になるので乗らしてもらうとしよう。




