十九話・純粋な善意
「うう、暇!」
「黙って手を動かせよ。今日中に看板終わらすぞ」
地面の上で板を押さえていたアリスがその上に寝そべった。
友華と孝宏は鈴音の所に行っており、オカ研の部室には俺とアリスがいる。
そして現在は俺が知り合いから貰ってきた当日に店の前に置く看板を作っている。
【オカルト喫茶】という文字と一枚の大きな板を渡されたのだが、予想以上に上手く作られていた。文字には血のようなものが滲んでいる物もあるし、板は黒く塗られていてお化け屋敷の看板のようだがオカルト研究会の店だとは通行人に伝わりやすいだろう。
トンカチを使わせるのは怖いのでアリスには板を押さえてもらい、俺が接着剤と釘で文字をつける作業中。鈴音の家に行けず留守番をくらった時から不満そうだったアリスが、遂に作業を投げ出した。
「私も鈴音のとこ行きたかった……」
「拗ねるなって。大勢で行ったら迷惑だろ、今日は友華と孝宏に任せようぜ」
「意地悪」
「言っとけ」
アリスを半ば無視しながら作業を続ける。
昨日鈴音に攻撃されたアリスだが全く気にしていないようだ。まあ、それで他人を嫌うような奴ではないと思ったが、ここまで普通だとこっちが拍子抜けした気分になる。
「あとさ優作」
「どうした?」
「どうして山川がいるの?」
珍しく不満そうに視線をずらす。その先には俺たちが作業の為にずらしたソファーに座って優雅にティーカップに入れた紅茶を飲んでいる山川がいた。
この前は結構好印象そうに山川を見ていたアリスだが、今日は少し不機嫌気味だ。二人の間で何かあったのだろうか?
「あら、アリスさんは知らないのでしょうが私は月一でオカ研の部室に来ていましてよ。とあるお方との戦いのために」
「なんでこの部室なの?」
「以前二人でやらしたら学校を巻き込んだ騒動になってな。校長からの命令でこの部室で、オカ研の部員が立会人になるっていう条件が出されたんだ。その上でやりあえってな」
「決闘は認められるんだ!?」
この学校についての新常識に驚くアリス。
その時ちょうどタイミングよく部室のドアが開けられた。
決闘相手の訪問である。
「お邪魔します。今月もご迷惑おかけしますね」
礼儀正しく部室に入ってきたのは茶道部の知覧だ。
手には風呂敷に包まれたお茶のセットを持っている。
「千夜子? 二人が何かするの?」
山川はともかく知覧は普段は温厚で虫も殺さなそうな性格をしている。大方、決闘という単語は似合わないだろう。
疑問符を浮かべるアリスの問いには俺から返答しておく。
「ああ。一年の時に山川が知覧茶よりも静岡産の茶葉の方が優れているって言って、料理研究会でお茶会企画をした時に静岡茶を出してな。そのことを知った知覧が知覧茶の魅力を理解するまでエンドレスにお茶を飲ませ続けたって話だ。殆どの料理研究会部員は面倒を避けたくて納得したんだが、山川だけは意地になって今も意見を曲げてないんだよ」
「ええ……。くだらな――くないよね。一大事」
うっかりとんでもないことを口走りそうになったアリスが、知覧の視線に気づいて咄嗟に訂正する。
危ないところだった。アリスまで謎のお茶会に巻き込まれるところだったな。
「おーっほっほっほ! 千夜子さん今日ものこのこいらしゃったのですわね、今回もボコボコにしてあげますわ!」




